神様のヒトミ

さとう

107・人助け



 翌朝。アイトはミコトを抱きしめたまま眼を覚ました。


 「みゃぁぁ~……」
 「ん……ああ、悪い」


 まるで抱き枕のようにミコトを抱きしめ、柔らかさと顎に当たるネコ耳のフワフワが何とも言えず、気持ち良い目覚めだった。


 「アイト~……苦しい~……」
 「おお、悪い悪い」


 ミコトを解放すると、アイトは背伸びをする。
 パキパキと身体を鳴らし、着替えをして外に出る。


 「ん、んん~……今日もいい天気、冒険日和だな」
 「アイト~。髪の毛やって~」
 「はいはい。ったく、自分で覚えろよ?」
 「は~い」


 テントの中に再び入ると、ミコトはポーチから櫛を取り出す。
 先に着替えを済ませたミコトはアイトに背を向け、アイトはサラサラの銀髪に櫛を通す。


 「それにしてもキレーな銀髪だな。それに、櫛を通さなくてもいいくらいだ」
 「にゃ~。気持ちいいから梳かすのはやめないで」
 「はいはい」


 それから5分ほど梳かし、朝の務めは終わる。


 「じゃあ朝メシだな。手伝ってくれ」
 「にゃう」


 アイトとミコトはテントから出て食事の準備を始める。
 火を起こし、アイトは卵とベーコンを焼き、ミコトは皿を出す。
 アイトは鍋に湯を沸かし簡単なスープを作ると、朝食が出来上がった。
 パンを炙りハチミツを掛け、ベーコンエッグとサラダの朝食が出来た。


 「さーて。いただきまーす」
 「いただきまーす!!」


 簡易テーブルの上で食事を取りながら、今日の予定を確認する。


 「今日中にシュネクの町に入れそうだ。ラクシャーサの紹介状があるから、領土の境界線も問題なく通れるだろうしな」
 「うん。たのしみ~」
 「ははは。町に着くのは夕方だし、1泊して次の日は観光しよう。ライラたちにお土産も買わないとな」
 「うん!!」


 食事が終わり、後片付けを済ませる。
 テントも畳み、出発の準備も整えた。


 「さて、行くか」
 「うん」




 2人はのんびりと歩き出し、再び街道へ入った。




 ***********




 歩きながら休み、たまに走る。
 珍しい昆虫や、キレイな景色を見て足を止める。
 そんなことを繰り返しながら進むと、ミコトが立ち止まる。 


 「どうした?」
 「……にゃあ。よくない感じがする」
 「ん?」
 「アイト、あっち」


 ミコトが指さしたのは、街道から外れた林だった。
 整備された街道とは違い、草木が生い茂り道なき道になっている。
 そして、出来たばかりの轍があった。


 「……これ、まさか」


 2本のタイヤ痕の幅から、大型の魔導車が入っていったのがわかる。
 街道からわざわざ外れて人気のない林の中に入る。それはつまり


 「……強盗か、それとも」
 「にゃあ……」


 アイトはミコトを見て考える。


 「アイト、イヤな感じ……泣いてる声がする」
 「……」
 「アイト、助けてあげて。おねがい」
 「……わかったよ」


 アイトはミコトの頭をなで、ネコ耳を軽く触った。
 ミコトの悲しそうな顔は薄れ、ネコ耳を揉まれた気持ちよさが広がる。




 アイトは気を引き締め、林の中へ入っていく。




 ***********




 林の中に居たのは、10人ほどの盗賊だった。
 商人の物だろうか、積み荷が広げられている。
 そして、護衛の傭兵が5人ほど倒れ、商人が剣を突きつけられていた。


 「へへ、悪いねぇ。このまま殺してもいいが、積み荷が宝石だったことに感謝しな」
 「た、頼む。息子たちだけは……」
 「もちろん。その代わり、このままオレたちを町まで運んで、お前の店の宝石をぜ~んぶよこせ。それで勘弁してやるよ」
 「な、な……」


