神様のヒトミ

さとう

65・資金不足



 お昼が終わると、ハクとトマルは眠ってしまい、そのままロビーのソファに寝かせて案内を再開した。
 ちなみにアイヒは、ミレイと一緒に片付けをし、子供たちの面倒を見てくれるそうだ。


 「中程度の規模ですが、村が発展すれば増築も検討しています。ちなみにヤド様家族は、宿屋裏の離れを自宅としてお使い下さい」


 宿屋の裏には、2階建ての家が建っていた。
 ログハウス風の作りで、中々立派な建物だ。


 「こ、こんな······夢ではないか? 潰れかけの宿屋の主人だった私が、こんな立派な······」
 「いえ、借金はアイト様へご返済となりましたので。毎月の支払いは少額ですがして頂きますので」
 「もちろん、もちろんですとも‼」


 ヤドはウルフィーナの手を握り、ブンブンと振る。
 宿屋の事務所で住人手続きをし、正式な住人として登録された。


 「では一度戻り荷物を纏めて来ます。それと、借金の件は······」
 「それは俺とアイヒで払うんで、引っ越しをしたら後は任せて下さい」


 ヤドに転移クリスタルを発行し、元々の荷物も少なかったので、数時間で引っ越しは終わった。
 元の宿はそのままで借金取りに渡し、アイトとアイヒが直接借金を支払うために翌日に赴くことになった。


 アイトはガロンの家に戻ると、居間でギャングが書類整理をしていた。


 「アイト様、お疲れ様です。帰って来て悪いのですが、少しご相談が」
 「何でしょうか?」
 「実は······資金が底を尽き始めまして」
 「え、マジすか?」
 「はい。ラクシャーサ様は、この村の発展を優先して技術者や作業員を派遣してるのですが、作業員たちの給料や、資材などはどうしてもお金が掛かります。ある程度はラクシャーサ様も援助して下さったのですが、ミレイ様たちのコインだけではそろそろ······」
 「なるほど、資金不足か······」


 アイトは考えるが、いいアイデアは出ない。
 すると、ギャングが言う。


 「アイト様。ここは提案なのですが······冒険者ギルドの討伐依頼を受けてはどうでしょうか?」
 「討伐依頼?······あ、そういえば俺、冒険者だった」


 アイトは胸に光る赤いタグを取り出す。


 「はい。ほぼ全ての町にはギルドが存在し、依頼が溢れています。その中で最も稼げるのは魔獣の討伐依頼です。ちなみにこの村にもギルドは建設中です」


 つまり、魔獣を狩ってコインを稼ぐ。


 魔獣は危険度によってレートが分けられ、レートが高いほど報酬も高く、さらに魔獣の素材も高額で売れる。
 A〜E レートは一般的な冒険者でもある程度は狩れるが、S〜レートからは凄腕の冒険者グループや傭兵でなければ討伐すら出来ない。
 中でも、SS〜レートからは国家レベルの武力が必要と言われ、町の冒険者は決して手は出さない。
 それでも依頼は出るし、ギルドに依頼も掲示される。


 「ブラックオーガを一撃で仕留めたアイト様なら、単独でSレートの討伐も可能なはずです」
 「なるほど、でもブラックオーガくらいのヤツって金になるの?」


 この発言に、ギャングは驚いていた。


 「と、当然でございます。ブラックオーガは単体で町一つ滅ぼせるレベルの強さです。個体によってはSSレートに相当しますし、爪や牙や角はかなりの値段で取引されます。魔核などは数億コインほどで取引されるレベルです」
 「す、数億⁉」
 「はい。ドラゴンなどでしたら10億は下らないですね」  
 「す、すげぇ」
 「ですので、一度ロアの町のギルドで、依頼を確認してはどうでしょうか?」
 「おし、やってみるか」


 アイトとギャングが話し合っていると、2階から足音が聞こえてきた。


 「······あれ、この子は確か」
 「······」
 「おぉ、紹介が遅れましたな。こちらの方はラクシャーサ様のご息女、シア様でございます。ラクシャーサ様が多忙のため、暫くこの村で生活させることになったのです」


