神様のヒトミ

さとう

78・エル



 「さてアイト、まずは状況を整理しましょう」
 「はい」


 アイトとアイヒは、テントの中で会議をしていた。
 リアンの村を出て10日。旅は順調に進んでいる。


 「まず、リアンの村からロアの町へ転移。そこから徒歩で【火天アグニ】の領土まで進み、最初の町である〔ヒノの町〕に向かう」
 「ああ、んで俺らは無事に【火天アグニ】の領土に入って、ヒノの町まであと数日のところまで来たんだよな」
 「ええ。ヒノの町で鍛冶屋を探して、そこに居なかったら〔灼熱王国ボルカニカ〕で探すってことになってる。ここまではいいわね?」
 「ああ。ヒノの町からボルカニカまで4日、出来れば町で魔導車を買いたいとこだな」
 「そうね、流石に疲れたわ……」


 ここまでの移動は殆ど徒歩。
 正確には、『雷駆ライク』を纏ったアイトに、アイヒが掴まっての移動だ。
 アイトにとっては修行になるし、早く目的地に到着するという魂胆があったが、あまりの速度にアイヒがダウンし、結局ゆっくりしか進めなかった。


 「そこで、問題を整理しましょう」
 「ああ。賛成だ……」


 アイトとアイヒは、同時に視線を向ける。
 テントの真ん中、アイヒとアイトに挟まれた存在。




 「この子、誰……?」




 そこに居たのは、フワリとした長い黒髪の少女だった。




 ***********




 長くフワリとした髪に、整った顔立ち、着ている服は神官のような高級ローブ。
 アイトが注目したのは、さらにその下。


 「………デカいな」


 ローブの上からでも分かる2つの膨らみ。
 ミレイやクナイよりも大きく、アイヒより大きいかも知れない。
 ゴクリと唾を飲み込むと、カラフルなチョウチョがアイトを包囲した。


 「そう、死にたいのね?」
 「まま、待てっての!? 落ち着けって!?」


 にっこりと笑い、《魔杖パトリオット》を構えるアイヒ。
 どうやらアイトの視線を正確に理解し、全てを悟ったようだ。


 「ふん。男ってみんなそうね、胸ばっかり見て」
 「ぐ……」


 アイトは反論が出来なかったので、本来の話題に戻る。


 「と、とにかく!! この子は誰だよ、気絶……、いや、寝てんのか?」
 「アタシたちと一緒にいた【救世主】じゃないわね。アタシも初めて見た」
 「……どうする? 敵なのか?」
 「いや、敵ならなんで一緒に寝てるのよ、ワケわかんないじゃん」
 「う~ん……。なぁアイヒ、起こしてくれよ」
 「え、アタシが?」
 「お前しかいないだろ。起きていきなり男の俺が居たら勘違いされるだろーが」
 「……まぁ、確かに」


 アイトは立ち上がると、着替えを持って外に出る。


 「俺は朝食作ってるから、後は頼む。一応警戒はしとけよ」
 「わかった」


 アイトは、眠る少女の顔を見た。


 「………なんか、ヘンな感じ」




 アイトは何故か、右目が疼くのを感じた




 ***********


 
 「あ、あの~……」
 「ふぁ?」


 アイヒは、謎の少女を揺り起こす。
 すると、眠そうな呻き声を上げ、ぼんやりと眼を覚ました。
 アイヒは警戒しつつ声を掛ける


 「ふぅ……。起きなさい!! アンタ誰よ!!」
 「うひゃあっ!? ごごご、ゴメンなさーいっ!! あれ、あれれ?」


 少女は飛び起き、キョロキョロ周囲を見回すと、アイヒに気が付く。


 「ここ、そういえば……。あ、そうだ!! 『万象ヤルダバオト』!! 『万象ヤルダバオト』は!? 貴女がそうなんですか、貴女が『万象ヤルダバオト』のアイトくんですか!?」
 「ちょ、おお、落ち着きなさいよ!!」


 アイヒに抱きつくように覆い被さる少女。
 お互いの乳房が潰れ、ぐにょんと形を変える


 「アイトくん・・って、アタシは女よ、お・ん・な!! 見りゃわかんでしょーが!!」
 「あ、確かに。じゃあアイトくんは!? 私、アイトくんを探して……。《真なる隣人トゥルーネイバー》が狂っていたの?」 
 「はぁ? アイトなら外に居る……、っていうかどいてよ!! あとアンタ誰よ!?」
 「あ、すみません」


 少女はようやくアイヒから退き、ぺこりと頭を下げた。


 「私は初見恵留。エルって呼んで下さい、貴女は……、ミレイさん?」
 「違うっての、アタシはアイヒよ」
 「アイヒさんですね。その……、行方不明の」
 「あ、やっぱそういう扱いなんだ」


 アイヒはデューク王国から脱走したとき、死亡か行方不明扱いになるだろうと踏んでいた。
 エルがデューク王国から来た【救世主】とわかったので、聞きたいことは山ほどある。