 護衛の傭兵は死んではいないようだが、深く切りつけられ動けない。
 そして商人の子供たちは、盗賊に囚われていた。


 「はなせっ!! このっ!! メルっ!!」
 「おにいちゃんっ!!」
 「このガキっ!! 大人しくしろっ!!」
 「ぐぅっ!?」


 10歳ほどの少年は、盗賊に殴られて倒れる。
 倒れた視線の先には、囚われた妹の姿が目に映っていた。


 「メル……」
 「おにいちゃん、おにいちゃんっ!!」
 「へへへ、泣かせるねぇ……おらッ!!」
 「ぎゃっ!?」
 「やめてぇ、やめてぇぇっ」


 少年を踏みつけ、傭兵たちはゲラゲラ笑う。
 商人は剣を突きつけられ、動くことすら出来ない。


 「ちくしょう……ちくしょう……!!」


 少年は泣く。
 痛みでなく、己の無力に。


 「ひゃひゃひゃ、ほれほれ、妹ちゃんはこっちだぞ~」
 「いやぁぁっ!!」


 妹は盗賊に抱きかかえられ、少年の前で弄ばれる。
 少年の手は妹に向かって伸ばされる……。


 「頼む、息子と娘だけは!!」
 「だったら行こうぜ? お前の店によぉ?」
 「……わ、わかった……く、ぐぅぅ……!!」


 商人は情けなさに涙を流し、諦めようとした。


 「お父さん……」


 少年は立ち上がり、盗賊を睨み付ける。


 「あん? なんだよその目は……おいコラ、ケンカ売ってんのか?」
 「……」
 「や、やめろカラム、よせ!!」


 少年は歯を食いしばり、憎き盗賊を睨む。
 父親の制止を振り切り、硬く握った拳を構える。
 全ては妹を助けるために。


 「ベルを離せーーーっ!!」


 盗賊の手は、腰の剣に添えられていた。
 相手が子供でも容赦はしない。向かってくる以上は始末する。
 少年の首を切断しようと、向かってくる少年を迎撃しようとした時だった。




 「『熊爪くまづめ』」




 黒い紫電・・・・が、盗賊の剣に添えられていた手を切断した。




 ***********




 「は? あ? あぁぁ?」


 引き千切るような衝撃と共に、盗賊の手は切断された。
 そして鮮血が吹き出した瞬間、妹を引きはがされた。


 「ぎ……ぎっぃやぁぁぁぁっ!?」


 盗賊が腕を押さえて絶叫。蹲る。
 その声に反応し、残りの盗賊と少年、商人が注目した。


 「大丈夫か? ケガは?」
 「だ、だいじょうぶ……です」
 「よし」


 黒いフードを被ったアイトは、抱きかかえた少女を降ろし、ポカンとしてる少年の傍に連れて行く。


 「……ケガ、してるのか?」
 「え、あ」


 アイトが見たのは、頬を腫らした少年。
 口から血が流れ、見るのも痛々しい。
 少女を見て少年を見たアイトは、全てを理解して聞いた。


 「妹……守ろうとしたのか?」
 「……う、うぐっ……ひっぐ……」
 「そっか。がんばったな」


 少年はポロポロ泣き出し、アイトは少年の頭をなでる。
 少女は少年に抱きつき、一緒になって泣き出した。


 「てめぇぇぇッ!! よくも仲間をヤリやがたなぁぁぁっ!!」


 残りの盗賊がアイトを囲み、一斉に武器を構える。
 商人に剣を突きつけていた盗賊がリーダー格らしく、それぞれに指示を出す。
 アイトはフードを被ったまま構えた。


 「子供を殴りやがって……クズヤローが」


 アイトは右手の五指を開き、左手は人差し指と中指のみ起てて、魔闘気で覆う。
 【壊神拳】第二種『人』の型、つまり対人用の技。


 「妙な構えをしやがって……なめんじゃねぇっ!!」
 「いいから来い、雑魚が」


 第一種は魔獣用、第二種は対人用、第三種は【救世主】用の技。
 第二種の【壊神拳】は……人体破壊。


 「手加減はしてやるよ」
 「ぶっ殺せっ!!」




 盗賊たちは、一斉にアイトに襲い掛かった。




 ***********




 そして、10人の盗賊は地面に転がった。


 「やろうと思えばもっとエグい技で苦しめられたけどよ、子供も見てるしこれくらいにしてやる」


 聞こえては居ないだろうが、アイトは言う。
 腰を抜かした商人や子供たちは驚いていた。
 アイトはエクスポーションを取りだし、少年に渡した。


 「ほれ、飲んでおけ。あと、あっちの傭兵さんたちにも」
 「あ、あの」


 アイトは10本ほどエクスポーションを渡した。
 フードを被ったままなので、少年には顔がよく見えない。


 「シュネクの町は近いし、もう大丈夫だろ。気を付けろよ」


 
 少年の言葉を待たず、アイトはすぐに立ち去った。




 ***********




 「にゃあ。おつかれさまー」
 「あーつかれた。やっぱ第二種はキツいわ……」


 第二種の人体破壊は、硬化した手で肉や骨を削り抉る。
 技を覚えても、アイトはなるべく使いたくなかった。


 「じゃあ行くか。町はすぐそこだ」
 「にゃお。ダッシュでいこー!!」
 「あ、コラ待てっての!!」




 走り出したミコトを追い、アイトも走り出した。



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