神様のヒトミ

さとう

87・愛の意味



 「………」
 「………」


 ヒノの町を出て数日。アイトたちは無言で旅を続けていた。
 移動は徒歩を止め、2人乗りの魔導車を購入し、アイトの運転で街道を進む。


 「……なぁ」
 「なに?」
 「……えっと、ボルカニカに着いたら宿を取って、【火天アグニ】の城へ向かおう。そこでガロンさんの元奥さんに写真を渡して帰ろうぜ」
 「ええ。何回も聞いたから大丈夫よ」
 「………」


 アイヒは素っ気ない。
 アイトとは目も合わさず、窓から外を眺めてる。


 【火天アグニ】の領土内は森や山が多く、街道こそ整備されているが、まるで未開の地を走ってる感覚にアイトは捕らわれた。
 ヒノの町はラクシャーサの領土寄りだから木々や森は少なかったが、奥に進むに連れ緑が濃くなっていく。
 魔獣も見えたが、無駄な戦闘はせずに通り過ぎた。


 時刻は午後3時頃。
 街道を走ると小さな川が流れているのが見え、アイトはアイヒに聞く。


 「川もあるし、少し早いけど今日はこれまでにするか。野営の準備をしよう」
 「そうね。じゃあテントをお願い」
 「ああ」


 川沿いからやや離れた木の下に魔導車を停め、トランクからテントを1つ取り出す。
 アイトがテントを組んでる間、アイヒは周囲に魔術結界を敷く。
 これで魔獣は寄ってこないので安全になる。


 「夕食……、まだ早いわね。下ごしらえだけするわ」
 「ああ。俺はかまどを作るよ」


 アイトは簡易テーブルを組み立て、アイヒはその上で食材の下ごしらえを始めた。
 その間、アイトは大きな石をいくつか組み合わせかまどを作り、アイヒが出した薪を側に置く。
 すると、アイトは顔を上げた。


 「………ふむ、近くに何か居るな」


 アイトは周囲を探ると、魔獣の気配を感じた。
 こちらには気付いてないようだが、アイトは悩む。


 「狩るか、それとも……」
 「止めなさいよ。余計な殺生はしなくていいわ、別に肉が欲しいわけじゃないし、アタシの結界に気が付かないザコなら、放っておきなさいよ」
 「お、おお。そうだな」


 アイヒは肉を切りながらアイトを見ずに言う。
 素っ気ない態度に釈然としないアイトだが、素直に従った。


 それから1時間、辺りが暗くなり始め、アイトはランプを着けて火を起こす。
 アイヒは飯ごうを火に掛け、鍋に肉野菜を入れてカレーを作り始めた。


 アイトは皿とコップを準備し、魔術を使い水差しに水を入れる。
 カレーを作りながら、アイヒは手早くサラダを盛り、ご飯も炊きあがりカレーも完成した。
 木の皿にカレーをよそい、2人でテーブルに並べて食べ始める。


 「うん、うまい」
 「どうも」
 「………」
 「………」


 カレーを食べながら、アイトは釈然としなかった。
 アイヒの機嫌が悪いのは、エルとの行為を見てからだ。
 その前にミレイとの行為も見られてるし、何故ここまでアイヒの機嫌が悪いのかアイトには分からない。


 しかし、そのことをミレイに相談したら、あっさりと答えが返ってきた。
 そして……、対処法も。


 「ごちそうさま」
 「………」


 食器を洗い、ほぼ無言のままアイトはお茶を煎れる
 簡易テーブルに置くと、片付けを終えたアイヒが座って飲み始めた。


 「………」
 「………なぁ」
 「なに?」


 素っ気ないアイヒに、アイトは聞く。


 「俺と一緒がイヤなら、村に帰るか?」
 「………は?」
 「なんで機嫌が悪いのか知らないけど、そうも露骨な態度だとこっちも参る。手紙を渡すだけだし、イヤなら帰るぞ」
 「………」
 「ヒノの町から出直しだけど仕方ない。帰ったらちゃんと話そう」
 「……ッ!!」
 「はぁ……。じゃあ行く熱っちぃぃっ!?」




 アイヒは、アイトの煎れたお茶をアイトにぶっかけた。




 ***********




 「な……、何しやがんだ!!」
 「この……、この、バカ……」


 アイトは怒り立ち上がるが、アイヒも立ち上がる。
 その目には涙が浮かび、同時に怒りも内包していた。


 「なによ、なによなによ!! ミレイといいクナイといい!! それに……、エルまで!!」
 「な、なにがだよ!!」
 「うっさい!! このヘンタイ!! アンタはヤれれば誰でもいーの!?」
 「は、はぁぁ!?」
 「こっちはずっと悩んでたのに……、こっちの気も知らないでエルに手ぇ出して……!! あぁもう、ワケわかんない!!」
 「お、落ち着けよ……。こっちもワケ分かんねーよ」
 「ミレイはアンタが大好き、クナイはアンタを受け入れて、エルは? エルは何なの!?」
 「え、エルは……」
 「アタシは? アタシは何よ……」
 「………」
 「もういい、寝る……」
 「お、おい……」


 アイヒはそのままテントの中へ入った。
 残されたアイトは、今の言葉の意味を考える。


 「エルは? エルは……」


 アイヒが言いたいのはきっと、エルに手を出した理由。
 アイトはミレイを愛し、成り行きでクナイを抱いたが、今はクナイを愛している。
 エルに手を出したのは、欲望に負けたから。
 エルが無抵抗なのをいいことに、自身の欲望をぶつけたから。
 抱く事で初めて、エルを愛しく感じたのも事実。アイトの中ではもう、エルはかけがえのない存在となっていた。


 「ミレイ、クナイ、エル……、じゃあ、アイヒは?」


 アイトはテントを見つめて考える。
 ミレイと一緒に、アイトを探してデューク王国から脱走してきた少女。
 アイトは嬉しく思った。忘れずに居てくれたことが。
 その後ミレイに告白され、その思いを心と身体で感じた。


 「アイヒも……。俺のことを……」


 アイトは、胸がくすぐったくなった。
 アイヒのいるテントを見つめ、ミレイの言葉を思い出す。




 『アイヒは素直になれないの。だから………、襲っちゃえ』




 アイトはゴクリとツバを飲み、深呼吸する。
 覚悟を決め、テントに向かって入口を開ける。


 「アイヒ」
 「え……、アイト?」
 「悪い。もう我慢しない、誤魔化さない」
 「え、あ」


 アイトは服を脱ぎ、アイヒに覆い被さる。
 最初は驚いたアイヒだが、抵抗は弱々しく、あっさりと破られる。


 「エルを抱いたのは勢いだったんだ。でも、今は大事な人」
 「ちょ、なによそれ!?」
 「はは、そーいうこと」
 「な、ばか……」




 この瞬間から2日間、アイトたちは動くことはなかった。



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