神様のヒトミ

さとう

90・火天アグニ



 翌朝。アイトとアイヒは城へ向かっていた。
 城下町を抜けた先には大きな城門があり、熊人の守衛が門を守っている。
 アイトたちが近づくと、露骨に目を細めた。


 「人間が何の用だ? 悪い事は言わん、アグニ様に見られる前に帰れ」


 1人の熊人から出た言葉はアイトたちを気遣うものであり、この対応にアイトは少し驚いた。
 しかし、アイトも引き下がれない。


 「いえ、モーラさんに用事があるんです」
 「モーラ様? 人間であるお前が、アグニ様の第12婦人であり副官のモーラ様に何の用だ?」
 「いや、その……」


 アイトは驚いた。
 まさかモーラが第12婦人という立場だったとは思っていなかった。
 そういうアイトも4人の少女に手を出したから、強くは言えないが。


 「あの、これを」
 「………これは、【羅刹天ラクシャーサ】様の印。そうか、お前は使者なのか」
 「まぁ、はい」


 正確には違う。
 アイトは自分の用事を済ませに来ただけで、紹介状はラクシャーサが好意で準備したものだ。


 「わかった。モーラ様に話を通す、中で待っていろ」
 「はい。ありがとうございます」


 熊人の守衛が合図すると、もう1人の熊人が門を開ける。
 鉄格子のような門がゆっくり開き、アイトたちは中へ案内された。




 アイトは無意識に、胸の写真に手を添えた。




 ***********




 15分ほど別室で待機していたアイトたちの前に、1人の熊人女性が現れた。
 その装いは高級そうなローブで、年も若く見える。
 しかし、この女性はモーラではなかった。


 「ではこちらへ、謁見の間へ案内します」
 「は?」


 アイトとアイヒは驚いていた。
 いくらモーラが副官とは言え、まさか謁見の間に案内されるとは露ほど思っていなかった。


 「ちょ、え? 謁見の間って……」
 「あ、アタシたちは別に、王様に会いに来たワケじゃ」
 「いえ、アグニ様からの命令なのです。モーラ様に会おうとする人間が何者なのか、見定めるおつもりでしょう」


 熊人の女性はドアを開けると、アイトたちを促す。
 アイトとアイヒは顔を見合わせ、取りあえず着いていくことにした。


 「ではどうぞこちらへ」


 女性に着いていくアイトたちは無言だった。
 緊張もあったが、ガロンの死をどう受け止めるのかも気になった。
 別れたとはいえ、かつての夫。どのような心情なのかアイトには理解出来ない。


 「………ふぅ」
 「アイト、緊張しすぎよ」
 「わかってる」


 5分も歩いただろうか、大きな木製の扉の前に到着した。


 「こちらです。失礼のないようにお願いします」
 「はい。わかりました」


 扉の両側にいた熊人が、ゆっくりと扉を開く。




 アイトは胸の高鳴りを感じながら、謁見の間に踏み込んだ。




 ***********




 王座に座っていたのは、2メートルはありそうな赤熊人だった。
 真っ赤な髪をオールバックにし、立派なヒゲを蓄えた、見た目は30代後半ほどの男性だ。


 そしてその隣に控えるのは、20代前半ほどの熊人女性。
 スラリとした体軀だがスタイルはかなりいい。長い髪を纏め、知的なメガネを掛けていた。


 王座に座る男性・火天アグニはアイトたちを眺める。
 つまらなそうに、くだらなそうに。


 「臭い」


 最初の一言が、アグニから発せられた。
 アイトもアイヒもワケが分からずポカンとする。


 「人間臭い、なぁモーラ」
 「は。アグニ様」


 侮蔑と嘲笑を込めた眼差し。
 アイトはピキリとする。


 「さて、我が妻モーラへの用件とは何だ? ラクシャーサのガキの紹介状を持ってるくらいだ、さぞ面白い用件だろうな?」
 「………はい。モーラ様の前夫、ガロンの遺言でございます」


 その言葉に、モーラの眉がピクリと動く。
 アイトは立ち上がり、胸ポケットから1枚のガラス板の写真を取りだした。


 「これをモーラ様へ、そして……「済まなかった、愛してる」……と」


 アイトの傍に1人の熊人が来てガラス板の写真を渡す。
 そしてその写真はモーラの手に運ばれた。


 「………そう、ですか」


 モーラは写真を見つめ、アグニは顔を伏せ震えている。
 アイトも顔を伏せ、静かに黙祷した。


 そして






 「ふむ。少しは感情が乱れると思いましたが……なんてことありませんでした」
 「くくくくく………っ!! ガァッハハハハハハ!!」






 モーラはガラス板の写真を床に落とし、踏みつけ砕く。
 アグニは盛大に笑い、涙まで零していた。


 「え………」




 アイトは信じられないモノを見たように硬直した。



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