神様のヒトミ

さとう

108・シュネクの町



 シュネクの町に到着したのは夕方だった。


 「ふぅ、やっと着いた」
 「アイト、ごはん」
 「はいはい。とにかく宿を取ろう」


 町のステータスを確認することもなく、アイトは町の入口にいた傭兵に聞く。


 「シュネクの町へようこそ。観光かい?」
 「まぁそんなところです。あの、宿を探してるんですけど、いいとこありませんかね?」
 「宿か。町一番の宿なら、町の中央にある〔シュネク亭〕だな。料理は美味いし部屋も広い」  
 「なるほど。ありがとうございます」
 「ああ。町を楽しんで行ってくれ」


 親切な傭兵に会釈し、アイトたちは町の中へ。
 リアンの町とは違い、やや近代的な作りの町は、田舎の町の商店街を匂わせた。


 「にゃう。なんかいいニオイ······」
 「夕食時だしな。それにしても腹減った······」


 ミコトはアイトの背中に飛びつき、アイトはやや早足で宿を目指す。
 町の中央へ来る頃には、すっかり暗くなっていた。


 「お、ここか」


 町の中央には様々な商店があり、武器防具屋を始め、ギルドや宿が立ち並ぶ。
 その中でも大きな建物が宿屋だが、大きさはリアンの町の宿屋よりもやや小さい。
 アイトはミコトを背負ったまま、〔シュネク亭〕へ入って行く。


 宿の一階の半分は食堂スペースになっていて、宿泊者たちが夕食を楽しんでいる。
 その光景を見たミコトは、待ちきれずにアイトの耳を引っ張る。


 「アイトアイト、ごーはーんー」
 「いててて、引っ張るなっての」


 受付を済ませ、部屋に入らず食堂へ。
 給餌の女性にオーダーを聞かれ、アイトは肉の煮込み定食、ミコトは焼き魚の盛り合わせを頼んだ。


 「焼き魚の盛り合わせってなんだ?」
 「そのまんまだよ。いろんな魚が盛り合わせてあるの」


 アイトは頭に疑問符を浮かべたが、運ばれてきた料理を見て理解した。


 「あぁ、なるほどな······」


 焼き魚の盛り合わせは、大きな皿に様々な焼き魚が乗せられ、付け合せにはスープしかない。
 魚の種類は豊富で、サンマやイワナ、ヤマメなどの川魚や、アジやイワシなどの魚もあった。
 もちろん、この異世界の魚なので、多少の変化はある。


 「にゃ〜お、いただきま〜す」
 「い、いただきます」


 ミコトは魚を頭からモグモグ食べ、美味しそうにスープを啜っている。
 アイトの肉の煮込みは少ししょっぱく、パンではなくコメが欲しくなる一品だった。


 「明日は観光して、明後日に出発する。ヘッジヴァイパまでは2週間ほどかかるけど、町や村に寄りながらだと1月は掛かる。だから急ぎで行くぞ」
 「にゃう。また走って行くの?」
 「それもアリだけど、試してみたいことがある」


 『雷駆ライク』を使えば6日ほどで到着するとアイトは踏んでいる。
 だが、少し試してみたいことがあった。


 「試したいことって?」
 「ああ。妖精の力を借りてみようかなって」




 ミコトは小さく首を傾げた




 **********




 翌日。アイトとミコトは宿を出た。


 朝食は外で済ませようと思い、町を散策する。
 すると、朝早いのに甘い匂いが漂って来た。


 「アイト、あれ‼」
 「なになに、クレープか。······朝からキツいな」
 「にゃう、食べた〜い‼」
 「わ、わかったよ」


 町の中央は、早くも活気に溢れていた。
 行き交う商人や冒険者たちはギルドに出入りし、様々な露店からは食べ物の焼く匂いが立ち込める。
 ミコトは目を輝かせ、クレープの露店に飛び込んだ。


