神様のヒトミ

さとう

81・ベッコウとホウテン



 「う〜ん、やっぱり発展してるな」
 「ま、今回は2週間以上開けたしね」


 村はもはや村とは呼べない規模に成長していた。
 明らかにガトナ村より大きく、アイトたちが知らない店もいくつかあった。


 「へぇ、転移魔術とは恐れいったわね。長く生きてるけど、久しぶりに見たわ」
 「えっへへ〜、アタシの力作でーす」
 「それに、この村······、なんか落ち着くわ。気持ちいい······」


 目を閉じて深呼吸をするアスルル。
 取り敢えずアイトは村を軽く案内することにした。


 羊人家族の店や、大衆浴場である〔桜湯〕など、アイトが知る限りの案内をして、1軒の家に来る。
 そこは村の中央より少し外れだが、ログハウス風の作りの家で、家の裏は日当たりのよい畑になっている。


 「もし移住されるなら、この家なんてどうでしょう。裏には畑もあるし、1階を店舗にして2階を生活スペースにするなんてどうですか?」
 「·········」


 アスルルは黙ったまま家を覗く。
 ヒノの町のアスルルの家より広く大きい。棚を運べばそのまま営業出来るだろう。
 裏の畑は日当たりもよく川の水も引いてあるので、農作物や茶葉を育てるのも出来る。


 ちなみに、すぐ近くには大きなレンガの建物が2つある。
 それぞれが武器防具屋として建設した物だ、他意は無い。
 武器防具、装飾品屋は近くにある。というアイトの思い込みで造ったからだ。


 「村はまだまだ発展しますし、足りない物があるなら言って頂ければ」
 「いい」
 「え?」
 「いいわ、ここ。スゴくいい」


 アスルルはアイトの手を掴み、ブンブン振る。


 「穏やかで気持ちいいし、自分で好きなお茶も育てられる。いいわ、実にいいわ‼」
 「ど、どうも」
 「正直、ヒノの町は私に向いてないって思ってて。でも行く場所なんてないし、熱いのとうるさいのを我慢すればいい町だったし。でも、こんないい物件を見せられたらもうダメね。決めたわ、ここで仕事をさせてもらうわ‼」
 「わわ、分かりました。一旦帰りましょう、話はそこで」
 「ねぇ、この物件、キープしてくれるの⁉」
 「は、はい。大丈夫です。アイヒ、エル、ウルフィーナさんに言っておいてくれ、俺はアスルルさんを送ってくから」
 「はいはい。ついでにエルを案内するから」
 「ああ、教会の件も伝えておいてくれ」  


 そう言うと、アイヒとエルは行ってしまう。
 アイトは再びヒノの町へ戻って来た。


 「ふぅ〜、さぁて、引っ越し準備しなくっちゃ。お世話になったお店をキレイにしないとね」
 「即決ですけど、ホントにいいんですか?」
 「もちろんよ。むしろ楽しくなってきたわ。実は倉庫に故郷から持ってきた種や苗木が保存してあるの。機会がないから育てられなかったけど······。ふふふ、楽しみ」


 アスルルは玄関を開けて倉庫に行くと、大きな箱をいくつも持ってきた。
 どうやらすぐに引っ越しを始めるらしい。


 「さ、貴方も手伝ってくれるんでしょ?」
 「はーい。ま、いいか」
 「ふふ、長く暮らしたこの町ともお別れ会ね」










 「「えっ······」」










 開いていた入口に、2人のドウェルグが立っていた。




 **********




 「あああ、アスルルさん? おりゃあアンタが出て行くって聞こえたんだが······」
 「バババ、バカヤロー‼ そんなワケあるか、ははは」


 低身長のヒゲオヤジ2人が、ガタガタ震えてる。
 すると、アスルルが悲しそうに言う


 「ごめんなさい。実はこの子の村に職人としてスカウトされちゃって、移住を決意したんです。申し訳ないですけど、フルーツパイは諦めて下さいな」
 「そそそそ、そんなァァァっ⁉」
 「諦める? 諦めるだとォォォっ⁉」


 何を勘違いしたのか、ベッコウとホウテンはアイトに詰め寄って来た。


 「ててて、テメェぇぇっ‼」
 「お、お、おれのアスルルさんをォォォっ‼」
 「ちょちょ、ちょっと落ち着いて下さいよっ⁉」


 アイトの予想と違ったが、ここで2人に話を切り出すことにした。


 「じ、実は、俺の村には優秀な鍛冶屋と武器防具屋も不足してるんです。それで、お二人も宜しければお誘いしようかな〜なんて、その······」
 「「·········」」


 アイトの誘いに、2人はピタリと動きを止める。
 お互いの顔を見て、アスルルを見て、再びアイトを見た。


 「いいだろう。まずは村の場所を教えろ」
 「ああ。それと、鍛冶場の設備も見せろ。村はどこだ? 何日掛かる?」


 
 アイトは心の中でガッツポーズした。




 **********




 そして、テレポーラ。
 2人は転移魔術に驚いたが、すぐに立ち直る。
 どうやら長く生きると大抵のことは驚かないらしい。


 「ほう‼ 温泉があるのか‼」
 「おい見ろよホウテン、あいつら、武器防具をなんだと思ってやがる。あんなに血の油が付いちゃ切れるモンも切れねぇぞ」
 「おい坊主、ここにゃあマトモな鍛冶屋はいねーのか?」


 歩く冒険者たちの装備を見ながら、2人は呆れていた。
 そして、立派なレンガ作りの武器防具屋へ到着する。


 「ほう、見てくれは立派だな」
 「ああ。おれの店より立派だ。でも仕事場が肝心だな」


 2人はそれぞれの建物に入り、足りない物や不備を指摘する。
 アイトはメモを取り、後ほどウルフィーナに渡す予定だ。


 「武器防具屋の裏には、お弟子さん用の宿舎もあります」
 「ほぉう、そこまで考えてるとはな」
 「若えくせに大したモンだぜ」
 「い、いや、あはは」  


 実は武器防具屋を作る際、ウルフィーナが指摘し建築しておいたのだ。
 腕利きの鍛冶屋は、弟子を抱えるのが当たり前。なので弟子たちの宿舎を建設しておくべきだと。
 その判断が正解だとアイトは理解した。


 「で、どうでしょうか。村には来て頂け」
 「お、おい坊主。あれがアスルルさんの店か⁉」
 「へへ、なぁ小僧、オシャレな酒場とかあるのか? なぁおい」
 「·········」




 聞くまでもなく、移住は決定のようだ。




 **********




 それから数日。
 アイトはヒノの町で、アスルルたちの引っ越しを手伝った。


 ホウテンとベッコウの店は、互いの一番弟子が引き継ぐらしく、数人の弟子を連れてベッコウたちは移住することになった。


 引っ越しが終り、次の日には武器防具装飾品屋の看板が上る。
 営業開始と共に、さっそく鉄を打つ音が響く。


 その音を聞いた冒険者が、武器防具の修理を依頼したり、ようやく稼働を始めた武器防具屋を覗き込む。


 見た目に反して優しく面倒見があるホウテンとベッコウは、若い冒険者に経験を生かしたアドバイスを送り、その人物に合った武器防具をオーダーメイドで作る依頼も受けた。


 アスルルの装飾品屋は、若い女性や冒険者たちに人気で、連日賑わいを見せている。
 たまに2人のドウェルグが店を覗き、女性客を驚かせることも珍しくない。


 こうしてリアン村は、最低限の設備が整った。
 アイトは、賑わう武器防具屋を見ながら思った。






 「あぁ、いつになったらボルカニカに着くんだろう」



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