神様のヒトミ

さとう

88・灼熱王国ボルカニカ①



 「あいひ~……、もういっかい~……」
 「もうダメだってば、2日もヤるなんて……。ああもう、どうかしてたわ」
 「じゃああと一日だけ……」
 「ダメ、明日には出発するからね。ほら、夕食作るから火を起こして」
 「……はぁ」
 「……食後に、ね」
 「よっしゃ!! 今日のメニューはなんだ? 精が付くのがいいな!!」
 「もう……、バカ」


 アイヒは笑顔でアイトにキス。
 アイトはたまらなくなったが、我慢して着替え、火を起こす。


 「この2日、ロクに食べてないし、栄養ある物にしましょ」
 「わかった。任せるぜ」
 「はいはい。ふふふ」


 アイヒに笑顔が戻り、アイトも嬉しかった。
 2人は心と身体で繋がり、アイヒはようやく素直になった。
 そして、ミレイたちとアイヒは並び、ようやく遠慮なく先に進める。


 「ふんふんふ~ん♪」
 「ご機嫌だな、アイヒ」
 「そう? えへへ」
 「うん。ご機嫌だ」


 アイヒはシチューを作り、パンを出す。
 2人は完食し、川で身体を清め再びテントの中へ。




 もう、互いの遠慮はなくなっていた。




 ***********




 〔灼熱王国ボルカニカ〕
 そこは森に囲まれた王国であるが、近くにはデズモンド地域で最も巨大な火山がある。
 最後に噴火したのは、魔帝族と人間族の争いの最中と云われ、双方ともに大打撃を受けたそうだ。


 【魔王】はそこに王国を作り、【魔帝十二神将】の1人、【火天アグニ】に守護をさせる。火を司る獣王種族である〔赤熊人〕に火山を監視させることにしたのである。


 アイトとアイヒは、ボルカニカ手前の街道を魔導車で走っていた。
 街道は森に囲まれ、徐々に気温も上がっている。


 「と、ラクシャーサさんから聞いたのはそんなとこね。その【火天アグニ】は完全な魔帝族主義者で、人間を下にしか見ていないそうよ。だからラクシャーサさんとは折り合いが悪くて、細かな情報が入って来ないんだって」
 「ふ〜ん。まぁ写真を届けるだけだしな。一応、ラクシャーサさんに紹介状を書いてもらったけど」


 ラクシャーサは、事前に紹介状を持たせていた。
 人間嫌いのアグニが、自分の妻をいきなり人間に会わせるとは思っていなかったからである。
 いくらアグニといえど、同じ【魔帝十二神将】の紹介状を無視することは出来るはずがない。


 「·········ねぇアイト、聞いてもいい?」
 「ん?」


 アイヒは魔導車を路肩に停め、アイトに向き直る。


 「······ボルカニカには、人間の奴隷がいるわ」
 「······で?」
 「ラクシャーサさんの話だと、ボルカニカには人間収容施設があって、そこで教育をされた人間を売買するオークションが開催されてる」
 「·········」
 「アイト、はっきり聞く」




 「もし、人間たちに助けを求められたら、アイトは助ける?」




 アイトは、即答出来なかった




 **********




 アイトにとって、最初に出会ったのは魔帝族だ。
 命の恩人で、知恵と力を授けてくれた、集落の魔帝族たち。彼らは家族で、大切な人たちであった。


 そこに攻めて来たのが、人間たち。しかもアイトと同郷の人間。


 ミコトを攫われ、助けに向かった先が魔帝族収容施設。
 ライラを引きずり回し、身体中に怪我をさせた人間。


 もちろん、悪い人間ばかりではない。
 ヤドやハク、トマルのような人間もいることは知っている。
 それでもアイトの中では、人間より魔帝族を優先する気持ちが強かった。


 アイトも人間だ。
 目の前の全てを助けるつもりなんて毛頭ない。
 納得出来なければ怒るし、ざまあみろという気持ちもある。 


 シェスタ王国の魔帝族奴隷を開放したのだって、ミコトを救うため、しかも開放したのはクナイだ。
 アイトの中では諦めもあった。口には出したが、正直なところ、ミコト以外はどうでもよかった。


 そんなアイトが、もし人間に助けを求められたら。
 もし、人間族のレジスタンスに、収容施設を襲う手助けを依頼されたら。


 アイトは一体、どうするのか?




 「······わからない」




 **********




 アイヒは予測してたのか、ノータイムで答える。


 「じゃあ約束して。騒ぎを起こさないって、奴隷を見ても助けないって」
 「······それは」
 「アイト、優しいのは分かる。もし魔帝族に人間の子供が理不尽な暴力を受けてたら、アンタは絶対に助ける。でもそれは、この国や世界じゃ当たり前なの。中途半端な気持ちと覚悟で関わっちゃいけない。関わるなら全てを救う覚悟で助けないといけない」
 「アイヒ、お前」
 「逆の立場だったらアンタは立ち上がる。ミコトやライラのために、アンタはデューク王国や人間と戦える。でも、揺れる気持ちのまま戦えば、アンタは絶対に負ける」
 「·········」


 アイヒは、アイトの手を握る。


 「アイト、覚悟のないまま戦わないで。負けて失う物は、今のアイトには多すぎて重すぎる」


 アイヒの真摯な思いがアイトに伝わる。


 「······わかった。写真を届けたら直ぐに帰ろう。仕事もあるし、忙しいからな」
 「······うん」


 もしアイトが手を出せば、ラクシャーサにも迷惑がかかる。
 アグニの領土内で、ラクシャーサの領土の領主であるアイトが手を出せば、何を言われるか分からない。
 もしかしたら、侵略者として疑われ、戦争になるかもしれない。


 アイヒの懸念は、アイトには深く理解出来た。
 失う物は、多くて重すぎる。


 「行くか、夕方には到着するだろ」
 「うん。宿を取って明日行こうね」




 ボルカニカに、間もなく到着する。
 

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