神様のヒトミ

さとう

閑話・救世主の現在②



 ヴァージニアは、【救世主】たちに魔術指導を行っていた。
 とは言っても、彼女にはもう教える事は殆どない。


 それぞれの固有属性の確認、得意魔術の発動訓練、そして固有魔術の練習をこなし、最後に簡単な実戦形式で締めくくる。
 【救世主】の魔力は凄まじく、ヴァージニアの魔力総量の10倍以上はある。
 デューク王国最強の魔術師と言われたヴァージニアだが、その数値を聞いて軽く落ち込んだのは本人だけの内緒事でもあった。


 「さて、今日はこれまで。お疲れ様」
 「ありがとうございました。ヴァージニア先生」
 「ありがとうございます」
 「うん、今日もいい感じだったね」
 「ええ、私たち最強じゃね?」


 金田恭司かねだきょうじ田村たむらエリはヴァージニアに頭を下げ、木城きしろエミリ・飯島錬子いいじまれんこはすでに別の話をしていた。
 エリは2人を注意した。


 「エミリ、錬子」
 「あ、すいません。ありがとうございました」
 「どうも、ヴァージニアせんせ」
 「おい、あんまナメた態度取るんじゃねーよ」
 「いいの、キョウジくん。それじゃゆっくり休んでね」


 ヴァージニアは微笑むと、鍛錬場を後にした。
 するとエミリと錬子はもう別の話で盛り上がる。


 「ねぇ錬子、城下町に買い物行かない? お昼も近いしさ、ちょっと気になるカフェがあるんだよね」
 「いいね。行こう」
 「あ、エリはどうする?」
 「……はぁ、遠慮しとく」
 「ふーん。じゃあいいや、ばいば~い」


 2人はさっさと鍛錬場を去り、残されたのは恭司とエリだった。


 「ったく、やる気のないヤツらだ。あんなの使えるのかね」
 「まぁまぁ。それより、恭司くんはこれからどうするの?」
 「自主練。まだコイツを使いこなせないし、もう少しやってくわ」


 恭司の腕には、籠手と一体型のラウンドシールドが装備されていた。
 鈍い銀色に輝く盾は、歴史を感じさせる装備品だった。


 「《魔盾ラスタファリア》だっけ」
 「ああ。どうやらオレの魔術と併用すれば、かなり戦える」
 「ふぅん……、じゃあ、私も手伝うよ。対戦相手が居たほうがいいでしょ?」
 「え、いいのか?」
 「うん。私もまだ物足りないし、付き合うよ」
 「おお、ありがとな」
 「うん。でも、お昼を食べてからにしない? エミリも言ってたけどお昼が近いし、力を付けてからやったほうが効率も上がると思うよ」
 「……確かに。よし、城の食堂に行こうぜ」
 「うん」


 恭司とエリは一緒に出て行った。
 その光景を、広大・幸司・健太郎は温かく見守っていた。


 「どいつもこいつも……なぁ幸司、健太郎」
 「ははは、恭司も強いし人気あるしな」
 「知ってるか? 城のメイドたちからも洋二や恭司は人気があるんだぜ?」
 「ちくしょう、おい幸司、健太郎。……行こうぜ」
 「お、行くのか?」
 「へへへ、いいね」


 3人の心は1つになった。
 青空の下、向かうべき場所は1つ。




 鍛錬場に取り残された3人は、仲良く城下町の娼館へ向かった。




 ***********




 〔情報管理局〕とプレートの掛けられたドアの前に、洋二と祥子は立っていた。


 「ここか。そういや初めて来たな」
 「私もです。じゃあ行きますか」


 部屋をノックしてドアを開ける。
 すると、そこはまるで会社のオフィスのようになっていた。


 「え〜っと······あ、ヨッドさんだ」
 「ホントだ。でも忙しそうだぜ?」


 情報管理局はかなり広く、デスクが20以上並べられ、書類作業をしている人たちがたくさんいた。
 その中でも1日大きくて広いデスクで作業をするヨッドがいる。
 禿げ上がった頭に汗を浮かべ、べっ甲ぶち眼鏡を押し上げ、部下の話を聞いて指示を出したり、疲れからか時折肩をもんで目頭を抑えている。


 「洋二くん、行きましょうか」
 「いや、出直した方がいいんじゃ······」


 祥子はヨッドの部下の間をすり抜け、ヨッドのデスクの前に立ち既に話を始めている。
 洋二はため息を吐きつつ、後を追った。


 「つ、つまり、そのアイトくんの情報が欲しいと?」
 「そうです。現在の場所と彼の目的を調べて欲しいんです」
 「う、むむむ······」


 洋二がヨッドの前に立つ頃には、既に話は済んでいた。


 「······実は、その、う〜ん。むむ」
 「ヨッドさん? おい祥子、今日は止めとこうぜ、どう見ても忙しそうだしよ」
 「······わかりました。すみません、お忙しい中、ありがとうございました」
 「·······あ、いや」


