神様のヒトミ

さとう

閑話 デューク王国・エルの気持ち

  
 デューク王国の城にある豪華な一室。
 部屋の造りは豪華そのものだが、どこか庶民的な雰囲気の部屋。


 置いてある物は、城下町で売ってるような小物やアクセサリーなど、城にある物にしては相応しくない、物ばかり


 「平気なの? エル」
 「はい……。心配かけてすみません」


 ここはハニエルの部屋。
 現在はエルと同居し、2人の部屋。


 シャダイの襲撃から数日。エルは眠れぬ日が続いていた。
 眠ろうとすると、紫の髪をした男が襲いかかる夢を見るようになり、数時間おきに飛び起きるということを繰り返し、心と身体を消耗していた。


 「エル……」
 「平気です。城下町の教会に行ってきますね」


 青い顔で笑顔を作るエルは、フラフラしながら部屋を出た。
 強姦未遂の一件で、エルは精神的に不安定になり、ずっと面倒を見てきたハニエルは放っておけず、一緒の部屋で生活をする事にしたのだ。


 「………はぁ、もう潮時かなぁ」


 ハニエルは、最近ずっと悩んでいた。




 【無限光の11人アインソフオウル・イレブン】という組織に、ほとほと嫌気が差していた。




 ***********




 「………」


 エルは1人、城の通路を歩いていた。
 教会に行くと言ったが、そんな気分にはなれない。
 何故なら………


 「お、エルじゃん」
 「やっほー、元気?」


 前から歩いてきたのは2人の男子。
 刈り上げの加藤浩太郎かとうこうたろうと、ツリ目の田辺幸司たなべこうじだ。


 修行の帰りなのか、ラフな服装にうっすらと汗を掻き、疲れも見える。
 エルを見て嬉しそうに近づいてきた。


 「いやー、ちょうどよかった。これから騎士団の連中と飲みに行くんだけどさ、一緒にどう?」
 「ついでに疲労回復の魔術を掛けてくれたらな~なんて」
 「あ、あ……」


 エルはゆっくり後ずさりし、浩太郎と幸司から離れる。


 「どったのエル? 顔色悪りーぜ?」
 「疲れてんのか?」
 「い、いや……いやぁぁぁぁっ!!」


 エルは逃げ出した。
 気持ち悪くなり、胃の奥から何かがせり上がってくる。




 エルは、極度の男性恐怖症に陥っていた。




 ***********




 「う、げぇぇっ、うぇぇぇっ!!」


 エルは吐瀉物をまき散らした。
 胃の中には何も入っていないので、出てきたのは胃液。
 城の通路の隅で、ボタボタと口からこぼれ落ちる。


 「う、うぅぅ……ひぐ、うぅぅ……」


 エルは涙が止まらなかった。
 【救世主】として呼ばれ、アビリティという異能を貰った。
 城下町の教会で癒しの力を振るい、様々な人から感謝された。
 【無限光の11人アインソフオウル・イレブン慈悲ケセド】に選ばれ、優しい先輩に指導され、この世界の真実を知った。


 魔帝族という「悪」と戦う。
 それがこの世界に呼ばれた【救世主】としての役目。
 人間の世界のために、選ばれし者としての宿命。


 「……なんで、こんな……」


 だが、蓋を開ければ違った。
 デューク王国は犯罪者を仲間にし、目的のためなら手段を選ばない。
 シャダイに襲われ、幹部11人のリーダーであるエヘイエはエルを庇いもしなかった。
 シャダイは地下牢という休憩所で昼寝をし、飽きたら直ぐに出てくるだろう


 「力」が全てなら、エルの「力」はなんなのか。
 戦う力ではなく、癒やす力。
 エヘイエが求めたのは、戦う「力」であり、癒やす「力」ではないのか。


 「……私、どうすれば」
 「エル?」
 「え……」


 フラフラと通路を歩いていたエルの後ろに、洋二がいた。
 すでに強者のオーラを纏う姿は、間違いなく勇者といえる存在だろう。
 エルを見つめる眼差しは、心配の色が濃く映る……が


 「おい、顔色が悪いぞ……、だいじょ」
 「い、いや、来ないでッ!!」
 「お、おいっ!?」


 エルには恐怖しかない。
 前も見ずに逃げ出した。




 「もう……もう、やだぁぁっ……」




 ***********




 エルはひたすら走り、気が付くと教会に着いていた。


 「………あ」


 白く、鮮やかな建物。
 大きく白い、雪のように純白の教会。
 荒み始めたエルの心を、塗りつぶすような白だった。


 「………」


 エルは無意識に扉を開ける。
 ゆっくりと歩き、目の前にある白い像の前に進む。


 「……『慈愛聖母じあいせいぼミストラル』……私を、ここに連れてきた……神様」


 エルは像の前に座り込む。
 黒い空間で言われた言葉を、エルは思い出す。


 「……やるだ、ばおと…………あ、そういえば……」


 エルが頼まれたのは、魔帝族と戦うことではない。
 それはデューク王国に頼まれたことだ。
 エルが真に頼まれたこと、それは。


 「『万象ヤルダバオト』を、助けてあげて……」




 エルは、猛烈な眠気に襲われた




 ***********




 「………あれ、ここは……?」


 眼を覚ましたエルは、漆黒の空間に居た。
 着ていたのは学生服。交通事故に遭ったときのままだ。


 「な、なにが……、教会は?」


 周囲を見回すが、あるのは黒い闇だけ。
 夢かと思い頬を抓るが、痛みはしっかりとあった。




 『やーっと繋がったわね。エル』




 そして、女性の声が聞こえてきた
 エルが声の聞こえた方向を向くと、いつの間にか女性がいた。


 「あ、あなたは……」
 『久し振り。元気……、じゃないわね。まったく、ちゃんと寝ないとダメよ?』


 顔立ちは整いすぎ、まるで絵に描いた聖女のような微笑を浮かべ、長いブロンドの髪を束ねている。
 この世の物とは思えない材質のローブを纏い、手には装飾された杖を持っている。
 年代は18、9歳ほどの、女性と言うよりは少女のような印象を受けた。