 黒いショートヘアに茶色の瞳。
 オオカミしっぽにオオカミ耳。
 可愛らしいが無表情でアイトを見つめる少女がそこにいた。


 「こんにちは。シア······だよな?」
 「······」


 無言でアイトを見つめるシア。
 アイトは頭をなでようと手を伸ばすが。


 「がうっ‼」
 「おぉっと、危ね」


 シアは犬歯を剥き出しにして噛み付こうとする。
 アイトは面白いと感じ、何度か手を出してみる。


 「がうっがうっがうっ‼」
 「よ、ほ、よ」


 歯をガチガチさせるがアイトには届かない。
 アイトはポケットから、アイヒに貰ったチョコを取り出す。


 「ほーれ甘くておいしいぞ〜?」
 「······っ‼」 


 シアは、ここで初めて表情を変えた。
 アイトはチョコを見せつけ、シアの近くに持っていく。


 「ぐぅぅ〜っ‼ がうっがうっ‼」
 「おっと、ははは、まだまだダメだね」


 アイトのチョコにシアは手を伸ばすが、アイトからすれば止まってるような速度。避けるのは容易い。
 フェイントを使い、シアをチョコに集中させる。


 「ほーれ俺の勝ち」
 「きゃうんっ⁉」


 アイトはシアの頭に手を置き、ナデナデした。
 するとシアは顔を赤くしてチョコを奪い、アイトから離れる。


 「あ、あたいの頭をなでていいのは、とーさまだけだっ‼」
 「お、初めて喋ったな」
 「うっさい‼ 犬猫臭い人間め、覚えてろーっ‼」


 シアは手足を使い獣のように走り、開いたドアから出ていった。


 「アイト様、シア様は人見知りが······」
 「わかってます。ミコトやライラとはいい友達になれる気がするんですよね」




 まだまだ時間が必要だと、アイトは思った。




 **********




 アイトは自宅を出て薬屋へ。
 クナイが経営するので、挨拶へ向かう。


 「にゃあぁ〜」
 「ん?······ミコトか」


 薬屋の近くに大きな木があり、そこの太い幹の上にミコトがいた。
 ミコト専用なのか、木には座布団が紐で巻かれていた。


 「ここ、あたし専用の場所ね。アイトは使ってもいいよ」
 「はは。ありがとな」
 「にゃうっ」
 「おっと、よしよし」  
 「ふにゃ〜」


 ミコトは木から飛び降りアイトの傍へ着地。
 アイトはミコトをなでてネコ耳を揉む。
 尻尾がクネクネ動くので、気持ちいいのは間違いない。


 「······アイト、あのオオカミのニオイする」
 「ん? あぁ、さっき少しなでたからな」
 「むにゃっ‼ アイツはなでちゃダメ‼」 
 「な、なんでだよ?」
 「だってアイツ、あたしとライラのしっぽを噛んだ。あたしもアイツを齧ったけど」
 「おい、まさかケンカしたのか?」
 「うん。だって威嚇してくるし、近付いたら引っ掻いてくるし。ごはんの時間で呼びに行ったらライラが噛まれてケンカになった、だからあたしも混ざってケンカした」
 「お前な······」


 アイトはミコトの尻尾を見た。


 「怪我は平気なのか?」
 「うん。クナイが作った薬を塗ったら、一晩で治った」  
 「全く······なぁミコト、シアとは仲良く出来るか?」
 「······わかんない」
 「そっか。まぁ暫くは村に居るし、俺も話を聞いてみる。もしお互いに謝ったら、ちゃんと仲良くするんだぞ?」
 「ふにゃ······わかった」
 「よし。俺はクナイに挨拶するけど、お前も来るか?」
 「うぅん、ライラの所で遊んでくる」


 ミコトは壁を伝って屋根に登ると、そのまま屋根伝いに走って行った。


 「シア、か······なんか、怖がってるのか、怯えてるのか······何であんなに敵意を?」




 アイトはシアの事を考えつつ薬屋のドアを開けた。



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