愛される王女の物語
陛下
「……なんだレオン」
「陛下…いえ、父上。今やっている執政よりも大切なお話です。」
テノールボイスの男性は眉を動かし手にしていた紙を机の上に置いた。そしてこちらに視線をやる。
「……誰だ?」
男性は私を視野に入れると静かに問いてくる。そして、隣のお兄さんが何かに気づき私の手を離してしゃがみこむ。
「あ、よかったら君のお名前を教えてくれるかい?」  
男性からの恐怖さえ感じてしまうような視線に耐えながら、メイドがよくやっているカーテシーを見様見真似でやってみる。
「私は、シルフィオ、ーネ・クラン・カス、ティリアと申し、ます。」
2人が息を飲んだ。
そして妙な沈黙の中、男性が口を開く。
「今いくつだ?」
「はい、先日で12歳にな、りました。」
「…今までどこに住んでいた?」
「はい、後宮、にごさ、います。」
二人がお互いに険しい顔つきで話し合う。一体この方々は何者なのか……
そういえばっと思い出す。部屋に入った時、お兄さんはレオンとやばれていた。そして、男性はお父様と。
レオンって第一王子の名前と一緒だ。
よくある名前なのかな…ていうかここどこ。
お兄さんは私の顔に手を近づけた。
髪をすき、瞳を見つめてくる。
「…父上の瞳と同じ色ですね。」
「…」
「シルフィオーネ、か……。マーサ」
お兄さんに呼ばれたマーサという女性は私を連れて部屋から出た。
そのまま別室に連れていかれる。
「シ、シルフィオーネ様、王宮侍女のマーサでございます。よろしくお願いします」
「え、はい。よろし、くお願いし、ます?」
何をよろしくなのだろう。
すると、お風呂に連れていかれ服を脱がされる。そのまま体も頭も洗われ柔らかいタオルで拭いてもらう。バサバサの髪の毛を切りそろえ、着たこともないような高そうな青色のドレスを着せられた。
そうして、またさっきの部屋に連れてこられる。
「……かわいい」
部屋ではまだお兄さんと男性がお話をしていらっしゃった。私はマーサさんに案内されたソファに大人しく座る。
「こちら、喉に聞くお薬でごさいます。」
出された飲み物は今までに飲んだこともないほど甘く、飲みやすかった。すーっと喉に馴染む。
すると、隣にお兄さん。向かいに男性が座った。お兄さんが口を開く。
「シルフィオーネ。僕の名前はレオン・クラン・カスティリア。聞いたことある?」
メイドのミーナから聞いたことがある。
私にはもう1人、お母様の違う異母兄弟?がいて、その人はレオン・クラン・カスティリアという、17歳には思えないほどの美しい人だと。
やはりこの人が第1王子…ならばお父様であるこの方が国王陛下ということよね…
「メイドか、ら聞いたこ、とがございます。」
「メイドから…そう。では、この方のお名前はわかるかい?」
そう示されるのは、テーブルの向こうに座る男性。もとい国王陛下。目はシワがよって不機嫌をあらわにし、体の大きさがその迫力に拍車をかけている。
こちらを見る双方の青い眼差しがいかに鋭いことか。微かながらに震える両手を抱きしめ、ひたすらに考える。
だが、考えても考えてもわからない。
だって知らないのだから。
そうして、私が口を開く前に
その陛下は立ち上がって部屋を出ていかれた。
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