神様のヒトミ

さとう

閑話・リアン村にて①



 アイトとアイヒが村を出て10日。
 リアン村の宿屋、〔サクラの森〕は、今日も大繁盛だった。
 受付のヤドは、冒険者グループを相手にしていた。


 「部屋は空いてるか?」
 「申し訳ありません。ただいま満室で……」
 「そうか、残念だ」
 「仕方ないわ、キャンプ広場でテントを張りましょ」
 「そうだね」


 ダンジョンがあると知れ渡った途端、この村に冒険者が集まるようになった。
 そこで足りなくなったのが、宿泊施設だ。


 「ぱぱ、お仕事たいへんだね」
 「ぼくもはたらくー」
 「はは、ありがとう。ハク、トマル」


 受付のカウンター裏から、ヤドの子供達が現れる。
 普段はミコトたちやミレイが遊んでいるのだが、ミレイたちは仕事があるし、ミコトたち魔帝族の体力に着いていけないハクたちは、遊び疲れるとヤドの元へ来るようになった。


 「さて、そろそろおやつの時間かな?」
 「おやつ!!」
 「やったぁ」


 ヤドは幸せだった。
 アイトとの出会いに感謝し、仕事の忙しさに感謝し、この村の全ての人たちに感謝していた。
 そして、新たな出会いにも。


 「お疲れ様です。ヤドさん」
 「あ、シュクレさん。お疲れ様です」


 最近村に移住したシュクレは、バツイチの女性
 夫と死別し、思い出の多い故郷を離れてやって来たばかりで、ハクやトマルを可愛がってくれていた。
 子供に恵まれなかったシュクレは、ハクたちを本当の子供のように可愛がり、よく世話をしてくれている。
 今では宿屋の従業員兼、子供たちの母親だ。


 「ヤドさん、3階の清掃が終わりました」
 「はい。では休憩に入って下さい」
 「はい。ハクちゃん、トマルくん、おばさんと一緒におやつにしよっか」
 「わーい!! ありがとおばちゃん!!」
 「ありがとー」


 シュクレはまだ28歳なので、おばちゃんという年ではない。
 ヤドも29歳で、出戻りの2人はよくからかわれた。


 「……」


 シュクレの存在は、ヤドの中で大きくなっている。
 子供たちと手を繋ぎ歩く姿は、どう見ても母親だ。


 「あの子たちには……、母親が必要か」




 かつての妻は、もう顔も思い出せなかった




 ***********




 「4番テーブル、上がりました!!」
 「はーい」


 ミレイは、宿に併設されてる飲食店〔ロゼオ〕の看板娘となっていた。
 長い黒髪は纏められ、アイヒがデザインと監修をしたウェイトレスの制服に身を包んだ姿はまさに美少女妖精。
 若い冒険者からは憧れ、中堅冒険者からはアイドル、熟練の高齢冒険者からはカワイイ孫娘のような扱いを受けていた。


 「お待たせしました。こちら〔おすすめ定食〕と〔シェフきまぐれランチセット〕です。ごゆっくりどうぞ」


 営業スマイルを振りまき、1つ1つのテーブルを丁寧に対応する。
 ミレイの仕事は料理運び、テーブル片付け、お会計などで、料理は殆どルエラが担当し、食器の洗浄などは、専用の食器洗浄魔道具が行っていた。
 新しく入った住人も働いているので激務というワケではない。ミレイも楽しく仕事をしていた。


 飲食店〔ロゼオ〕は、一般的なファミリーレストランほどの規模で、テーブルは30卓ほど。
 店内にはBGMが流れ、森をイメージした飾り付けを施してある。
 これらは全てルエラの趣味で、ミレイも飾り付けを協力した。


 「いらっしゃいませー」


 今日も、ミレイは接客をする。
 アイトが居ない間、精一杯の頑張りで仕事をする。 




 アイトが帰ってくるのを、楽しみにしながら。




 ***********




 かつてアイトが修行の一環で耕した畑には、1人の狼人がいた。
 アイトが最初に連れてきた住人であり、品種改良のアビリティを持つ魔帝族だ。


 「ふむ。これなら……」


 狼人のラウルは、自らが改良した野菜の種を撒いていた。
 ちなみに田んぼは既に苗が植えられ、水も張ってある。
 一般的な米と、品種改良をした米。……実は、モチ米である。


