俺は異世界でも探偵として生きていく
File.0 探偵さんの生活
「ふぅ…………」
口から白煙を吐き出しながら、俺は煙草の煙が染み込み、すっかり煤けてしまった見慣れた天井を見上げてため息を吐いた。
「今月も依頼ゼロ。どうしたもんかねぇ……」
ぐしゃぐしゃと手入れをしていないせいでぼさぼさの髪をかき回し、くたびれてそこかしこが汚れたコートを羽織る。
「「また依頼がないんですか?もっと頑張ってくださいよ!」なんて言ってくれるやつもいないしなぁ…」
そう、俺こと古畑亮二が営む古畑探偵事務所には、俺以外の人間は所属していない。
まあ、事務所は郊外のボロボロの雑居ビルの2階、帳簿は毎月零細、オマケに唯一の店員が高卒ときたもんだ。
こんな事務所に入るなんて、頭のイカれた奴でしかない。
「ッチ……タバコが切れたか……買いに行かねぇとな」
俺はヘビースモーカーだ。
それこそ煙草を吸っていないと目眩がする程の。
昔は禁煙を試みたりもしたが結果はもちろん全敗、ちなみに電子タバコにしても無理だった。あんな紛い物では満足出来ん。
二十歳で吸い始めてから、かれこれ十年近い付き合いだ。
俺はきっと肺炎か、なんにしろタバコのせいでで死ぬんだろうな。
そんな自虐的なことを考えながら、立ち上がった俺は事務所のドアを開く。
数十年前は賑わっていた街に喧騒は一切なく、今では寂れた雰囲気が漂っている。
昼間だと言うのにシャッターを降ろしている店が大半だからな、こんな場所に何故俺は事務所を構えようと思ったんだか。
「もうここも引越しした方がいいかしらねぇ……」
「ええ……」
ついうっかり道行くおばちゃん達の会話を読み取ってしまう。
親父に憧れて鍛えた読唇術なんて、こんな下世話なことにしか使えない。
漫画やドラマにあるような監視カメラから唇を読み取るなんて機会はほとんど無いし、殺人事件なんてそうそう起こるものじゃない。
というか起こって欲しくもない。
そもそもそんな大事件を一介の、警察とのコネクションもない俺が捜査できるはずもない。
そんな現実味のないことを考えながら、俺は廃れた商店街の隅にぽつんと残った煙草屋にやってきた。
「バァさん。いつものくれ。4カートンな」
そう言って店のカウンターに一万円札と千円札、それにいくらかの小銭を投げると、中から痩せ細ったバァさんが出てきた。
相変わらずこのバァさんは気配がないな。
「あいよ、亮ちゃん。事務所は最近どうだい?」
「あー……今月も依頼なしだ」
痛いところをついてくるもんだ。
このバァさん、何かと俺の事を気にしてくれるいい人なんだよな。
こうやって痛いところを的確についてくるのが玉に瑕だが。
「大丈夫かい?お金はあるのかい?」
「ああ、それに関しちゃ問題ねぇよ。株で稼いでっからな」
「そうなのかい。はい、4カートン」
早速受け取った煙草に火をつけ、吸い込んだ後に煙を吐き出す。
「ふぅ……やっぱ徒花は最高だな」
徒花。
花を咲かせない蕾。
無駄なもの。
そんな言葉の意味に則ったのか、メーカー自身が煙草を「普通ならいらないもの」としている。
しかし、「いらないものだからこそ本気でやろう」というメーカーの悪ノリ半分の精神により爽やかで、それでいて奥深いフレーバーになっているのだ。
そんな経緯もあって、この煙草の愛煙家は多い。
かくいう俺も徒花に出会ってからは徒花しか吸っていない。
ほかの煙草も良いのだが何か足りない感じがしてしまうのだ。
バァさんから受け取った4カートンの煙草とお釣りの入ったビニール袋を揺らしつつ、俺は帰途についた。
「最後に事件を解決したのはいつだったかねぇ……」
事務所の机に買ってきた煙草を放り投げ、くたびれた安楽椅子で煙草をふかしながら、俺は過去を思い出す。
数年前、不倫の証拠を集めて裁判をひっくり返した時だったか?
