神様のヒトミ

さとう

75・家族



 アイトは、羊人一家に挨拶周りをした。


 最初は父親のジャコブ。
 ジャコブは黒い肌に大きな巻角を持った、体格のいい魔帝族。ジャコブの道具屋は雑貨屋みたいな品揃えで、生活用品や農作業具などを扱う店だった。


 「これは領主様、挨拶もせずに申し訳ありません。それにわざわざ来て頂けるとは」
 「いやいや、こちらこそ」


 つつがなく挨拶を終え、長男のベルテックスの八百屋へ。


 「おぉ領主様‼ どうだい、いい野菜が入ってるよ‼」
 「どうも。じゃあこのアプの実を一つ」
 「毎度あり‼ へへ、サービスするんでこれから宜しく頼みますぜ。村で取れた野菜も卸しますんで、どうぞご贔屓に‼」


 アプの実が3つ入った袋を受け取り、そのまま1つを掴み齧る。
 甘酸っぱくシャリシャリの食感を楽しみながら、次女のメリノの服屋へ。


 「領主様、いらっしゃいませ」
 「こんにちは。えーと、メリノさんですね?」
 「はい。ご覧の通り、服屋のメリノでございます」


 メリノは20代後半くらいの女性で、長い白髪を束ねた美女で、短く反り返った角が生えていた。


 「長年の夢だったお店が持てて、とても幸せです。それに、この村には可愛い娘がいっぱい······ふふふ、楽しいわぁ」
 「え、あの」
 「ふふふ、領主様に似合うお洋服、仕立てさせて下さいな?」
 「は、はい。いずれ」


 アイトはスルリと店を後にし、三男のテセルのパン屋へ。
 服屋の隣なのですぐに入ると、いいニオイが充満していた。


 「おぉ領主様、初めまして、ボクはテセルと申します」 
 「初めまして、アイトです。······いいニオイですね」
 「ええ、よかったらいかがですかな?」


 テセルは恰幅のよい男性で、ぽっちゃりとした羊人。
 白いエプロンを身に着け、焼きたてのバターロールをアイトに差し出す。


 「あ、ありがとうございます。いただきます」


 アツアツ、もちもち、ふっくら。
 アイトが食べたパンの中でも、最高の味だった。


 「う、うんめぇ〜······こ、これは売れますよ‼」
 「ははは。ありがとうございます、お土産にどうですかな?」


 アイトは焼きたてのバターロールを袋に詰めてもらい、店を後にした。


 「すげぇな、もう立派な村じゃん······」




 そんなことを思いながら、アイトは領主の屋敷へ向かった。




 **********




 「……デカい」


 ガロンの家はそのままだが、家を挟み込むように増築が施され、背後にある大きな建物からは何故か湯気が立ち上る。
 庭も広く、一部が耕されているのは、畑のためだろう。


 アイトはいつも通りにガロンの家のドアを開けた。


 「きゅぅん……」
 「ほらシア、ちゃんと立ちなさい」
 「やだ。とーさまの膝の上あったかいしー」
 「にゃう、いいなぁ」
 「わふ、うらやましい……」


 暖炉の前で胡坐をかくラクシャーサに、組んだ足の上で甘えるシア、その光景を羨ましそうに見てるミコトとライラ。
 アイトの登場に、全員が振り向いた。


 「あ、アイト!! こっち座ってー」
 「来て来て、こっち」
 「お、おい」


 アイトは両手を引っ張られ、暖炉の傍へ。
 そのままラクシャーサの隣で胡坐をかくと、ミコトとライラが甘えてきた。


 「にゃぅぅ……アイト、なでて」
 「くぅぅん……」
 「仕方ないな……ほれ」


 アイトは二人の頭をなでると気持ちよさそうに鳴く。
 シアもなでられ、トロンとした表情になる。




 3人が眠るまで、アイトたちは頭をなでた。




 **********




 「アイトくん。キミには感謝してる」
 「……へ?」


 シアの頭を優しく撫でながら、ラクシャーサは微笑む。


 「シアがこんなに楽しそうに笑うのを初めて見た。やはり、キミに預けて正解だったよ」
 「それは俺じゃなくてミコトとライラのおかげです。礼はこの子たちに」
 「……そうだな。実は視察団が来たら、シアも連れて行こうと思ったが、止めておこう。もう暫くこの村で預かって貰って構わないかい?」
 「もちろんです。ミコトもライラも喜びます」


 アイトは2人の頭をなでる。


 「ラクシャーサさん、視察団が来るまでゆっくりして下さい。シアも喜びます」
 「ははは、そうさせて貰おう。たまには父親らしくしないとな」




 アイトとラクシャーサは、お互いに笑い合った。




 ***********




 夕方。起きないミコト達をベッドに運び、アイトは再び村を歩いていた。


 「そう言えば、クナイが酒場がどうこう言ってたよな」


 クナイにしては渋ったような言い方に違和感を覚え、アイトは挨拶がてら酒場へ向かう。


 村の真ん中に建つ酒場は「準備中」の札が掛けられていたが、アイトは挨拶ならいいかと思い、ウェスタン風のドアを開けて中へ入った。


 「こんばんわ~」


 アイトはカウンターで後ろを向いている女性に声を掛ける。
 酒場は西部劇に出てきそうなデザインで、中はかなり広い。
 カウンターの壁は酒棚になっており、様々なラベルの酒が置いてある。


 おつまみの準備だろうか、1人の女性が後ろを向いて何かを切っていた。
 トントンと、リズムよく包丁の音が響く。


 「あの、この村の領主の………え」
 「……あら、いらっしゃい」


 振り向いた女性は、白い肌に緑色の鱗が見えた。
 露出の多いキャミソールを着た、妖艶な美女。
 ウェーブの長い青色のロングヘア、ペロリと出した舌は長く、先端が分かれていた。


 「お………オピス、先生」


 それは、死んだはずのアイトの先生。
 魔術を教え、鍛えてくれた大事な恩師だった。


 「……ごめんなさい、私は貴方の知ってるオピスじゃない」
 「……え、あ」


 アイトの目から、ポロリと涙が零れる。


 「私はラピス。オピスの姉よ……よろしくね、アイト」




 アイトは、ラピスを見つめたまま動かなかった。





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