 「く〜ださ〜いなっ‼」
 「はは。元気なお嬢さんだ。ちょっと待ってなよ」


 露店の店主は微笑み、ミコトとアイトの前でクレープを焼く。
 薄い生地にクリームや果物を添えて巻き、ミコトとアイトに手渡した。


 「はいよ、果物サービスしといたよ」
 「にゃお‼ ありがと〜‼」


 アイトは料金を払い、さっそく齧る。
 ミコトは口をクリームまみれにしながら食べていた。


 「美味い‼ でもこれって······メロンか?」


 果物の1つに、リアンの町では食べたことのない味をアイトは感じた。


 「アイト、この緑の果物おいしいよ‼」
 「確かに。村じゃ味わえない果物だ」


 クレープを完食し、アイトは店主に聞く。


 「あの、この緑の果物って何ですか?」
 「おぉ気付いたか。こいつはメロの実っていう大玉の果物で、栽培が難しくてなかなか手に入らない果物なのさ」
 「へぇ〜、あの、種や実って売ってないですか?」
 「ほう? 兄ちゃんが育てるのかい?」
 「いや、俺じゃなくて、町の農家にお願いしようと思って」


 アイトの脳裏には、狼人のラウルがいた。
 品種改良を繰り返し、最近ではカボチャを作り出してみんなを驚かせていたラウル。
 200年契約の住人だったが、最近になり1000年契約に変更したばかりだった。


 「町の農家ねぇ。この辺りの農家じゃメロの実は栽培してないぜ? オレもヘッジヴァイパから取り寄せてるしな」
 「いや、俺は守護者で領主なんです。だから自分の町の農家にお願いしようと思って」
 「へ?······に、兄ちゃんが領主?」
 「はい。それで、種や実は売ってないですかね」
 「あー、えと、ちなみにどこの領主だ?」
 「え? えーと、【羅刹天領土】のリアンの町ですけど?」
 「ふーむ。それを証明······いや、出会ったばかりのオレに嘘つく理由なんてないな。よーしいいだろう。オレの持ってるメロの実を譲ってやるよ。実はメロの実の種は、実を割らないと取れないんだ。クレープ用に加工した実の種は廃棄しちまったから、加工前の実を譲っやる」


 露店の店主はしゃがみ込むと、緑色の球体を取り出した。
 バレーボールほどの大きさで、スジのないメロンに見える。


 「おお、いいですね。おいくらですか?」
 「金はいい。その代わり······兄ちゃんの町で商売させてくれねーか?」
 「え。······どうしてですか?」
 「いや、最近売上が落ち目でなぁ。場所変えて商売しようにも他の町の商人ギルドにショバ代を払わにゃいかんし、他所から来た店なんて煙たがれるから、ショバ代にしても足元見られて吹っ掛けられる。だがよ、領主の紹介となりゃ話は別だ。無下に断れねぇし、領主のご贔屓なら優遇もされるってもんだ」
 「なるほど······」


 アイトは少し考えた。
 確かに、メロンは欲しい。
 ラウルが栽培や品種改良すれば、町の飲食店でメロン料理が食べられるし、パン屋に卸せばメロンパンも作れるかもしれない。
 商人ギルドはすでに可動しているが、ウルフィーナに頼めば問題ないとアイトは思う。


 「ねぇアイト。おっちゃんのクレープがあたしの町でも食べられるの⁉ ライラとシアとルカも食べられるの⁉」
 「······」


 ミコトの笑顔を見て、アイトは決めた。


 「わかりました。営業を許可します」
 「おぉ‼ さすがだぜ。だが【羅刹天領土】だし、かなりの長旅になるな。さっそく店じまいして準備するか‼」
 「いや、とりあえず行って見ましょう」
 「は?」


 アイトは露店に触り、ミコトと手を繋ぐ。 
 店主は露店に触れているため問題ない。


 「じゃ、リアンの町まで案内しま〜す」




 アイトとミコト、露店と店主はシュネクの町から姿を消した。



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