神様のヒトミ

さとう

97・領主のお仕事③



 ラピスの家から出たアイトは、村の中を歩いていた。


 「······発展、したよなぁ」


 アイトの知らない商店が増え、行き交う人たちもたくさんいる。
 冒険者や常駐の傭兵、住人はもちろん商人まで。
 木々は切られ開拓や建築の材料となっているが、大きな桜の木は残り、村の中を明るく彩っていた。


 温泉街ではないが、浴衣を着て歩く人。
 露店のおにぎり片手に食べ歩きする人。
 クナイの薬屋の前には長椅子とテーブルが置かれ、子供たちが和菓子を食べていた。


 「······俺、ここの領主なんだよなぁ」


 アイトは、今更ながら実感する。
 ガロンに拾われ、半年修行し、集落を発展させるのに3ヶ月。
 バス事故にあったのは4月なので、地球の時間では新年を過ぎた頃だろうか。


 「俺は遅生まれだから、まだ15歳だな。なんか日付も曖昧だわ」


 アイトは、何年も過ぎたような感覚に囚われていた。


 「······へへ」


 何故か可笑しくなり、微笑む。
 ガロンの墓参りでもしてから帰ろうとした時だった。


 「がうーっ‼」


 シアの声が聞こえ、振り向く。
 するとシアが道の真ん中を全力ダッシュしている。住人や冒険者たちも驚き道を譲り、よく見るとシアの後ろからミコトたちが着いて来ていた。


 「シア? おい危ないぞ‼」
 「あ、アイト‼ がうっ‼」
 「おっと‼」


 シアはジャンプするとアイトの胸に飛び込んだ。
 慌ててシアを抱きとめ、正面から話す。


 「アイト、アイト、あのねあのね」
 「お、落ち着けって、ほら」 
 「きゅうん······」   


 アイトは頭をなでて落ち着かせる。
 冒険者たちや住人の視線が気になったが、あえて無視する。


 「シアーっ‼」
 「しあー」
 「シアっ、もう、速いよー」


 ミコトたちも追いつき、アイトにじゃれつく。
 ルカはアイトによじ登り、背中にくっついた。


 「あぅあ〜」
 「はは、よしよし。さーて、どうしたシア? そんなに慌てて」
 「あのねあのね、ニオイがしたの‼」
 「ニオイ?」
 「うん‼」


 アイトは歩きながら事情を聞く。
 背中にルカを、前にはシアを、両隣にはミコトとライラを連れて歩く姿は子守のようだった。




 「とーさまと······、かーさまのニオイっ‼」




 **********




 シアの案内で歩いた先は、村の教会だった。


 「で、デカイな······」


 純白の建物は大きく、キチンとチャペルも設置されている。
 ドアは開放され会衆席が見え、お祈りをしてる住人の姿も見えた。
 窓にはステンドグラスが使われ、日の光を受けて鮮やかに輝き、祭壇には白い石像が安置されている。


 だが、シアの視線は教会ではない。
 少し離れの木造の建物である、診療所だ。


 「アイト、あそこ‼」
 「お、おお」


 診療所と言っても、大規模な設備がある訳ではない。
 魔術医のエルはアビリティと魔術で治療をするため、中にあるのは診察用の台とベッドが数台程度だ。


 アイトは診療所のドアを開けると、硬直した。


 「あぁ、リュコス······」
 「私、治ったのね······、あぁラクシャーサ、夢じゃないのね」
 「そうさ、これは夢じゃ······あ」


 そこにいたのは、女性と抱き合うラクシャーサだった。
 アイトたちを見て硬直し、顔を赤らめる。


 「かーさまっ‼」
 「ぶふっ⁉」
 「し、シアっ⁉ あぁ、私のシアっ‼」


 シアはアイトを助走台にして女性に飛びつき、精一杯の甘えを見せる。


 「きゅうん······」
 「あぁ、大きくなって······」


 女性の頬をペロペロと舐め、ポロポロと涙を流すシア。
 アイトはおろか、ミコトたちも放心状態だった。


 「え、ええと、説明が必要みたいだね」
 「た、頼んだよ、エルくん」




 エルとラクシャーサは、放心状態のアイトたちに説明した。




 **********




 ラクシャーサの妻であるリュコスは、シアが生まれて5年後に、魔帝族にしか掛からない病気に侵された。
 原因は不明で、魔術やアビリティでの治療も効果が薄く、その病気は数年を掛けて徐々に内蔵が腐るという恐ろしい物だった。


 ラクシャーサは妻のリュコスを隔離し、自身が伝染る可能性を無視してリュコスを見舞う。
 日々痩せ細る妻のを前に、なす術もない。


 5歳のシアは、母親に甘えることも出来ず、1人寂しく城で過ごしていたという。


 そんな時だった。
 アイトと同じ【救世主】で、癒やしのアビリティを持つ聖女が現れたと報告されたのは。
 人や魔帝族のアビリティでは効果が薄かったが、【救世主】のアビリティならばと思い、最新の注意を払い、この村まで連れて来たという。


 結果は完治。


 あらゆる病気を治すエルのアビリティ、『慈愛掌パラメディハンズ』は、あっさりとリュコスの病気を消し去った。


 「で、今に至るワケでーす」
 「な、なるほど······」


 アイトは、母親に甘えるシアを見ながら言う。
 ミコトはシアをじっと見つめ、ライラとルカはまだポカンとしていた。


 「改めてエルくん、キミには感謝の言葉もない。本当にありがとう」
 「いえいえ、元気になられてなによりです。それにシアちゃんも嬉しそうだし」


 シアは母親に甘え、胸に顔を埋めている。
 リュコスはシアを抱きしめていた。


 「にゃう……」


 ミコトは少し淋しそうに鳴く。
 アイトはミコトの頭をなでた。


 「……じゃあ、俺はここで。行くぞミコト、ライラ」
 「あ、私も行く」
 「わふぅ」
 「あぅあ」
 「にゃお」




 家族の邪魔をするわけにも行かず、アイトは外へ出た。
 

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