神様のヒトミ

さとう

63・宿屋



 「こ、ここ……?」
 「うわぁ………」


 到着した宿屋は、廃屋のような建物だった。
 路地裏自体がスラムのような雰囲気だったので、建物はどれも古くて汚い。


 宿屋は古く、補修の後がいくつも見え、窓硝子にはヒビまで入っている。
 高さは2階建ての一軒家で、看板が無ければ宿屋とはわからない。


 「ど、どうしよう」
 「アンタが見つけたんでしょーが……でも、これはちょっと……」
 「う~ん。今回は諦めて村に戻るか? もう10日はテントだし、村に戻って《テレポクリスタル》にセーブしとこう。そうすればいつでも来れるしな」
 「……そーね、そうしましょ」


 アイトたちが宿屋から立ち去ろうとした時だった。
 突如、宿屋1階の窓ガラスが割れ、外にイスが転がってきた。


 「な、なに?」
 「おい見ろ、イスが転がってる……中からぶん投げられたんだ」
 「……まさか、トラブル?」
 「路地裏のスラムっぽいところだし……」


 アイトとミレイは顔を見合わせる。
 少し考えたが、お互いに苦笑した。


 「まぁ、様子くらいはね」
 「だな」




 2人は、宿屋に向かって歩き出した。




 ***********




 「お、お願いします、子供が居るんです!!」
 「うるせぇッ!! だったら借りたモン返さんかいっ!!」
 「ブルッフッフ、どうやらまだわかんねぇみたいだな」


 アイトとアイヒが見たのは、首を掴まれて苦しむ男性、牛の魔帝族と男性の首を掴む人間の男だった。
 荒らされた部屋の隅には、3歳くらいの男の子と、5歳ほどの少女が震えている。


 部屋の惨状はヒドく、壊れた椅子テーブル、割れたガラスなどが散乱し、どう見ても宿屋には見えない。
 牛の魔帝族とガラの悪そうな男の身形はよく、反対に子供達と親とおぼしき男性はボロ布みたいな服を纏っていた。


 「チ、お前のカミさんが借りたコインは1000万コイン!! けっけっけ、耳を揃えて払ってもらわんとなぁぁ……!!」
 「し、しかし妻は家を出て行ったきりで……」
 「だったら亭主が払うんは当然だろうが!! あぁん!?」
 「す、すみません、でも1000万コインなんて……」
 「だったらガキを売るなりして金作れや!! 舐めてんじゃねーぞ、こらッ!!」
 「ぐふっ!?」


 ガラの悪そうな男は男性に腹パンをする。
 やせ細った男性には強力な一撃で、そのまま床に崩れ落ちた。


 「おとうさん!!」
 「おとーさぁん」


 姉弟が父親に近付くが、牛の魔帝族が姉弟の首根っこを押さえる。


 「ふむ、売れんこともないな。1匹20万コインってとこか」
 「へへ、今日はコイツらで勘弁してやる」
 「や、やめ……」
 「おらッ!!」
 「がふっ!?」


 ガラの悪そうな男は、父親を蹴り飛ばす。






 「はッ、恨むなら借金作って逃げたカミさんを恨むんだブエェェッ!?」






 そして、アイト殴られて吹っ飛んだ。




 ***********




 「アイト、なにしてんのよ……」
 「いや、つい」
 「ま、アンタがやんなきゃアタシがやってたわ」


 チンピラは吹っ飛び、壁に激突して止まった。
 牛の魔帝族は驚き、思わず大声で怒鳴る。


 「て、テメェら何モンだ!?」
 「え、宿泊客だけど」
 「ふざけんな!! この状況が見えねぇのか!!」


 チンピラが立ち上がり、怒りのまま怒鳴る。


 「な、何をしやがんだでめぇぇぇーっ!!」
 「いや、ムカついたしさ、ゴメン」


 牛の魔帝族は子供を投げ捨て、アイトに向かってくる。


 「このチンピラがぁぁ!! ブモォォッ!!」
 「いや、そりゃお前達だろ?」


 アイトは牛魔帝族の拳を受け止め、魔闘気を纏った右手で握りつぶす。


 「ヒヒヒィィィッンンッ!? いででででぇぇ!?」
 「ったく、胸糞悪いのを見せるなよ」
 「テメェ、モータを離しやがれッ!!」


 チンピラが腰のナイフに手を伸ばし、金属製の柄を握った。


 「じゅあっっちぃぃっ!?」
 「火傷に注意ね。遅かったかしら?」


 ナイフの柄は、いつの間にかアイヒの魔術で真っ赤に熱され、掴んだチンピラの手の皮がベロリと剥けた。
 さすがにアイトも顔をしかめる。


 「おま、エグいな……」
 「あら、子供を連れ去ろうとするヤツらに遠慮はいらないでしょ?」


 杖を教鞭のようにクルクル回し、にっこりとウインク。
 その仕草に、アイトは胸がドキリとした。


 「ぐぅぅぅ~……い、いでぇ……」
 「ち、ちくしょぉっ……。な、なんで邪魔しやがる……コイツらの借金は事実なんだぞ……!!」
 「あーでも、やり方がムカついたんで……ゴメン」


 アイトは頭を下げると、2人のチンピラは立ち上がった。


 「と、とにかく、1000万コインの借金は変わらねぇ、いいか!! 必ず返して貰うからな!!」
 「明日まで用意しとけ!! じゃなきゃガキは貰っていくぞ!!」


 2人はそのままドアを蹴破って逃げていった。


 「………」


 父親と姉弟はポカンとし、状況を理解していない。
 アイトは父親を助け起こした。


 「あの、大丈夫ですか?」
 「……あ、ああ。ありがとう、ございます」
 「ほら、立てる?」
 「ありがとう、お姉ちゃん」
 「ありがとー」


 アイヒは姉弟を助け起こしたが、やせ衰え、汚れていた子供を見て悲しくなっていた。
 バスケットからクッキーを取り出し、子供達に食べさせる。


 「ほら、美味しいわよ」
 「いいの!?」
 「わぁい」


 子供達がお菓子を頬張る姿を見たアイトは、決意した。


 「あの、借金って……」
 「お恥ずかしながら……」




 アイトは、この家族に関わる決意をした。



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