 「あの、アイトくんは……」
 「ああ、朝ご飯作ってるわ。まぁ危険はなさそうだし、とりあえず色々聞かせてもらうから」
 「は、はい。私も聞きたいことが山ほどありますし、言わなきゃいけないこともあります」


 すると、テントの入口から声が聞こえてきた。


 「お~い、平気か~?」


 その声に、エルの身体がビクンと跳ねる。
 そして、ゆっくりと入口が捲られた。


 「………」
 「………」
 「な、なによアンタ達」


 アイトとエルは見つめ合う。
 そして、エルの瞳から涙が零れた。


 「あ、あれ?……おかしいな?」 
 「お、おう? なんか、ヘンだな……?」


 アイトもよく分からない感情に支配される。
 くすぐったいような懐かしさを感じた。


 「あ~……メシにしようぜ」
 「……はい」




 アイトはすんなりと、エルを受け入れた。




 ***********




 朝食が終わり、アイトたちはテントでお茶を飲んでいた。


 「つまり、俺に『虚無インビジブル』とかいうヤツを倒して欲しいってことか」
 「はい。それが『慈愛ミストラル』様の願いです。私は貴方のサポートのために呼ばれたみたいです」
 「じゃあクナイと同じね、あのコも『天魔アーカーシュ』に呼ばれたって言ってたし」


 アイトたちは、エルから話を聞いた。


 『虚無インビジブル』が「ヒト型の鱗粉」で、この世界で遊んでる「神」
 『万象ヤルダバオト』がこの【生物世界ラーミナス】を作った「神」で、『天魔アーカーシュ』と『慈愛ミストラル』が崇拝していた。しかし『万象ヤルダバオト』が『虚無インビジブル』に始末され、その恨みを持っていた。
 そしてアイトが『万象ヤルダバオト』のアビリティを受け継いだことにより、『虚無インビジブル』を始末出来る可能性が出てきた
 だから『慈愛ミストラル』と『天魔アーカーシュ』は別世界からクナイとエルを呼び、アイトを補佐を任せ、いつか【虚空世界ヴァニタス】で『虚無インビジブル』を始末させようとしている。などだ。


 アイトは頷き、結論を出す。


 「とりあえず、保留だ」
 「なな、何でですかぁ!?」
 「いやだって、やることいっぱいあるし。それに【虚空世界ヴァニタス】だっけ? どうやって行くのか知らねーし、そもそも「神」の言いなりなんてまっぴらゴメンだ」
 「あ、あぅぅ……」
 「確かにあの「ヒト型の鱗粉」はムカつく。でもこっちの世界に干渉出来ないならどうでもいい。正面からケンカ売られたら喜んで買うけど、俺にとって大事なのは、ガロンさんとの約束だ」
 「で、でも、『虚無インビジブル』はデューク王国の【救世主】にも影響を及ぼしてるって。魔帝族と人間の戦いが始まれば……」
 「どうでもいい。俺にとって大事なのは、リアン村と家族たちだ」
 「じゃあ……。その家族が危機に陥ったら?」


 アイトはニヤリと笑い、冷酷に告げる。


 「決まってる、その時は戦う。魔王だろうが【救世主】だろうが〔勇者〕だろうが、俺が全てぶっ潰す」


 その答えに、エルは背筋が震えた。
 アイトなら、デューク王国だの魔帝族だの魔王だの、本当に纏めて吹き飛ばしてしまうかもしれない何かを感じた。


 「……そう、ですか」
 「悪いな、俺の目的は1つ。家族と、大事な物を守ることだ。人間と魔帝族の戦いじゃない。ましてや「神」の言いなりでもない」
 「……わかりました」


 エルは立ち上がり、アイトを見下ろした。


 「私は、貴方に着いていきます」
 「は?」
 「へ?」


 黙って聞いていたアイヒですら、困惑していた。


 「私が託された願いは、貴方を助けること。だから貴方に着いていきます」
 「いやいや、それは」
 「いいえ、私の役目は『万象ヤルダバオト』を助けること。『虚無インビジブル』を滅ぼすことでも、デューク王国と一緒に魔帝族を滅ぼすことでもない。この世界で生きる目的は、貴方と共にあることです」
 「………」
 「………」


 アイトとアイヒは顔を見合わせる。


 「あー……、じゃあ、村に行くか?」
 「はい!! 私は回復魔術が得意です。ケガや病気は私に任せて下さい!! あと、教会って村にありますか?」
 「えと、な、ないわね」
 「そうですか……」
 「あー、頼めば作れるかも、うん。建築予定に入れておこう」
 「そ、そうね。村で結婚式を挙げる人がいるかもだし」
 「ホントですか!? 嬉しいです!!」


 アイトとアイヒは、流されるままエルを迎えた。


 「あ、アイト。ヒノの町に着いたらテレポーラを使って。じゃないとテレポクリスタルに反映されないから」
 「わかった。じゃあしばらく一緒に行くか」
 「はい!! よろしくお願いします!!」


 アイトは思った。
 またしばらく先に進めないなと。




 流されるまま、エルを村人として迎えることになった。



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