神様のヒトミ

さとう

66・薬屋



 「いらっしゃ······主殿⁉ お帰りでしたか。申し訳ありません、お出迎えもせずに」
 「そんなのいいって。それより······」


 アイトは薬屋を見る。


 「これって、お前の趣味だよな?」
 「お恥ずかしい。私の家の薬品庫を再現して頂きました」


 雰囲気は、昭和のレトロな薬屋。
 古い木で出来たいくつもの引き出しがある棚に、カウンターには調合の道具が並んでいる。
 カウンターは椅子ではなく数段高くなってる座敷。畳3枚ほどの広さで、小さな囲炉裏が設置してある。
 さらにその脇には高い棚があり、様々な色をした液体の瓶がいくつも並んでいた。


 「ここでは、症状に合った薬をその場で調合します。腹痛や胃もたれ、切り傷擦り傷火傷、どんな症状でも私のアビリティで薬品を調合してみせましょう」
 「アビリティのおかげとはいえ、お前ってホントに俺と同い年かよ?」


 クナイはいつもの忍び装束ではなく、女物の甚平に半纏を羽織っていた。


 「これは私が作りました。雰囲気に合わせようと思って」
 「似合ってるよ。お前は完璧な薬屋の女主人だよ」
 「あ、ありがとうございます。主殿」


 アイトは、カウンターという長台に、駄菓子屋で見るようなケースを見つけた。


 「なぁ、これには何を入れるんだ?」
 「はい。それには私が作った和菓子を入れようと思いまして」
 「和菓子?」
 「ええ、ふ菓子やお団子や煎餅などですね。焼き物も囲炉裏で作れますし、お茶も出せますしね」
 「薬屋の域を超えてるな······」


 アイトは座敷に座ると、クナイがお茶を淹れて出す。


 「でも、何か落ち着くな」
 「はい。異世界でも、私達は日本人ですから」




 暫しお茶を堪能し、アイトは薬屋を後にした。




 **********




 薬屋を後にし村を歩くアイト。


 建設中の建物はいくつもあり、作業員だけでも100人以上はいる。
 森を切り開き、その木材を加工し、ログハウスのように家を建築する。


 「······大丈夫かな」


 アイトは、この森に住む【黄昏妖精トワイライト・ニンフ】が気になった。
 これだけの自然に囲まれた森が、人の手によって切り開かれていく。昔からここに住んでいるのなら、何か思うことがあるかもしれない。


 「······謝るべき、かな」


 アイトは村の中央で立ち止まり、周囲を見る。
 宿屋ではヤドが忙しそうに出入りし、ハクとトマルが嬉しそうについて回る。
 ミコトとライラがアプの実をかじり、後ろから現れたミレイとアイヒに首根っこを抑えられている。どうやらつまみ食いらしい。


 「様子、見に行くか」




 アイトは、ヤルダバオトの瞳を発動させた。




 **********




 アイトは、セピア色の【黄昏世界アーヴェント】へやって来た。
 すると、目の前には小さなキツネがいた。


 《アイト、来てくれたんだ‼》
 「あぁ、久しぶり」


 キツネだけでなく、アイトに力を貸してくれたトカゲやチョウチョの妖精も現れた。


 《やぁ、また来てくれたんだ。元気かい?》
 《アイト、また外に連れてってよ》
 《ねぇねぇ、人がいっぱいね》
 《いろんな感情が溢れてる······》


 アイトとしても話をしたいが、1時間しかない。
 なので、要件から話すことにした。


 「あのさ、ゴメン······静かな森だったのに、こんなに騒がしくして」
 《は?》《へ?》《ん?》《何が?》《騒がしいって?》


 キツネやトカゲの表情は分からなかったが、チョウチョの妖精は首を傾げていた。


 「いや、だってさ、木は切り倒されるし、田んぼや畑は作られるし」
 《······それのドコが悪いんだい?》
 「え、だって」
 《楽しくていいじゃない》
 《そうよ? 何が悪いの?》


 すると、アイトの目の前にトカゲが来る。


 《やれやれ、キミはホントに優しいね》
 「あ、あの」
 《ボクたちに気を使ってるようだけど、本来ならこの世界は誰も知らないんだよ? それにキミたちの世界をどうしようが、キミたちの自由じゃないか》
 「で、でもさ、妖精ってこう······神秘的な場所とかがいいんじゃ?」
 《そんなコトないよ。むしろ王国や村や町なんかは物がいろいろあって楽しいくらいさ、ねぇ》
 《そうそう、人もいっぱい居るしね》
 《今はとっても楽しいわ‼》


 妖精たちはアイトの周りをクルクル飛び回る。


 《ガトナ村のニンフたちにも聞いたけど、枯れた水脈を復活させて、温泉まで作ったんだって?》
 「まぁ、ね······」
 《どうやら、キミたちの世界の一部を改変して、源泉そのものを作り出したみたいだね》
 「うん、みんな喜んでたよ。結果オーライかな」
 《そうだね。じゃあさ、この村にも作ろうか? ここはお風呂がないし、魔術だけじゃサッパリしないだろ?》
 「え、出来んの⁉」
 《当たり前だよ。むしろボクたちに出来ないことはないよ?》
 「欲しい欲しい、温泉欲しい‼」
 《ははは、じゃあやるかい? 温泉を作りたい場所で、ボクたちを開放するんだ》


 すると、チョウチョ妖精とトカゲとキツネがアイトの腕に吸い込まれていく。


 《キミを経由して初めて、ボクたちは外を感じられる。ニオイや感触、世界の色、全てが美しく輝いてる》 
 《アイトアイト、早く早くっ》
 《お日様、風の音、緑のニオイっ》
 《ふふふ、来たよ来たよ、外の景色‼》
 《久しぶりだねぇ、やっぱ外はいいねぇ》




 アイトは全身に力が満ちるのを感じ、目を解除する。




 **********




 「あ、いた‼ ウルフィーナさーん‼」
 「アイト様? どうされましたか?」
 「温泉を掘ります。どこかいい場所ないですかね?」
 「·········は?」


 アイトは、全身に力を漲らせながらウルフィーナに聞いた。


 「えっと、温泉を掘ります。いい場所を」
 「お、温泉? これからですか? 場所?」
 「はい。広くて······そうですね、共同浴場みたいな感じで、大きな建物を建設しましょう」
 「は、はぁ······」
 「それで、どこかいい場所ないですかね?」
 「えーと、商店街の脇に広場がありますけど」
 「そこは何に使う予定で?」
 「いえ、まだ決まってませんので、資材置き場として確保したスペースです」
 「よし、じゃあそこで。行きましょう‼」


 アイトは走り出し、ウルフィーナも続く。
 2分と掛からず到着した。


 「いいね、ここなら」


 資材置き場スペースはかなりの広さで、近くには生活排水用の川も流れている。
 川はミモバの森へ続き、毒の川と合流していた。


 「ここなら温泉が流れても問題ないな。元々は毒の川だし」
 「そ、そうですね。下水や汚水はどは全てこの川に流れていますので」
 「じゃあ掘るんで、施設建築に共同浴場を追加して下さい。資金が足りないなら、俺がいくらでも魔獣狩りをするんで」


 アイトは地面に手を置き、ニンフたちを開放。
 地面が輝き、まるで地震のように揺れ始める。






 「『黄昏開放トワイライト・リベレーション』‼」






 轟音と共に吹き出した温泉は、全ての作業員が作業を中断して様子を見に来るほどだった。


 「サンキュー、ニンフたち」




 アイトは、後でお礼を言いに行こうと決意した。



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