 洋二は祥子を促し、ヨッドのデスクから離れようと踵を返す。


 「ま、待って下さい‼」


 しかし、ヨッドが立ち上がる。
 急に立ち上がったので、デスクに積まれていた羊皮紙が床に落ちた。
 だがそんなことは気にせずヨッドは言う。


 「あー······いや、その。えっと、こ、こちらへ」


 ヨッドは壁際にある自身のデスクの後ろにあるドアを指差す。
 そこは応接室で、来客時などに使う部屋だった。




 洋二と祥子は、応接室の中へ入った。




 **********




 応接室は六畳間ほどで、柔らかそうなソファとテーブルのみの、シンプルな部屋だった。


 デューク王国は、中世風の造りの城であるが、先代の【救世主】の知恵を借り、一部では現代とそう変わらない施設もあった。
 例えば、社員食堂やこの応接室、そして情報管理局という名称や部署ごとの配置などは、全て先代【救世主】の知識から作られた物だった。


 そんな応接室に、向かい合って座るヨッド。そして洋二と祥子。


 「じ、実は······。アイトくんの居場所は既に掴んでいます。はい」


 額から流れる汗を拭きながら、ヨッドは告げる。


 「ま······マジですか⁉ ど、どこに⁉」
 「落ち着いて、洋二くん」


 ソファから腰を浮かせた洋二を宥めつつ、祥子がヨッドに先を促す。


 「その、ギボールさんから送られて来た情報に、アイトくんの姿があったのです。し、しかし······それはその、とんでもない内容でして、その」
 「ヨッドさん。聞かせて下さい」


 洋二は力強く言う。
 ヨッドはため息を吐くと、応接室を出て再び戻ってきた。
 その手には小さな小箱があり、厳重に鍵がかけられている。
 ヨッドは鍵を開け、中の物を掴む。


 「お二人とも、ギボールさんはご存知ですよね?」
 「は、はい。幹部の1人ですよね」
 「そうです。あの方は全地域を周り、デューク王国のためになる情報を集めて送ってきます。そして、彼のアビリティの1つである《》を使い、大地に記憶された情報を、この宝玉に記録して写すことが出来るのです」


 ヨッドの手には、ビー玉のようなガラス玉があった。


 「シャダイさんが【火天領土】へ向かうという情報を得たギボールさんは、先にボルカニカに入国し潜伏していました。そして送られて来たのがこの宝玉です」


 ヨッドがビー玉に魔力を流すと、ビー玉は浮き上がり輝き始めた。


 「こ、これって······藍斗⁉」
 「あれは······」




 そこに写されていたのは、【火天アグニ】を叩きのめすアイトの姿だった。




 *********




 「アイトくんが何をしたのかはわかりません。だが、あのバケモノ・・・・・・を呼び出し、泥の洪水を起こしたのは間違いありません。その時の泥が原因で、シャダイさんは亡くなられたと、我々は結論を出しました」


 宝玉には、スパンダルマドが現れた一部始終が写されていた。
 洋二は青くなり、祥子の視線はアイトの両腕に注がれている。


 「あれは《魔拳イデア》······あの人が」
 「な、何だよあのバケモノは······あれを藍斗が呼び出したってのか⁉ アイツのアビリティなのか⁉」


 洋二たちが落ち着くのを待ち、ヨッドが言う。


 「アイトくんは現在、リアンという新しく出来た町の領主を努めているそうです」
 「じゃ、じゃあそこに行けば藍斗を連れ戻せるのか⁉」
 「······いえ、我々の出した結論は、不干渉です」
 「な、何でだよ⁉」
 「彼は得体が知れません。貴方と同じ【救世主】を殺しかけ、【魔帝十二神将】である【火天アグニ】を単独で降しボルカニカを滅ぼしかけた。彼は敵でも味方でもない。下手な刺激をして暴れられれば、あのバケモノを呼び出してデューク王国を滅ぼす可能性があります」
 「で、でも」
 「彼は危険すぎます。わかって下さい」


 ヨッドはそこまで言うと、ビー玉を仕舞い部屋を出た。


 「くそ、藍斗は藍斗だぞ。俺の友達だ‼」
 「······洋二くん」


 洋二は立ち上がると、応接室を出た。
 祥子も後に続き、通路を2人で歩く。


 「藍斗、何やってんだよ······」




 洋二の呟きを聞いた祥子は、何も答えなかった。



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