神様のヒトミ

さとう

112・伊舎那天イシャーナ



 イシャーナの城。といより錬金術工房へアイトはやって来た。
 手にはヒュドーラから渡された手紙。内容は、リアンの町に拠点を移すから、サラも連れて行くというシンプルな内容だった。
 ちなみにミコトはサラの荷造りの手伝いをしてる。


 「それにしてもデカイな······」


 イシャーナは城のほぼ全てを改装し、錬金術の工房として作り変え、弟子を何人も養成するための学園を作り出した。
 今では他の領土からも錬金術を学ぶ人や魔帝族が訪れる。


 「ラクシャーサさんやヒュドーラさん曰く、戦闘タイプじゃないみたいだけど······」


 ラクシャーサ曰く、研究大好き。
 ヒュドーラ曰く、ヒュドーラが育てた弟子の中でそこそこ使えたヤツ。


 「······わからん。まぁ用心はしておこう」




 アイトは、城の中へ踏み出した。




 **********




 驚いたのは、城が一般開放されていることだった。
 門番はいたがスルーされ、特に書類を見せなくても問題なく入ることが出来た。


 城は、驚いたことに人で溢れていた。
 白衣を着た研究者風の人間や魔帝族が、薬草や道具を抱えながら闊歩している。
 城の入口の脇には受付があり、アイトはイシャーナの居場所を聞くことにした。


 「こんにちは。ようこそ〔ヴェノム錬金学園〕へ。入校のご案内をさせていただきます」
 「にゅ、入校⁉ あの、ここって【伊舎那天いざなてんイシャーナ】の城じゃないんですか⁉」
 「城······まぁ、城ですね。イシャーナ様は研究熱心なお方ですので、王女というよりは教授と私たちは呼んでいます」
 「きょ、教授? あの、謁見は?」
 「謁見? あはは‼ あの方には1番似合わないお言葉ですね。研究室に行けば会えますよ」
 「そ、そんな簡単なんだ······」


 受付に案内され、アイトはいくつかの研究室を回る。
 そして、ようやく会える時が来た。


 「あ、いたいた。イシャーナ教授〜っ‼ お客様ですよ〜っ‼」
 「う〜い。ちょっち待ってね〜」


 イシャーナは羊皮紙を挟んだバインダーに、スラスラと文字を記入していた。
 ビーカーに入っている灰色の液体を眺めながら、取り出した杖に魔力を灯してかき混ぜる。


 「うし、このまま暫く様子を見てて。凝固が始まったらメデュサの涙を1滴投入、あとは魔力でコーティングすれば完成ね」


 数人の研究員に指示を出し、イシャーナはようやくアイトの元へ来た。


 「やーごめんごめん、新薬の開発中でさ。それでなんか用かな?」
 「あ、え〜と。これを」
 「ん、手紙?······って、お師匠の印じゃん⁉ なんで⁉」


 イシャーナはアイトと手紙を交互に見て、慌てたように封を切る。
 アイトは改めてイシャーナを見た。


 腰まで伸びるディープブルーの髪は、伸ばしているというよりは伸びっぱなし。その証拠に手入れはされておらず、ボサボサだった。
 年齢は20代前半にしか見えず、顔立ちは美人だがコロコロ変わる表情が子供のような無邪気さに見える。
 黒縁メガネをかけ、白衣を纏う姿は研究者にしか見えなかった。


 【魔帝十二神将まていじゅうにしんしょう】の1人、【伊舎那天いざなてんイシャーナ】 




 アイトは正直、かなり疑っていた。




 **********




 場所を変え、研究室の隣にある応接間に移動した。
 ソファに座り、お茶を出される。


 「な〜るほどね。サラをキミの町のギルド職員に」
 「は、はい。大丈夫ですか?」
 「とーぜんだよ。お師匠が決めたことに異を唱えるほどマヌケじゃないよ。それに、サラにはいい刺激になるだろうしね」


 ケラケラ笑うイシャーナは、どこまでも楽しそうだ。


 「あの、ヒュドーラさんって凄い人なんですよね?」
 「そりゃもう。お師匠は〔錬金術の母〕って言われるくらいの凄腕なんだから。お師匠がギルド長をやるなんて聞いたら、この町の錬金術師はみ〜んなそっちに行っちゃうっての」
 「そ、そこまでの人を······」
 「うん。サラをお師匠に預けたのもそれが理由。お師匠から習えば、あの子の才能を最大限まで引き伸ばせる。正直、錬金術師としての才能はこの国最高の物を持ってるからね」
 「あんな小さな子が······」
 「ま、死んだ兄貴も喜んでると思うよ。自分の娘が立派になればね」
 「兄貴って、イシャーナ······様、の?」
 「イシャーナでいいよ。堅苦しいのは苦手だし、【魔帝十二神将】って言っても、私は錬金術しか出来ないからさ」
 「あ、いや」


 サラを預かる以上、アイトはサラの両親の話を聞いた。


 かつて、【魔帝十二神将】と呼ばれていたのはイシャーナの兄であり、死んだ兄の代わりに【伊舎那天いざなてん】 の名を継いだのがイシャーナである。
 イシャーナの兄が死去し、サラを生んだ母親も衰弱のため死去。残されたサラを引き取り、イシャーナは【伊舎那天いざなてんイシャーナ】の名を魔王より賜った。
 最初はイシャーナと生活をしていたサラだが、忙しいサラはなかなか帰ることが出来ず、寂しい思いをしたそうだ。そこで考えたのが、研究室にサラを連れて行くという画期的なアイデアだった。
 案の定、サラは錬金術に興味を示し、その才能を開花させる。
 自身を超える才能をサラに見たイシャーナは、イシャーナの師匠であるヒュドーラにサラを預けて勉強をさせることにした。


 「とまぁそんな感じ。私から習うより、お師匠から習ったほうがあの子のためになるしね」
 「なるほど。あの······サラの両親って」
 「ん? あぁ、老衰だよ。こればかりはどうしようもないね」
 「ろ、老衰って」
 「兄貴と私は年が千年単位で離れてたからね。子供が出来て生まれたけど、嫁さんも衰弱死しちゃって、後を追うように兄貴も死んじゃった。兄貴の最後の言葉が、「サラを頼む」だからねぇ、あの子には立派になってもらいたいのよ」


 アイトは黙り込み俯いた。


 「ま、そーゆーことで、サラを頼むよ。あの子はちょっち特別だけど、まだ心配はないと思うからさ」
 「大丈夫です。俺の町には【災禍の魔獣オーバーロード・ビースト】が4人いますから、サラもきっと馴染めますよ」
 「そっか。なら安心·········はぁ⁉」




 詰め寄るイシャーナを宥めつつ、アイトは城を後にした。



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