神様のヒトミ

さとう

74・大衆浴場



 大衆浴場は、大型の銭湯のような外観だ。
 建築設計の段階で、クナイがデザインにあれこれ手を加えたらしく、和風に近い建物が出来上がった。


 「それにしても、僅か10日で······」


 アイトたちが村を出て10日しか経っていない。
 実は追加の作業員が直ぐに到着し、村の拡張と建築を進めながら、公衆浴場の建築を数百人規模で交代しながら建築したのだ。
 そしてガロン宅の移動と、領主専用浴場の建築など、凄い速度で村は拡張してる。


 アイトは浴場の入口に着くと、左右で入口が分かれて赤青ののれんが掛かっているのを見た。
 当然ながら、男女別に分けられてる。
 アイトは男湯ののれんを潜り、中へ入る。


 「お、ぉぉ〜」


 浴場というよりは温泉施設。
 入口は男女別ののれんで分かれたがすぐに合流し、大きな玄関があり、そこで靴を脱いで鍵付きの下駄箱に靴を入れる。
 靴を脱ぐとすぐに受付があり、見たことのない魔帝族の女性がいた。


 「いらっしゃいませ。お一人様300コインです······あら、もしかして領主さんですか?」
 「は、はい。こんにちは」
 「これはこれは、初めまして。あたしはコリデール、行商人一家の母親でございます」
 「お、俺はアイトです。よろしくお願いします」


 コリデールは羊人。
 パーマをかけた白髪に、渦を巻いた角の50代ほどの女性だ。


 「いやはや、こんな立派な浴場で働かせてもらって、感謝してます」
 「いえ、こちらも感謝してます」
 「ウチの子共々、これからお世話になります」


 コリデールは頭を下げて感謝していた。
 詳しい話を聞くと、商店一家であるコリデールたちは、この村に腰を据えて商売を始めたそうだ。


 父親であるジャコブは道具屋。
 長男のベルテックスは八百屋。
 次女のメリノは服屋。
 三男のテセルはパン屋。
 四男のウェサンと五男のラコールは浴場の清掃員。
 六女のシャロレーは浴場の売店の売り子。
 七女のロムニーは浴場の簡易食堂の料理人。


 商人の大家族で仕事に就いた、羊人家族だ。


 「よろしかったらウチの家族にも会って下さいな」
 「そうですね。じゃあ挨拶を」


 アイトは受付の先に進む。
 すると大広間があり、畳敷きの上に座卓が並べられ、さらに座布団まで敷かれていた。
 すでに何人もの冒険者が薄着で横になり、イビキを掻いて眠っていたり、酒を飲んでほろ酔いの者もいた。


 大広間に隣接した売店と、大広間の先には小さな食堂が見える。
 浴場は大広間を抜けた通路の先にあり、大きな赤青ののれんが掛かっていた。


 アイトはまず、売店に向かう。


 「いらっしゃいませー‼」
 「こんにちは、あの······」
 「······あ、領主さまですか⁉ すみません、それと初めまして、私はシャロレーと申します」
 「ど、どうも。俺はアイトです」


 シャロレーは20代半ばほどの羊人で、ショートカットの白髪に、短く太いツノが生えていた。


 「こんな立派な浴場で働かせて貰えるなんて、感謝しかありません。本当にありがとうございます」
 「いえいえ、こちらこそありがとうございます。人出が少ないんで助かります」


 売店は六畳一間の個室で、お酒やジュースなどの飲料水に、乾き物や干物などのおつまみが売っていた。
 子供が食べるような砂糖菓子もあり、かなり充実していた。


 コの字型のカウンターに座るシャロレーは、アイトを見てニコリと笑う。


 「兄や妹にも会ってあげて下さいな。兄はともかく、妹は大人しいけど料理は絶品なので」
 「分かりました。では失礼します」




 シャロレーと別れ、アイトは食堂へ向かった。




 **********






 食堂は小さく、四人掛け席が4つとカウンター席しかなかった。
 料理人が1人なら、この大きさで限界だろう。


 アイトが食堂に入ると、3人の羊人がいた。


 「ん? おぉ兄貴!! お客さんだぜ!!」
 「······バカたれ!! この方は領主様だぞ‼」
 「ま、マジかよ⁉ スンマセン‼」
 「に、兄さん、静かにしてよ······」


 筋骨隆々の2人と、20歳くらいの女性の羊人がアイトを迎えた。


 「こ、こんにちは。えと······」
 「おぉ、自己紹介がまだだった‼ オレはウェサン‼ こっちは弟のラコール‼ こっちは妹のロムニーだ‼ よろしくな領主様‼」
 「よろしく頼むぜ領主様‼ がっはっは‼」
 「あ、あの、よろしくです」


 アイトは声の大きさに面食らいながらも挨拶を返した。


 兄のウェサンは、浅黒い肌に大きな巻角、髪は白い坊主頭で、口には立派な髭を蓄えた、30前半くらいの羊人だ。
 弟のラコールは兄と同じ肌だが、髪はやや長い。しかし身体は鍛え上げられ、ランニングシャツを盛り上げる胸板と、丸太のような二の腕は余りにも逞しい。


 「さーて仕事に戻るか弟よ‼」
 「おう‼ と言ってもキレイ過ぎて掃除する場所なんかねーけどな‼ がっはっは‼」


 ウェサンとラコールは、笑いながら去って行った。
 その後ろ姿を見送ると、ロムニーが恥ずかしそうに言った。


 「……騒がしくてすみません、全く兄たちは……」
 「い、いや、楽しい人たちだね。しかも頼りがいがある」
 「はい、兄さんたちは私たち家族商人の護衛を努めていたので」
 「なるほど、だからあの筋肉か······」




 アイトは少しだけ羨ましいと思った。



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