 『覚えてる? 私は『慈愛ミストラル』よ』




 ***********




 『時間がないからちゃっちゃと言うけど……。貴女ねぇ、『万象ヤルダバオト』を助けてって言ったじゃない。まるで真逆を突っ走ってどーすんのよ?』
 「え、あの……」
 『私はそっちに干渉出来ないから言うけどね、貴女が行くべき場所はそこじゃないわ。いい、デューク王国から出なさい』
 「え、で、でも」
 『いいから!! 『虚無インビジブル』や『不滅アーディオン』に干渉されちゃうし、こうして貴女の精神に接触するのだって危険なんだから言う通りにしなさい!!』


 『慈愛ミストラル』は少女のような仕草で言う


 『『天魔アーカーシュ』と私は『万象ヤルダバオト』が大好きだったの。でも……、『虚無インビジブル』のクソ野郎が『万象ヤルダバオト』を滅ぼした。【生物世界】を自分の箱庭にするために、創造神である『万象ヤルダバオト』を滅ぼして自分の物にしちゃったの。貴女たちみたいな【別世界】の死者を蘇らせて送り込むのも、全部『虚無インビジブル』の仕業よ。でも、『万象ヤルダバオト』の作った【生物世界】そのものには流石に干渉出来なくてね、だから《万象神ヤルダバオトの瞳》を持つあの少年・・・・が邪魔になった、開眼こそしていなかったけど、脅威には違いない。だから1人だけ別の場所に転移させて、事故に見せかけて殺そうとした。でも少年は生き残り開眼した。つまり……、あのヒトミを持つ少年がこの【虚空世界ヴァニタス】に来れば、『虚無インビジブル』を滅ぼすことが出来るかもしれない』


 ミストラルはここまで喋ると一息つく。
 エルはワケも分からず聞いていた。


 『いい、あの少年に会いなさい。《万象神ヤルダバオトの瞳》を持つ少年に』
 「で、でも……。私の力じゃ」
 『大丈夫。私の力で貴女のアビリティをちょっとだけ開いてあげる。いくつかのアビリティを開いたから、それを使って逃げなさい』


 エルは身体が熱くなるのを感じた。


 『『万象ヤルダバオト』は言ってたわ。【生物世界ラーミナス】と【黄昏世界アーヴェント】は干渉するべきじゃないって。そのルールを破って、面白半分でかき回す『虚無インビジブル』を、私は絶対に許さない。お願いエル、あの少年と【黄昏世界アーヴェント】の精霊たちなら、『虚無インビジブル』をブチのめして滅ぼせる』
 「はい……」
 『私が崇拝されてる教会に綻びがあったから干渉出来たけど、もう会うことは出来ない。でも、私は貴女を見守ってるわ』
 「み、ミストラルさま……」


 黒い空間が、歪み始めた。


 『気付かれたわね……。さ、ここから逃げて。私も隠れないと』
 「だ、大丈夫なんですか?」
 『戦えば勝ち目なんてないわ。私は逃げるのは得意だけどね……』


 ミストラルは子供っぽく笑う


 『エル、貴女の強さは「力」じゃなくて「優しさ」よ。それを忘れないで』
 「み……、ミストラルさまっ!!」




 エルの意識と視界が、漆黒に染まった




 ***********






 「ミストラル様ッ!!………あれ」


 目覚めたエルは、教会の像の前で眼を覚ました。
 立ち上がり像を見る。


 「……夢?……じゃない」


 エルは、自分のアビリティが進化してることに気が付く。
 癒しの力だけのはずが、増えている。


 「……これは」




 ***********


 5・《真なる隣人トゥルーネイバー
  ○逢いたい人の傍へ転移する
  ○指定した人物は絶対に近付けない(レベルMAX・人数10)


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 「あの少年。それに、《万象神ヤルダバオトの瞳》か……」


 エルの中に、1つの確信が生まれる。
 それは【救世主】にやられた【救世主】の話。


 不思議な右目を持った【救世主】に、3人は重傷を負わせられた。
 アイトが裏切った。




 「アイト……。この人が、『万象ヤルダバオト』なんだ」




 エルは祈るように手を合わせ、目を閉じる。
 今度こそ本当に、ミストラルの願いのために。


 「逢いたい……、貴方に……」


 エルの真下に魔方陣が現れ、純白の光が包み込む。
 会ったこともない少年だが、何故か心が満たされる。


 「開け、《真なる隣人トゥルーネイバー》」


 まるで神に祝福を受けるかのような光景の後には、何も残らなかった。




 こうしてエルは、デューク王国から姿を消した



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