 アビリティを使って改良した作物は、成長も早い。
 ラウルの予想では早くても1月以内には収穫が可能と踏んでいた。


 「さて、新しく交配させた新種のウリ。上手くいけば新しい野菜になるかもしれない」


 ラウルが撒いたのは、カボチャの種。
 このカボチャが上手く実り、飲食店〔ロゼオ〕のメニューがハロウィン仕様になるのは、そう遠い未来ではない。




 ラウルの偉業は、まだ始まったばかりだった。




 ***********




 大衆浴場〔桜湯さくらゆ〕(クナイ命名)は、今日も賑わいを見せていた。


 受付のコリデールは、冒険者からコインを貰いつつ、大広間を覗く。
 視線の先には、若い冒険者グループが、牛乳を飲んでいた。


 「いや〜、いい湯だな」
 「ああ。まさかこんな秘境にこれだけの温泉があるとは。しかも汚れだけじゃなくて疲れも取れる」
 「そうね、でも······。気のせいかな、魔力も回復してるような?」
 「あ‼ あたしも思った‼」
 「アホ、風呂入っただけで魔力が回復するかよ」


 ワイワイ騒ぐ冒険者たち。
 すると今度は2人の女性たちが受付を通る。


 「なんかお肌が若返ったよねー」
 「うんうん、悪い部分が落ちたっていうかさー」
 「不思議よね、ほら見て、ぷるぷる」
 「いい村だわホントに、移住しちゃおっかなー」


 嬉しそうに下駄箱から靴を取り出す女性客。
 お客も途切れたので、少しカウンターから離れ、売店を覗く。


 「1300コインです。ありがとうございました」
 「へへ、風呂上りはやっぱ冷えたエールだぜ」
 「いやいや牛乳でしょ」
 「バーカ、通はフルーツ牛乳だぜ?」


 シャロレーの売店に、3人の男女がいた。
 それぞれが瓶をもち、美味しそうにドリンクを煽る。


 「ふぅ、お姉さんのオススメは?」
 「やっぱ牛乳だよね‼」
 「いやいや、エールだろ」


 そしてシャロレーの答えは。


 「う〜ん······。冷たい麦茶かな?」




 冒険者とシャロレーは、みんな笑っていた。




 **********




 ロムニーの食堂は、小さい規模ながら賑わいを見せていた。
 メニューはシンプルで、サンドイッチなどのパン類と、クナイが作り方を伝授したおにぎり類、あとは簡単な冷たいデザートなどを販売していた。


 中でも人気なのが、おにぎりだ。


 「この〔おにぎり〕っていいな。中身もいろいろあるしよ」
 「ああ。携帯食料にもいいし、ダンジョンで食べるのもいいしな」
 「あの、纏めて注文出来ますか?」


 おにぎりの需要が高く、ロムニー1人では手が回らない。
 食堂の厨房も広いとは言えず、新しい量産体制が必要だった。


 「ごめんなさい、ここにある分だけで······」
 「そうですか、残念だな」
 「じゃあさ、あるだけ下さいな」


 おにぎりとサンドイッチは飛ぶように売れるのはいいが、ロムニーは後で相談しようと決めた。


 「冒険者さんたちのお昼に、おにぎりやサンドイッチの販売店があるといいかな。温泉の中じゃなくて、外で販売するとか? 後でウルフィーナさんに相談しよっと」




 腐っても商売人家族。末っ子でも商魂は逞しい。




 **********




 清掃員兄弟のウェサンとラコールは、逞しく黒光りする筋肉に汗を垂らしながら仕事をしていた。


 彼らの業務は施設管理。
 浴場の清掃、シャンプーリンス石鹸の補充、館内設備の点検、施設周りの掃除など多岐に渡る


 〔桜湯〕は源泉掛け流しで、どういうワケか常に適温なので、温度調節の必要がほとんどない。パイプを繋いで循環させているだけなので、整備点検も非常に楽なのだ。


 現在の設備は、大浴場と露天風呂とサウナが設置されているが、近々泡風呂や薬草風呂などの設置もプランに上がっている。
 更に1室を設け、マッサージ師を雇い提供するプランまで上がっている。


 「兄貴‼ 男湯の植木の剪定終わったぜ‼」
 「おう‼ 女湯は閉店後にやるぜ‼ 次は館内のゴミ集めと清掃だ‼ ピカピカにするぜ‼」
 「おう‼ へへへ、魔獣退治や護衛より、こっちのが性に合ってる気がするぜ‼」
 「同感だラコール‼ 楽しいなぁ‼」


 2メートルはありそうな黒いマッチョたちは、ランニングシャツと作業ズボンで笑っていた。
 その様子を見た冒険者たちは、ガタイの良さを見込んでパーティに誘うが、兄弟たちは笑って断った。




 「悪いな、冒険よりも温泉さ‼」



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