神様のヒトミ

さとう

123・まさかのまさか



 アイトもルゥもランも、呆然とした。
 ギャングだけが素早く動いた。


 「ウルフィーナ!! どうした、しっかりしろ!!」
 「う、へ、平気よ……」
 「ウルフィーナ姉様!! ああ、どうして……」
 「落ち着いて!! ギャング様、そこのソファへゆっくり移動してそれ以上は動かしてはいけません。それとルゥちゃん、魔術医の手配を、ギャング様はウルフィーナ姉さんの傍へ、私はお水をお持ちします」
 「わ、わかった。すまないラン」
 「わ、私は魔術医を……」


 アイトは、ここでようやく覚醒した。
 魔術医と言えばエルしかいない。町には新たに数名の魔術医が赴任し、エルの教えを受けながら治療に当たっているが、それでもエルに匹敵する魔術医はこのデズモンド地域には居ないはずだ。


 「お、俺が、俺がエルを連れてくる!!」




 アイトは玄関に向かわず窓を開け、全力で『雷駆ライク』を発動させて飛び出した。




 ***********




 アイトは1分でエルの診療所へ到着した。
 本来は30分掛かる道のりだが、全力のアイトなら1分で到着する。


 「あ、アイトくん。今日はもう終わり、これから帰るね。よかったら一緒に」
 「エル!! ウルフィーナさんが倒れた、一緒に来てくれ!!」
 「え、えぇっ!?」


 診療所の中には若い女性の魔術医が居た。
 どうやら待機医らしく、診療所に増設された仮眠室に向かうようだ。
 アイトの剣幕に驚き、ただ事ではない様子に驚いていたが、アイトはそれが見えていなかった。


 「行くぞ、掴まってろ!!」
 「え、ちょ、わぁぁっ!?」


 アイトは息も整えず『雷駆ライク』を纏い飛び出した。
 そして1分後、執務邸に戻ってきた。


 「あ、アイト様!? は、早っ!?」
 「まぁ!?」


 ルゥとランが驚いているがアイトは無視。
 若干目を回してるエルを降ろし、ウルフィーナの傍へ。


 「え、エル殿、ウルフィーナは……」
 「下がって」


 ウルフィーナを見たエルは、真剣な表情に切り替わりギャングを下がらせる。


 「ウルフィーナさん。聞こえますか?」
 「……は、はい」
 「ちょっと看ますね、楽にしてください……」


 エルの手が淡く発光し、ウルフィーナの身体を触れない程度の位置でゆっくり揺らす。
 このアビリティは『診断掌スコープハンズ』という、身体の異常を調べるエルの【第三異能サードアビリティ】だった。


 「え……こ、これって……」


 エルの声が驚きに変わる。
 その声を聞いたアイトたちは不安に包まれ、エルの手の発光が消えた。


 「え、エル殿!! ウルフィーナは、妻は……!!」
 「ウルフィーナ姉様、あぁ……」
 「おいエル、どうなんだよ!!」
 「……まさか」


 ランは何かに気が付いたのか、アイトたちは恐怖の表情で確認する。
 するとエルは振り返り、満面の笑みを浮かべた。




 「おめでとうございます。どうやら双子の赤ちゃんですね」




 ***********




 静寂。
 アイトとギャング、そしてルゥはポカンとしていた。


 「あらら、おめでたいですねウルフィーナ姉さん。双子ですって」
 「双子……そう、やっぱり妊娠だったのね」
 「はい。元気に育ってますよ。性別は……男の子と女の子です」
 「ああ……」


 ウルフィーナは安堵の表情を浮かべ、自身のお腹をさする。
 ランとエルはニコニコし、未だ覚醒しないアイトたちに言う。


 「ギャングさん、しっかりして下さい、パパになるんですよ?」
 「……お、オレの子? オレが……パパ?」
 「は、ははは……マジかよ?」
 「う、ウルフィーナ姉様……」


 ギャングはウルフィーナの腹に手を当てる。


 「お、おぉぉ……おぉぉぉ……」
 「ギャング……」


 ギャングの肩は震え、そして立ち上がる。


 「こ、こうしてはいられん。エル殿、どうすれば!? ウルフィーナは動かしても平気なのか? 身体を冷やさない方が……ああ、どうすればいい!?」
 「お、落ち着いて下さい。取りあえず動かしても構いませんが、しばらくは安静にして、栄養のある物を」
 「わ、わかりました。アイト様、申し訳ありませんが、失礼します!!」
 「きゃぁっ!? ちょっとギャングっ!?」


 ギャングはウルフィーナをお姫様抱っこし、そのままゆっくり出て行った。
 残された4人は驚いたが、直ぐに復活した。


 「さてラン、これから忙しくなるわ。ウルフィーナ姉様の分まで仕事をするわよ」
 「ええ。ギャング様の分もね」
 「エル、これからウルフィーナさんが出産するまで、様子を見ててくれるか?」
 「もちろん!! 私の全てのアビリティを駆使してサポートするね!!」
 「となると、【梵天領土】行きは延期かなぁ……」
 「いえアイト様、予定通り明日、出発して下さい」
 「え、でも」
 「いいんです。自分のせいでアイト様の出発が無くなったと知ったら、ウルフィーナ姉さんは自分を責めます。それは母体に良くないので、姉さんの精神に負担を掛けないように、いつも通りの仕事をお願いします」
 「……わかりました。じゃあ、領主代行を2人に命じます。ウルフィーナさんが帰って来るまで、お互いをサポートして事務に当たって下さい」
 「「はい、アイト様」」




 ウルフィーナ妊娠のニュースは、瞬く間に広がった。




 ***********




 翌日。アイトとクナイは予定通りに出発した。


 ウルフィーナをギャングの家には、毎日誰かが様子を見に行く事になった。
 特にミコト達は気になるのか、学校の帰りにウルフィーナの家に寄ることが多くなり、子供達のためにギャングはお菓子を大量に準備することが多くなった。
 シアは特に気になるのか、同じ狼人であるウルフィーナにはよく懐いていたので、常に心配しつつギャングに様子を聞いたり話を聞いたりして過ごしている。
 ウルフィーナ自身は落ち着かないのか、執務邸に顔を出し、ルゥとランの仕事のサポートに回っている。
 ギャングがやたらハラハラするので、仕方なしに家に帰ることも何度もあった。
 エルも毎日仕事終わりにウルフィーナの家に寄り、健康診断をしたりして容態を確認し、ギャングを安心させた。
 出産はまだ先だが、赤ちゃんは元気に育っているようだ。


 「まさかのまさか、ウルフィーナさんが妊娠か……」
 「驚きましたね。ですがおめでたいことです」
 「ああ、エル曰く、魔帝族は受精こそしにくいけど、出産までは早いらしい。早くて2ヶ月だとか」
 「なるほど、では主殿がフェンリル国で総会を終えて、暫くしたらということですね」
 「だな。お祝いしないとな」
 「はい。盛大に行いましょう」


 アイトとクナイはヘッジヴァイパに転移し、そこから【梵天領土】へ入る。
 今は【梵天領土】の国境へ向かうため、2人乗りの魔導車を走らせていた。


 「【梵天領土】は岩石地帯が多いです。魔導車が走れない地形がありますので、その時は歩きで行くしかありません。まずは国境を越えた先の集落へ向かいましょう」
 「ああ、相変わらず下調べバッチリだな……」




 2人を乗せた魔導車は、国境へ向かい進む。 



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