神様のヒトミ

さとう

92・泥蟲スパンダルマド



 アイトは怒りでおかしくなりそうだった。


 モーラのことは、ガロンにも非があるとわかっていたが、それでも腹が立った。
 託された写真を砕かれ、命の恩人であるガロンを侮辱され、ましてや自分の子供を失ってよかったなんて言われて、心底頭にきていた。


 そして、目の前の《魔熊アルカンシェル》
 ミコトたちと同じ7歳の少女は、どんな扱いを受けていたのだろうか。
 ただ1つ言えることは、この国に居てはならないということだけ。


 アイトの構えを見て、アグニは面白そうに笑う。


 「ほぅ、抗うか……、面白い」
 「戦闘データを取ります。準備を」


 モーラの呼び声に、研究者らしき魔術師が羊皮紙を取り出す。
 アイトは一切を無視し、目の前に集中した。


 「あ、アイト……、どうしよう」
 「大丈夫、任せろ」
 「で、でも……」


 困惑するアイヒに、アイトは優しく言った。




 「大丈夫。神様のヒトミを開いた俺が負けるワケない」




 そして、アイトの世界が切り替わる。




 ***********




 セピア色の世界【黄昏世界アーヴェント
 人も植物も石も《魔熊アルカンシェル》も、全てがセピア色の世界。


 《やっぱり来たね、アイト》


 アイトの足元には、小さな光るネズミがいた。


 「見てたなら頼む。この子を元に戻せないか?」
 《もちろんできるよ。どうやらこの子は《暴虐獣ぼうぎゃくじゅうデッドワイルド》の血族だね》
 「……それって、確か【虚空世界ヴァニタス】の神様だよな?」


 ネズミはフヨフヨ浮き上がり、アイトの傍へ。
 ネズミだけでなく、飛んでいたワシやコウモリ、のしのしと小さな子象までやって来た。


 《そうだね。《暴虐デッドワイルド》は他の神様みたいに干渉しないけど、【生物世界ラーミナス】に12の血族を作ったんだ。あとは傍観してるだけ》
 《キミ達は【獣王種族】って呼んでるらしいわね。ま、間違ってないけど》


 コウモリとワシがアイトの周りを旋回しながら喋る。


 《ある時期に、同時に12体のメス個体が力を持って生まれるのは、種族同士で公平になるようにプログラムしたからだろうね。まったく、面白いことをする》
 「お、おい。神様の力なんて、なんとか出来るのかよ?」


 【黄昏妖精トワイライト・ニンフ】たちの力をアイトは知っているが、コレばかりは心配だった。
 何故なら、どうみても可愛らしい動物たちだったからだ。


 《はっはっは、当たり前じゃん!! 【虚空世界ヴァニタス】の神なんて、あたしたちから見ればザコよザコ!!》
 《確かにねー。世界の法則が違うからボクたちに不可能はないし、神の力なんてボクたちからすればお遊びだもんねー》


 足下の子象と子パンダが世間話的なノリで言う。


 「そ、そうなんだ……。こんなにカワイイのに」
 《か、カワイイなんて……。えへへ》
 《照れるなぁ。ねぇ上位個体》
 《アァァァァ……》
 「え?」


 上位個体。つまりこの世界で名前を持つ存在。
 アイトは周囲を見渡すが、それらしき存在は見えない。


 《ホラ、肩を見なよ? キミの肩にずーーっとくっついてたよ?》
 「え、マジで?」


 アイトは自身の肩を見ると、黄色い小さなアメンボがいた。
 前脚を器用に動かし、自身の存在をアピールしていた。


 「悪い悪い。気が付かなかった」
 《アァァァァ……》
 《仕方ないよ、ボクは小さいから……だってさ》
 「ごめん、ところで……力を貸してくれないか。アイツらをぶっ倒したい」
 《アァァァァ……!!》
 《もちろん!! 友達のピンチはボクのピンチ、任せて!!……だってさ。あ、当然だけど私たちも力を貸すね》