そんなことを考えていると、不意に眠気と心臓の辺りに痛みが襲ってきて、俺は意識を手放した。
あぁ、死ぬのかな。
買ってきた煙草を吸ってから死にたかったな。
死に際にでも煙草のことを考えてしまう俺は、ろくでもない死に方しかしないんだろうな。
はい、趣味で書き始めたものです。
徒花なんてリアルにはありませんのでご安心を。
※作者は煙草を吸ったことがないし、煙草を宣伝しているわけでもありません。
ご理解とご協力の程よろしくお願いします。
また、この発言も喫煙者の方を害する意図のものではありません。
口から白煙を吐き出しながら、俺は煙草の煙が染み込み、すっかり煤けてしまった見慣れた天井を見上げてため息を吐いた。
「今月も依頼ゼロ。どうしたもんかねぇ……」
ぐしゃぐしゃと手入れをしていないせいでぼさぼさの髪をかき回し、くたびれてそこかしこが汚れたコートを羽織る。
「「また依頼がないんですか?もっと頑張ってくださいよ!」なんて言ってくれるやつもいないしなぁ…」
そう、俺こと古畑亮二が営む古畑探偵事務所には、俺以外の人間は所属していない。
まあ、事務所は郊外のボロボロの雑居ビルの2階、帳簿は毎月零細、オマケに唯一の店員が高卒ときたもんだ。
こんな事務所に入るなんて、頭のイカれた奴でしかない。
「ッチ……タバコが切れたか……買いに行かねぇとな」
俺はヘビースモーカーだ。
それこそ煙草を吸っていないと目眩がする程の。
昔は禁煙を試みたりもしたが結果はもちろん全敗、ちなみに電子タバコにしても無理だった。あんな紛い物では満足出来ん。
二十歳で吸い始めてから、かれこれ十年近い付き合いだ。
俺はきっと肺炎か、なんにしろタバコのせいでで死ぬんだろうな。
そんな自虐的なことを考えながら、立ち上がった俺は事務所のドアを開く。
数十年前は賑わっていた街に喧騒は一切なく、今では寂れた雰囲気が漂っている。
昼間だと言うのにシャッターを降ろしている店が大半だからな、こんな場所に何故俺は事務所を構えようと思ったんだか。
「もうここも引越しした方がいいかしらねぇ……」
「ええ……」
ついうっかり道行くおばちゃん達の会話を読み取ってしまう。
親父に憧れて鍛えた読唇術なんて、こんな下世話なことにしか使えない。
漫画やドラマにあるような監視カメラから唇を読み取るなんて機会はほとんど無いし、殺人事件なんてそうそう起こるものじゃない。
というか起こって欲しくもない。
そもそもそんな大事件を一介の、警察とのコネクションもない俺が捜査できるはずもない。
そんな現実味のないことを考えながら、俺は廃れた商店街の隅にぽつんと残った煙草屋にやってきた。
「バァさん。いつものくれ。4カートンな」
そう言って店のカウンターに一万円札と千円札、それにいくらかの小銭を投げると、中から痩せ細ったバァさんが出てきた。
相変わらずこのバァさんは気配がないな。
「あいよ、亮ちゃん。事務所は最近どうだい?」
「あー……今月も依頼なしだ」
痛いところをついてくるもんだ。
このバァさん、何かと俺の事を気にしてくれるいい人なんだよな。
こうやって痛いところを的確についてくるのが玉に瑕だが。
「大丈夫かい?お金はあるのかい?」
「ああ、それに関しちゃ問題ねぇよ。株で稼いでっからな」
「そうなのかい。はい、4カートン」
早速受け取った煙草に火をつけ、吸い込んだ後に煙を吐き出す。
「ふぅ……やっぱ徒花は最高だな」
徒花。
花を咲かせない蕾。
無駄なもの。
そんな言葉の意味に則ったのか、メーカー自身が煙草を「普通ならいらないもの」としている。
しかし、「いらないものだからこそ本気でやろう」というメーカーの悪ノリ半分の精神により爽やかで、それでいて奥深いフレーバーになっているのだ。
そんな経緯もあって、この煙草の愛煙家は多い。
かくいう俺も徒花に出会ってからは徒花しか吸っていない。
ほかの煙草も良いのだが何か足りない感じがしてしまうのだ。
バァさんから受け取った4カートンの煙草とお釣りの入ったビニール袋を揺らしつつ、俺は帰途についた。
「最後に事件を解決したのはいつだったかねぇ……」
事務所の机に買ってきた煙草を放り投げ、くたびれた安楽椅子で煙草をふかしながら、俺は過去を思い出す。
数年前、不倫の証拠を集めて裁判をひっくり返した時だったか?
そんなことを考えていると、不意に眠気と心臓の辺りに痛みが襲ってきて、俺は意識を手放した。
あぁ、死ぬのかな。
買ってきた煙草を吸ってから死にたかったな。
死に際にでも煙草のことを考えてしまう俺は、ろくでもない死に方しかしないんだろうな。
はい、趣味で書き始めたものです。
徒花なんてリアルにはありませんのでご安心を。
※作者は煙草を吸ったことがないし、煙草を宣伝しているわけでもありません。
ご理解とご協力の程よろしくお願いします。
また、この発言も喫煙者の方を害する意図のものではありません。
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