神様のヒトミ

さとう

64・下見



 ドラマや昔の漫画でありそうな展開だった。
 宿屋の主人はヤド、子供たちは5歳の姉がハク、3歳の弟がトマル。


 浮気した妻が、夫名義で借金を重ね、大金を持ったままドロン。
 大金は浮気相手が開業したレストランの準備金として消え、抗議に行った旦那は従業員に袋叩き。
 元々儲けのない宿の維持、幼い子供の育成も難しく、毎日借金取りに怯える毎日。
 一家心中も考えたが、子供たちの笑顔が離れず死ぬことすら出来ない。
 借金の担保として、子供たちを貰うと言われても何も出来ない。


 そして、ズルズルと生きて遂に借金取りに子供を連れて行かれる日が来て、アイトたちがやって来た。




 高校生になったばかりのアイトたちには、重すぎる話だった。




 **********




 「······以上です。ははは、情けない話ですみません。助けて頂いた恩を返すことも出来ない」
 「い、いや······」


 アイトは返答に困り、苦笑いすら出来なかった。


 「おねーちゃん、これおいしい」
 「ふふ、いっぱい食べてね」
 「ありがとー」


 アイヒは姉弟にお菓子をあげて、魔術を使い汚れ落としをする。
 するとアイヒは、何かを決意した表情で言った。


 「ヤドさん。お聞きしてもよろしいですか?」
 「······何でしょうか」
 「この町に、未練はありますか?」


 アイヒの質問が理解出来ず、アイトは思わずアイヒを見た。
 しかしアイヒは話を進める。


 「もう一度聞きます。この町に未練はありますか?」
 「······ない。妻は私や子供たちを忘れ、浮気相手の経営する店で頑張っているし、子供たちには辛い思いしか作ってやれない······かと言って、死ぬことすら出来ない。ははは······」
 「分かりました。ではここで提案があります」


 アイヒはニッコリ微笑んだ。


 「提案······?」
 「はい。まず、貴方の借金である1000万コインは、私たちが支払います」


 アイヒは異空間から100万コインを10枚取り出す。
 それを見てアイトとヤドは仰天した。


 「お、おいアイヒ⁉」


 驚くアイトを無視し、アイヒは話を続ける。


 「もちろんタダではありません。お貸しする条件として、アタシたちの村に新しく出来る宿屋の経営をお願いしたいんです。もちろん売上から毎月返金ということで」


 アイトはようやく理解し、頬を緩ませる。


 「······い、意味が? 宿屋? 村?」
 「あの、実は俺、守護者なんです。リアン村って言う新しく出来たばかりの村で、人出が足りない状況で······宿屋を経営してたなら、ノウハウがあるだろうし、お願い出来ませんかね?」


 ヤドは良く分からないらしく、首を傾げた。


 「まだ始まったばかりの村なので、この町みたいに栄えてるワケではありません。それで良ければ······貴方をスカウトしたいんです」
 「そ、それが本当なら願ってもない‼ しかし、子供たちも小さいし、長旅は······」
 「あ、それなら平気です。ね、アイト」




 「はい。なんなら今から行ってみますか?」




 **********






 一瞬の浮遊感、そして到着。


 「な、何だ今のは⁉ ここは⁉」
 「わぁ、きれー‼」
 「なんかいいニオイー」
 「な、なんじゃコリャ⁉」


 ヤドたちとアイトは、リアンの村にやって来た。
 ヤドたちはもちろん、何故かアイトも驚いていた。


 「な、なんか······めっちゃ広くなってる。しかも、人がたくさん······」


 村の入口から見ても、だいぶ変わっていた。
 乱雑に並んでいた民家は綺麗に並び、地面は整地され街灯も設置されている。  
 建設中の民家や商店が溢れ、工事現場に居そうな人や魔帝族が作業をしていた。


 「アタシたちが旅してた2週間で、だいぶ変わったわね」
 「いやいや変わり過ぎだろ⁉ ホントにここリアン村なのか⁉」


 周囲の森は少しづつ開拓され、敷地もだいぶ広くなっている。
 アイトたちは大通りを歩いて行く。


 「えーと、この通りは商店街だな。道具屋に薬屋、武器防具屋に······錬金屋に、魔道具屋、八百屋に······あぁもう、たくさん有り過ぎだ‼」
 「まだ無人のお店ばかりね、とりあえず外観だけで、人員はこれから······あ、ウルフィーナさんだ」


 工事現場のヘルメットをかぶり、作業員と何やら話し合っているウルフィーナが、アイトたちに気付き頭を下げた。


 「お疲れ様ですアイト様。作業は順調そのものです」
 「ど、どうも。かなり順調過ぎて怖いくらいです」


 アイトは、ヤドたちを紹介した。


 「おぉ、宿屋の方ですね。良かった、建物自体は完成し、資材なども搬入が終わっています。あとは人材のみでしたが丁度いい」
 「あ、あの。私なんかでよろしいのでしょうか······」
 「何をおっしゃいますか。アイト様が見込まれた方、期待しています。では施設をご案内します、よろしければアイト様も」


 アイトたちは、村の中央にそびえ立つ宿屋へ向かった。


 「で、デカくね?」
 「三階建······スゴい立派ね」


 アイトとアイヒは驚き、ヤドも唖然としてた。
 横長の三階建の宿屋は、丸太を積み重ねたログハウスのような作り。
 中は新築の匂いがするが、それは仕方ない。
 ロビーには大きな暖炉があり、受付とラウンジがある。
 ラウンジの脇には別の入口があり、そこを進むと大きな食堂になっていた。


 「ここはルエラ様の飲食店であり、宿屋の食堂でもあります。もちろんここから入れますし、外には飲食店用の入口もあります」


 内装はすでにオシャレな小物で飾られていた。
 花瓶には花が添えられ、天井をランプが明るく照らされてる。
 テーブルの上にはメニュー表と花瓶が置かれ、部屋全体に落ち着く感じのBGMが流れていた。


 「いいニオイ〜」
 「ホントだ〜」


 ハクとトマルの言う通り、いいニオイが室内を満たしている。
 すると、調理場からミレイとルエラが現れた。


 「アイト‼」
 「よ、ミレイ。手伝いか?」
 「うん。私はここでウェイトレスをやるの」 
 「こんにちは、アイトさん、アイヒさん」
 「こんにちはルエラさん。いいニオイですね」
 「ええ、作業員さんたちのお昼を作ってたの。よかったらいかが?」  
 「ぜひともお願いします。ウルフィーナさんたちも一緒に」
 「わ、私もですか?」
 「やったー‼」
 「ごはんごはん‼」


 ハクとトマルは大喜びで、全員でお昼を食べる。
 作業員たちに合わせたのか、肉を挟んだサンドイッチが多かったが、ルエラは子供たちのためにオムライスを作った。




 施設案内は、とりあえずお昼の後で。



「神様のヒトミ」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く