第四話　　日常の始まり②

　
　side:リョウ
『・・・・ださい。・・・てください。起きてください。』
　俺は、目を覚ました。
　目の前には、輝いているかのように見える美女が立っていた。
「・・・あ、あの。ここはどこですか？」
「ようやく目を覚ましましたか。ここは死んだ者の魂が導かれる場所で、輪廻界と呼ばれています。」
「死んだ者・・・俺は死んだんですか？」
「覚えてませんか？　あなたは横断歩道を渡る途中で、スリップしたトラックの下敷きになって死んだのです。」
　そういえば、そうだった。
　確か、反対側の歩道に結衣ちゃんを見つけて・・・。
　っ！　トオル！
「トオルは？　トオルはどうなった？」
「トオル？　トオルとは誰ですか？」
「俺と一緒に帰ってたんだ。その途中で事故にあった。トオルは生きてるのか？」
「生きてるかどうかは分かりません。少なくともこの輪廻界には来ていません。」
「そうか・・・わからないか。」
　クソッ！　どうして動けなかったんだ俺は！

＊＊＊
　ゲーセンの帰り、徹と他愛もない話をしていると、反対側の歩道に結衣ちゃんを見つけた。
　徹が手を振ると、結衣ちゃんも気づいて、手を振り返していた。
　信号が青になったとき、曲がろうとしているトラックがスリップしたのが見えた。
　それからは一瞬だった。
　傾きながら滑り迫ってくるトラックを避けることもできずに正面からくらって、俺は意識を失った。
＊＊＊

「落ち着きましたか？」
「・・はい・・すみませんでした」
「いえ、お友達が生きてるのか死んでるのかわからないのは不安だと思います。」
「ありがとうございます。もう大丈夫です。ところで、あなたは？」
「はい。私はアリシスと言います。この輪廻界に来た死者の魂の願いを可能な限り叶える神です。」
「なるほど。質問いいですか？」
「はい。どうぞ」
「ここに来た魂は、基本的にどうなるんですか？」
「そうですね。大半は、天国に行って永久的な眠りにつくことが多いです。ですが、最近の若い人は、別世界、特に魔法がある世界に転生したがる人が増えていますね」
　恐らく最近、異世界転生系のラノベが増えてきているからだろう。
　やっぱり転生は憧れだよな。
「じゃあ俺は、魔法がある世界に転生したいです。そこで、最強になりたい。」
「最強になれるかは分かりませんが、基礎能力は上げておきますね。」
「ありがとうございます。」
「では、あなたが転生する世界の簡単な説明をします。先ず、その世界は『アテリオン』と呼ばれています。火、水、風、土、光、闇の六人の神と、その神達を造った神の七人で創り上げた世界で、たくさんの種族が存在します。ご存知の通り魔法が存在し、それを極めた者、魔王も存在します。あちらの公用語は日本語と同じですが、文字がまるで違うので、頑張って覚えてください。質問はありますか？」
「あ、一つだけ。地球と違うのは、たくさんの種族がいること、魔法が使えること、言語が違う、これだけですか？」
「はい。それで間違いありません」
「ありがとうございます。」
「それでは、転生しますね。目を覚ますのは五歳の誕生日を迎えた時になります。
「わかりました」
「では、良い人生を」
　アリシスは、満面の笑みで見送ってくれた。
　徹や結衣ちゃんが心配だが、俺は死んじゃったからな。
　もう如何しようもない。
　だったら次の人生を楽しんでやろう。
　俺は、これからの世界に大きな期待を抱きながら、光に飲まれて行った。


　side:アリシス
「トオル・・・。あの事故でその名前の子はこの世界の来ていない・・・。しかし、あの事故で約十人が死んでしまった。今の子と一緒に帰っていたのなら生き残ってる可能性は低い・・・。じゃあその子の魂はどこへ？」
　アリシスは何か良くない事が起きてるのではないかと不安に思うのであった。