神様のヒトミ

さとう

閑話・リアン村にて②



 クナイの薬屋。〔くすりのくない〕は、冒険者たちだけでなく、移住者の子供たちにも人気の場所になった。
 その秘密は和菓子。クナイ特製の和菓子は人気で、値段も手頃なので子供たちが買いに来るのだ。


 そして、お菓子だけではない。
 ポーション、ハイポーション、エクスポーションという3種のポーションはもちろん、魔力を回復する3種のエーテル、状態異常を回復する薬草や、アイヒからもらったドラゴンの血で精製する万能薬もあった。
 もちろん値段は張るが、飲むだけで体力や怪我を癒やすポーションはもちろん、魔術師にとって生命線と言える魔力を回復するエーテルまであるのは大きかった


 クナイのアビリティのおかげでもあるが、ポーションと違ってエーテル類の精製は難しく、王国の錬金術師でも精製が難しい。なので非常に高価なのだ。


 しかし、クナイの薬屋では、全種のエーテルが置いてある。
 素材は森で簡単に集められるし、クナイにとっては精製なんて朝飯前。
 販売値段も従来品の半値で売っていた。


 「あ、あの。エーテルが1本50万コインってホントですか⁉ っていうか······」
 「もちろん、本物ですよ?」


 こんな疑いを掛けられることもある。
 しかし、見る人が見ればわかるらしい。


 「失礼なことを言うなこのバカたれ‼ この鮮やかなルビー色、そして透明度。······本物じゃ、間違いない‼」
 「ま、マジかよ⁉」
 「おいおい、王国じゃ1本150万はするぜ⁉」


 魔術師らしき老人が、クナイの作ったエーテルを見て断言した。
 すると、何人かの冒険者が老人に注目する。


 「あ、あの〜、アンタ誰?」
 「ワシを知らんのかこのバカたれ‼ ワシは〔リアン・冒険者ギルド〕のギルド長、クロウリーじゃ‼」


 クロウリーと名乗った魔術師は、座敷でお茶を啜るクナイを見た。


 「初めましてお嬢さん。ワシはラクシャーサの頼みで来た魔術師での、これから宜しく頼むわい」
 「初めまして、私はクナイと申します。これから宜しくお願いします」
 「うむうむ。来た早々、良いモンを見せてもらったわ。ラクシャーサのヤツがワシに頼むから、どれほどの村かと思ったが、温泉はあるわ可愛い薬屋はあるわ、面白い場所じゃのう」
 「はい。我が主殿のお力で、ここまでの村になったのです。この村はまだまだこれからですよ」
 「ホッホッホッ、実に楽しみじゃ」


 突然現れたギルド長に、冒険者たちは困惑していた。
 そして、その名前にも。


 「く、クロウリーって、あのクロウリー⁉」
 「『大いなる獣バフォメットクロウリー』って、伝説の魔術師‼ 人間族なのに1000年の時を生きてるって噂の⁉」
 「こ、こんな辺境のギルドのギルド長だって⁉」


 くたびれたローブに三角帽子、シワだらけの顔立ちに、真っ白な顎髭を蓄えた、イタズラ小僧みたいな笑みを浮かべた老人。
 顎髭をなでつけ、楽しそうに笑う


 「ホッホッホッ、励めよ若者たち」




 クナイは、クロウリーのためにお茶を淹れた




 **********


 
 ガロンの家に増築された館の1室に領主代行であるウルフィーナの執務室が存在する。


 現在、アイトはボルカニカへ職人のスカウトへ。······という名の大事な用事を済ませに向かっている。
 それが終わるまで、ウルフィーナが村の仕事を行っている。


 現在の立ち位置は、ウルフィーナが領主代行、夫のギャングが領主代行補佐という立ち位置である。


 ウルフィーナは入居希望者の手続きを行い、入居理由や村での目的などが書かれた書類に目を通していた。


 「ふぅ、まさかここまで入居希望が多いとは。職人を増やして住居建築を進めてるとは言え、対応しきれませんね」 
 「ああ。資金はあるから問題ない。さらに町の専属傭兵用の宿舎の建設、宿屋の増築、商店の店舗拡大など、短期間でここまでの成長をするとは思わなかった」
 「ええ、これも全部、温泉とダンジョンの効果ね」