 すると、全ての精霊がアイトの中に入ってくる。
 優しい温かさに包まれながら、アイトは力が漲るのを感じた。


 《アァァァァ!!》
 《ボクのチカラ、キミにあげる!! だってさ》




 アイトの中に、何かが芽生える。




 ***********




 「さて。少しは楽しませ………」
 「各員、データを………」


 アグニとモーラが見たときには、全てが終わっていた。


 アイトは人差し指と親指で円を作り、ゆっくりと息を吹く。
 すると、指のリングからポワンと虹色のシャボン玉が膨らんだ。


 《魔熊アルカンシェル》は虹色のシャボン玉に包まれ浮遊、アイトが手をかざすとシャボン玉の中は液体で満たされ始めた。


 「さぁ、おやすみ……」


 アイヒですら理解出来ないチカラで、アイトは何かをしている。
 アルカンシェルの身体が発光し、少女の身体に戻っていった。


 「よし、終わり」


 シャボン玉が弾け、少女はゆっくり落下する。
 アイトは少女を抱きかかえ、頭を優しくなでつけた。


 「あ、アイト? 今のって? え? 魔術?」
 「落ち着けって。この子を頼む」
 「え、あ、うん」


 反射的に少女を受け取るアイヒ。
 そしてアイトはアグニに向き直る。


 「き……貴様、何をした!! 何故アルカンシェルが……おのれ!!」
 「うるせぇよ雑魚熊、テメェはムカつくからぶん殴る!!」


 アイトは『雷駆ライク』を纏い構えると、一直線に飛び出した。


 「いいだろう、貴様はオレの手で処刑すがぶべっ!?」


 正面に向かっていたアイトが消え、真横から強烈な蹴りを食らわせた。


 いかにアグニと言えど、瞬間移動するアイトは捕らえられない。


 真横に飛ぶアグニの反対側から、今度はカウンターで顔面に拳が突き刺さる。
 頭を揺らされ朦朧とした瞬間、背後からドロップキックを食らい前のめりになり、待ち構えていたかのように、アイトのアッパーが顔面に突き刺さった。


 「【牛角ぎゅうかく】!!」
 「ぶっぎゃぁぁっ!?」


 そのまま大の字で仰向けに飛び、だめ押しの一撃。
 顔面に突き刺さる、地面に叩きつける打ち下ろし。


 「【氷墜つららつい】!!」


 地面に亀裂が入るほど強力な1撃だった。
 アグニは何も出来ずにボコボコにされた。


 陥没した顔面から拳を抜き、アイトは冷徹に告げる。


 「アンタは確かに強いよ、身体能力や技の練度は俺より遙かに上。でもな、【異能アビリティ】を使えば俺は誰にも負けねーよ。たとえ神や魔王だろうとな」




 ピクピク痙攣するアグニには、届かなかった。




 ***********




 驚愕するモーラや兵士を完全に無視し、アイトはアイヒの元へ。


 「アンタ……、一国の国王になんてことを」
 「本音は?」
 「スッキリしたわ。もっとボコしてもいいんじゃない?……って、何を言わせんのよ!!」
 「お前が勝手に言ったんだろうが……」


 アイトは少女をなでると、ゆっくりと目を開ける。
 ぼんやりとアイトを見上げ、何があったのかまだ理解してないようだ。


 「よし、この子を連れて行こう。この国にいるよかいいだろ」
 「勝手ねぇ。まぁ賛成だけど」


 少女のまん丸いクマ耳を触ると、少女はくすぐったそうに微笑んだ。


 「なんだ、笑えるじゃん。名前は……、ルカだよな?」
 「あー、うぁー?」
 「………やっぱり。この子、言葉が喋れない。というより必要ないから覚えさせてないのね」
 「うぅー?」


 手を伸ばしアイトに触れようとするルカを、アイトは優しくなでる。
 気持ちよさそうに目を細めるルカを見てると、ミレイは目頭が熱くなった。


 そして、アイトたちの背後から怨嗟の声が。


 「こ、コロシテヤル……!! これは宣戦布告だ!! この【火天アグニ】に対する挑戦と見た!! くくく、キサマ等はもう終わりだ、全軍を率いて【羅刹天領土】に攻め入ってくれるわ!!」


 顔を歪ませ、血まみれのアグニが吠える。
 アイトたちを見て勝利を確信したような歪んだ笑みを浮かべる。


 アイトは立ち上がり、アグニに向き直る。


 「やってみろよ、雑魚が」
 「何だと……!!」
 「ラクシャーサさんの領土に攻め入る? それってつまり、戦争ってことだよなぁ?」
 「そうだ!! はははぁッ!! もう遅い、手遅れだ、先に手を出したのは貴様だ、言い逃れはできんぞ!!」
 「確かにな。じゃあ警告してやる……やめとけ、後悔するぞ」
 「はぁぁ? バカを言うな、後悔するのは貴様だ!! この【火天アグニ】を怒らせた報いを」




