神様のヒトミ

さとう

57・基礎と王冠



 デューク王国の城下町に、古ぼけた小さな教会がある。


 年月を重ねた木材は朽ち始め、会衆席もあちこち傷み、癒やしの女神である『慈愛聖母じあいせいぼミストラル』の石像も、亀裂が入っていた。


 そんな教会に、長蛇の列が出来ている。
 老若男女関係なく、楽しそうに話しながら。
 教会の外にまで伸びる列は、100メートルはある。
 人々の目的は、1人の少女。


 「はい。おしまい」
 「お姉ちゃん、ありがとう‼」  
 「ふふ、もう転んじゃダメよ?」


 白と黄金の装飾のローブ、フワリとした長い黒髪。
 振り撒かれる笑顔は、どこまでも癒やし。


 「本日はどうされました?」
 「ああ聖女さま、実は朝からボーッとして、どうやら熱があるみたいで······」
 「まぁ大変⁉ 失礼しますね······」
 「あぁ······。温かい」


 少女の手から流れる魔力が、病気の老婆の身体を流れ、癒やす
 怪我や病気を治療する、希少なアビリティ


 「どうでしょう、治ったと思いますけど······」 
 「おぉ、とても軽くなりました。あぁ気持ちいい······」
 「良かったぁ。どうやら軽い風邪みたいですね、温かくして下さいね」
 「はい、ありがとうございます。あの······、ホントにお金はよろしいので?」
 「もちろんですよ。皆さんが元気になるのが、1番の報酬です」


 柔らかく真っ直ぐな笑顔。
 老婆は頭を下げて帰っていく。


 「次の方、どうされました?」


 毎日、町の教会で無料で怪我や病気を治す。
 誰にでも優しく振る舞うその姿から、いつしか聖女と呼ばれていた。




 これが【救世主】にして【無限光の11人アインソフオウル・イレブン慈悲ケセド】の初見恵留はつみえるの日常だった。




 **********




 教会での奉仕活動も終り、エルは自宅へ戻る。
 城の教会の1室をそのまま借りていたが、居心地が良かったのでそのまま自宅として譲り受けたのだ。


 エルは【救世主】でありながら、教会のシスターたちと同じように生活をした。
 朝起きて掃除をし、『慈愛聖母ミストラル』に祈りを捧げる。
 エルは神を信じてはいないが、『慈愛ミストラル』だけは別だった。


 「『万象ヤルダバオト』を助けて、か······」


 ポツリと呟き、教会の裏手に回る。
 魔力もかなり消費し、エルは疲れていた。


 「······あれ、誰もいない?」


 玄関から共同スペースへ入るが、誰もいない。
 いつもなら仕事を終えたシスターたちが、談笑したり編み物をしたりと笑いが絶えない場所なのに。


 「礼拝堂かな、それともお風呂?」


 取り敢えず自室に戻り着替えようとした時だった。


 「むぐっ⁉」
 「こんばんは、オジョーちゃ〜ん♪」




 突如、エルは背後から口を押さえ付けられた。




 **********




 押さえ付けられたエルは、そのままテーブルに仰向けで押し倒される。


 「ククク、いいニオイだ。お前のことずっと気になってたんだよ、ウヒヒ······、美味そうなカラダしてやがる」


 エルは恐怖に震え、目の前の男を見た。


 紫の髪をオールバックにし、耳と口にはピアスが10個以上付けられている。
 目はギョロギョロと魚のようにギラつき、裸の上半身に白いマントを羽織っている。
 胸板はアバラが浮き、腕もガリガリで細いが、恐ろしい力でエルを押さえつけていた。


 「ん、んん······⁉」
 「ほぉぉ、いいモン持ってるじゃん♪」


 服が剥ぎ取られ、大きな乳房がこぼれ落ちる。
 エルは涙を流しながら抵抗した。


 「おいおい、暴れんなよ。······ほれ」
 「······っ⁉」


 エルの力がガクンと抜け、一切の抵抗が出来なくなる。
 意識だけが残り、エルの中で恐怖が湧き上がる。


 「さぁ楽しもうぜぇ、ウヘヘへへ······」




 【無限光の11人アインソフオウル・イレブン基礎イェソド】のシャダイは、エルの身体に手を這わせた。




 **********






 「おい」
 「はん? あぶゅっ⁉」


 エルを押さえつけていたシャダイは、頭を蹴られて吹き飛んだ


 「いてて、何なんですかぁ〜?」
 「ナニしてんだよ、お前?」
 「は、ハニエルせんぱ······」


 自由を取り戻したエルは、涙を流しながら胸を隠した。
 その姿を見たハニエルは、額に青筋を浮かべる。


 「シャダイ、お前」
 「おいおいハニエルよぉ〜、せっかくの楽しい時間を邪魔すんなよなぁ〜」
 「死ねよ、お前」


 ハニエルの殺意が膨れ上がり、シャダイはヘラヘラと立ち上がる。
 デューク王国の最高戦力である2人が、お互いを殺しに掛かる瞬間だった。




 「止めろ、2人とも」




 ドアを破って現れたのは、金髪の青年だった。
 端正な顔立ちに黄金の瞳、豪華な騎士服を纏い、腰には儀礼剣を差している。
 白いマントを翻し、ハニエルとシャダイの真ん中に割り込んだ。


 「エヘイエ、コイツは強姦魔だ。ここであたしが始末する」
 「ダメだ。仲間同士の争いは御法度、知ってるはずだぞ、ハニエル」
 「ふぅん、じゃあエルにしたことは?」
 「処罰はする。シャダイ」
 「ん〜? なんだよエヘイエちゃん」
 「お前はしばらく独房行きだ。そこで頭を冷やせ」
 「は〜い、じゃあちょっと昼寝でもするかねぇ〜♪」


 シャダイは手を振って出て行った。
 帰り際にハニエルを挑発し、エルを見て舌なめずりをして。


 「······エヘイエ、力があればあんなゲス野郎でも仲間なのか‼ あいつは犯罪者だぞ‼」
 「そうだ。力が全てであり正義。現にシャダイは何人もの凶悪な魔帝族を葬っている」
 「だけどその結果がコレだ‼ あいつのせいでエルは犯されかけた‼」
 「だが、お前が止めた」
 「それは結果論だ‼ あいつに正義なんてない、あるのは自分を満たすためだけの性欲だけだ‼」
 「暴走しないように押さえつけている。現に私がここに来た」
 「ふざけんな‼ エルを見てそんなこと言えるもんか‼」


 ハニエルの激高を、エヘイエは軽く流す。


 「どいつもこいつも力だの正義だの」
 「落ち着けハニエル。まずはその子を」
 「······チッ‼」


 ハニエルは自身のマントを外し、エルの身体に掛ける。


 「エル、遅くなってゴメンね」
 「せん、ぱい······」


 エルは泣き出し、ハニエルに抱きついた。


 「安心しろ、ハニエル」
 「······なに? ここから消えてよ」


 エヘイエを睨みつけたハニエルは冷たく言う。
 エヘイエはゆっくりとドアへ向かう。


 「シャダイが暴走したら私が止める。シャダイの掲げる正義を、私の正義が打ち砕く。それだけのことだ」




 【無限光の11人アインソフオウル・イレブン王冠ケテル】のエヘイエは、静かに消えた


 

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