 事実、その通り。
 クナイがダンジョンを見つけたその日に、ギャングは調査を行った。そして周囲の特徴からダンジョンと判断し、ラクシャーサに報告をした。
 そしてダンジョンと認可され、数日で冒険者が集まり出した。
 どうやらこの辺りにはダンジョンが少なく、何度も踏破されたダンジョンばかりだったので、我先にと踏破を目指した冒険者がゾロゾロ集まり出したのだ。
 それと平行し、ラクシャーサがクロウリーを派遣。先を見越して大きく建設した冒険者ギルドも、本格的に稼働を始めた。


 毒の森の先には高難易度ダンジョン、村に戻れば温泉と充実した商店に美味い酒場と料理店。


 このまま行けば、移住希望者の中に料理人や商人が来るのは時間の問題だ。
 新たな店や飲食店も増えるだろう。


 「忙しくなるな」  
 「ええ。でも······」
 「ああ。悪くない」


 ウルフィーナとギャングは顔を合わせ笑い合う。


 「ラクシャーサ様の事務次官として入った私と、護衛として入った貴方······」
 「懐かしいな、と言っても100年ほど前か」


 ウルフィーナとギャングは同じ集落で育った幼馴染。
 同い年で、同じ狼人の2人が仲良くなり、将来を誓い合うのに時間は掛からなかった。
 そして頭の良かったウルフィーナは事務次官に、強さのあったギャングは護衛になり、ラクシャーサの計らいで、ギャングはウルフィーナ専属護衛兼補佐として一緒に働けることになった。


 最初はこんな僻地の、しかも子供に仕える心配はあったが、アイトに触れて考えを改めた。
 この村の発展に、これからも尽くして行こうと思えるようになったのである。


 「ウルフィーナ、傭兵団の方はどうなった?」
 「ええ、ガトナ村に逃げてきた魔帝族の捕虜たちが集まって、傭兵団を組織したの。団長はブルホーン、副団長はアシュロンという人間族で、仕事を依頼したら快く引き受けてくれたわ。どうやら腰を据えて仕事を出来る場所を探してたみたいね」
 「それはいい。しかし、村には人間も居るが······」
 「そこも大丈夫。囚われていた魔帝族は、あくまでも収容施設に恨みがあった人たちだしね」


 2人が仕事の話をしていると、空いていた窓から小さな人影が3つほど現れた。
 ウルフィーナの執務室は1階なので、窓が空いて居れば誰でも入ることが出来てしまう。


 「にゃう、おっちゃん遊ぼー」
 「おじさん、手をかして欲しいの」
 「がう、オトナのチカラが必要なのー」


 ミコト、ライラ、シアの3人だった。
 実はこの3人、アイトがいない日はこうしてギャングを誘って遊びに出かける。
 ギャングの落ち着いた雰囲気に、ミコトはガロンの面影を感じていた。
 ウルフィーナとギャングは呆れるが、子供が好きなので怒れない。


 「やれやれ。悪いがまだ仕事中で······」
 「仕方がないわね。少しだけよ?」
 「にゃっ‼ やったぁ」
 「わぉーん‼」
 「がうがうっ‼」
 「う、ウルフィーナ⁉」


 ギャングはウルフィーナを見るが、じゃれつく子供たちを優しくあやしている。


 「ギャング、お昼をこの子たちと食べて、それから戻って来てね」
 「······やれやれ」


 時刻は午前10時、約3時間は子守をしろということだ。
 するとミコトがギャングの背中に飛びつき、肩車の体制になる。


 「早く行こ、「ひみつきち」を完成させるのだ‼」
 「よーし、オトナがいれば大丈夫っ‼」
 「がう、ガンバロー‼」


 ライラとシアを片腕で持ち上げ、ギャングは3人を運んで行く。
 その姿を見送りながら、ウルフィーナは呟やいた。




 「子供か。······そろそろ欲しいかも」



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