神様のヒトミ

さとう

122・プレゼント



 アイトはラクシャーサを探し、再び町へ。
 すると、建設中の建物の前で、大工の棟梁らしき人物と話すラクシャーサを発見した。


 建設中の建物は〔梅湯〕で、〔桜湯〕の人気がありすぎて急遽建設プランに加えられた2号店だ。 
 設備はもとより、規模も〔桜湯〕と同等の物を兼ね備えた温泉施設で、ゆくゆくは3号4号とオープンするプランも上がっている。


 「ラクシャーサさーん、こんにちはー」
 「ん? ああアイトくん、こんにちは」


 アイトの存在に気が付いたラクシャーサは、笑顔で挨拶する。
 棟梁は会釈すると仕事に戻り、アイトたちは2人になった。


 「町や人の声を直に聞くのはやっぱりいいね」
 「はい。俺もそう思います。あの、少し時間いいですか?」
 「構わないけど、どうしたんだい?」
 「えっと、ここじゃアレなんで執務邸へ」




 アイトたちは、執務邸に向かった。




 ***********




 「ウルフィーナ姉さん、この書類なんだけど……」
 「ラン!! ウルフィーナ事務長と呼びなさいと言ってるでしょうが!!」
 「あら、いいじゃないルゥちゃん。仕事はキチンとこなしてるし」
 「ラン……、ルゥの言う通り、仕事中は姉さんは止めて欲しいのだけれど……」
 「あらら、ギャング様、私はどうすれば?」
 「………オレに聞くな」


 何やら、楽しそうな会話が聞こえる。
 アイトとラクシャーサは苦笑すると、ゆっくりドアを開ける。


 「ただいま戻りましたー」
 「お邪魔するよ」


 すると、ランにつかみかかっていたルゥと、されるがままのラン、頭を抱えるウルフィーナと、我関せずのギャングがアイトたちを迎える。


 「お、お帰りなさいませアイト様、ラクシャーサ様!!」
 「お帰りなさいませ。ではお茶を煎れますのでどうぞお席へ」


 ルゥはランからパッと離れると敬礼し、ウルフィーナとギャングも立ち上がり敬礼、ランは敬礼すると給湯室へ向かう。
 ラクシャーサは備え付けのソファに座り、アイトも向かい合って座る。
 ランが紅茶を煎れると一口飲んで喉を潤し、アイトは切り出した。


 「実は、ラクシャーサさんに日頃のお礼をしようと思いまして、こんな物を用意しました」


 アイトは異空間からインストール用クリスタルとテレポクリスタルを出した。
 ラクシャーサは眉をひそめた。


 「これは……?」
 「これは《テレポクリスタル》です。これがあれば町や国の移動が格段に楽になりますよ」


 アイトは使い方を説明し、インストール用クリスタルを手渡す。


 「なるほど、これを飲めばアイトくんと同じ転移魔術が使えるのか」
 「はい。転移クリスタルでは俺が行ったことのある町しか転移できませんが、ラクシャーサさん自身がテレポーラを使えば、その制約は無くなります」
 「なるほど、実に素晴らしい……」


 ラクシャーサはインストール用クリスタルを摘まみ、一飲みした。
 そしてセーブポイントクリスタルに触れると、クリスタルは一瞬発光する。


 「これでいいのかな?」
 「はい。あとはこのセーブポイントクリスタルをフェンリル国に置けば、ラクシャーサさんが行ったことのある町に自在に転移できます。触れてさえいれば、人や物も自由に運べますんで、集団で視察なんかに出かけるときも便利ですよ」


 ラクシャーサを信用していないワケではないが、このセーブポイントクリスタルには数千の魔術が掛けられ、コピーなどが出来ないようになっている。
 《奇跡の魔術師》のアビリティを持つ【救世主】アイヒの技術は、この世界ではオーバーテクノロジーに近い物だからである。


 「一度設置すれば強固なプロテクトが掛かって動かせませんので、設置場所は慎重に選んで下さい。あと、ヘタにクリスタルを解析しようとすると防衛機能が働くらしいんで、ラクシャーサさん以外の人には触らせないほうがいいそうです」
 「わかった。これはフェンリル国の地下金庫に安置しておこう」


 ラクシャーサは立ち上がり、頭を下げた。


 「ありがとうアイトくん。オレのためにこんな……」
 「いやいや、ラクシャーサさんには世話になってますし、気軽に町に行けるようになれば、もっと時間も作れてシアも喜びます。だから、これはシアやリュコスさんのためでもあるんです」
 「……キミには適わないな。この借りは必ず返すよ」


 ラクシャーサはアイトに礼を言うと、セーブポイントクリスタルを安置するためにフェンリル国へ帰還した。
 その後も仕事を続け、夕方近くになったとき、事件は起きた。


 「ウルフィーナさん、今日はそろそろ……」
 「………」
 「ウルフィーナさん?」


 アイトがウルフィーナに声を掛けたところ、ウルフィーナの反応が無い。
 羊皮紙の束を持ったまま、ウルフィーナは口を押さえていた。
 訝しんだギャングが声を掛ける。


 「ウルフィーナ、どうした?」
 「………う」




 だがウルフィーナは、そのまま倒れてしまった。



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