 「もういいよ、お前には付き合えない。だから……、見せてやるよ」




 アイトは、目覚めた【異能アビリティ】を発動させる。




 ***********






 「黄昏の世界より来たりし七ツ星。万象神ヤルダバオトの盟友よ」






 アイトが呪文を唱えると、アイトの顔の紋様の1本が黄金に輝く。
 身体を覆うように紋様が広がり、アイトの右目が虹色に輝いた。


 「あ、アイト……!?」
 「これは、何だ!?」
 「け、計測……を」


 アイヒも、アグニも、モーラも驚愕する。
 計測係の魔術師は、腰を抜かしていた。


 アイトがスパンダルマドから貰ったのは、新たな【第三異能サードアビリティ】であり、スパンダルマドそのもの。
 【黄昏世界アーヴェント】で7体しかいない、名前を持つ上位個体。




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 神世かみよの 藍斗あいと ♂ 15歳


 【異能アビリティ
 1・《森羅万象しんらばんしょう大開眼だいかいがん
 ○見たモノの情報を見ることが出来る
 ○究極開示(レベル2)
 ○自身より格下相手の動きを完全に読み取る


 2・《万象神ばんしょうしんヤルダバオトのひとみ
 ○隣り合う世界に干渉することが出来る


 3・《泥蟲どろむしスパンダルマド》
 ○隣り合う世界に居る、【泥】に潜む魔虫を召喚する


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 アイトの中に、新たなアビリティが芽生える。
 そして、それを発動させた。




 「我が呼び声に応え顕現せよ。おかせ、【泥蟲どろむしスパンダルマド】!!」




 ***********




 周囲が、暗黒に包まれた。


 「な、なんだ……?」


 アイトですら驚いた。
 開けた場所だったので、何が起きたかは直ぐにわかった。










 『亜ぁア ア゛あァ亜あ ア゛ぁぁ亜ぁア ア゛あァ亜あ ア゛ぁぁ!!』










 聞こえてきたのは、大気を振るわせる叫び。


 「きゃぁっ!?」
 「う、おぉぉぉっ!?」
 「これは、何なのだ!?」


 それと同時に、大地が揺れ城も揺れる。
 轟音が各地で響き、緑の森に何かが落下してくる。
 黒茶色の液体が、上空からいくつも落下してきた。


 「こ、これって……【どろ】なのか?」


 そして、理解した。
 上空が暗くなったのは、あり得ない大きさのナニかがいたからだと。 
 それは黄色く、まるでアメンボのような生物だった。


 大きさは測れない。
 ジャンボジェット機1000台並んでも、全く足りない。
 〔灼熱王国ボルカニカ〕なんて、脚1本で更地に出来るだろう。


 ボトボトと泥が空から降ってくる。
 泥の雨が森を汚し、ボルカニカ付近にある火山口を完全に塞いだ。


 直径数百キロ以上あるスパンダルマドは、どういう理屈なのか声を発した。




 《あいと……》




 優しい声だった。
 アイトの肩に乗っていた、可愛いアメンボのままだった。


 「す、スパンダルマド……だよな?」
 《うん、やっとしゃべれたよ。それで、この国を滅ぼせばいいのかい?》


 そして、ボタボタと王国を囲むように泥が落ちてくる。
 森は泥の洪水が起き、見える範囲の森が朽ちていく。
 それに合わせて地震、落雷が鳴り始め、誰が見ても国の終わりが始まったように見えた。


 「ちょちょちょ、ちょっと待った!! 待って下さい!!」
 《どうしたの? 早くそこから逃げなよ。この領土全体を泥の海に沈めるから》
 「いやいやいや、そこまでしなくていいって!! ちょっと色々話すからその後で!!」
 《はーい、わかったよ》


 泥の雨は一時的に止み、まるでアイトの反応を待っているようだった。


 「あー……、まぁそういうことだ」


 今やアイトを除く全員が青ざめていた。
 この現象がアイトのアビリティと知り、アグニとモーラは理解する。




 「戦争するならやれよ。その代わり、お前の領土は泥の海に沈むからな」




 それは【火天アグニ】がアイトに屈服した瞬間だった。




 ***********




















 【無限光の11人アインソフオウル・イレブン基礎イェソド】のシャダイが見たのは、空を覆い尽くす泥だった。




 「…………は?」




 気が付いた時には、シャダイは泥の海に。
 数兆トンの泥の海は、シャダイの身体をあっさりと押しつぶした。




 即死。




 シャダイは、アイトにもアグニにも出会うことなくあっさりと死亡した。



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コメント

  • 葛餅太郎

    ミレイは目頭が熱くなった。ミレイじゃなくてアイヒね。

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