神様のヒトミ

さとう

54・帰郷と手紙



 魔導車を走らせること数日。
 街道を越え、山を越え、谷を越え、ついに到着した。


 「アイト······」
 「うん。帰って来た」


 集落に近づくに連れ、ミコトがアイトから離れない。
 アイトはソファに腰掛けながら、ミコトを抱きしめていた。


 「ミコト、分かってるな」
 「にゃあ······」


 ミコトはまだ7歳。
 この現実を受け入れるのは難しい。
 だけど、受け入れないと進めない。




 こうしてアイトとミコトは、集落へ帰って来た。




 **********




 魔導車から降りて集落を進む。
 桜は満開で、花はキレイに咲き誇っているが、雑草や民家は手入れがされていないので、埃っぽい。


 「······」


 ミコトは黙ったまま、アイトと手をつなぐ。
 アイトとミコトの心情を察してか、誰も喋らない。


 そして、ガロンの家に帰って来た。


 「······ただいま」


 ミコトは震える声で呟くが、返事はない。
 家の中は、アイトが出発したままだった。


 「おとー······さん」


 家に帰ると、大きな姿と笑顔で迎えるガロンはいない。
 ガロンの作るシチューの香りも、焼き立てのパンの香りもない。
 あるのは、静寂のみ。


 「う、ぅぅ······にゃぁぁ······」


 ミコトは我慢出来ずに泣き出し、アイトはミコトを抱きしめる。
 その悲しみを共有出来るのは、アイトだけ。




 ミコトは暫く泣き続けた。




 **********




 アイトとミコトは、墓地へやって来た。
 ミレイたちは住宅の掃除をする、墓参りに行ってこいと送り出してくれたので、2人で向かった。


 集落の外れには20ほどの墓石があり、その全てに花が添えられていた。


 「ラクシャーサさんかな······」


 花の枯れ具合からして、ここに立ち寄ったラクシャーサで間違いないとアイトは思う。
 アイトはガモンの墓石の前に行き、ミコトに言う。


 「ここがガモンさんのお墓だ······」
 「······おとーさん」


 ミコトは墓石に触ると、ポロポロ涙を零す。


 「おとーさん、おとーさん······会いたいよぉ」
 「ミコト······」


 墓石に縋り付き、嗚咽を零す。
 アイトはミコトを抱きしめ、優しく撫でる。


 「ミコト、ガモンさんから手紙を預かってるんだ。ガモンさんの最後の言葉を読んで、ちゃんとお別れするんだ」
 「てがみ······」


 アイトはピンクの封筒を取り出し、ミコトに渡す。
 ミコトは震える手で封を開け、手紙を取り出す。


 「······アイト、読んで」
 「······いいのか?」
 「うん。あたし、文字があんまり読めないから······」


 ガモンは、こうなることを予想していたのかも知れない。
 アイトがミコトに、手紙を読み聞かせることを。




 アイトは、ガモンの手紙を音読した。




 **********


 『ミコトへ
  最後の言葉がこんな手紙ですまない。この7年間、お前を
  育てて、オレは楽しかった。図体がデカくて子供からも
  恐れられるオレを、どうしてお前が恐がらなかったのかは
  最後までわからなかったよ。
  お前が成長し、立派になって、好きな人が出来て、そして
  嫁に行く所を見てみたかったが、それは無理らしい。
  オレは魔王様の兵士として、【救世主】と戦わなければ
  ならない。そしてオレは死ぬだろう


  いいかミコト、アイトと一緒にデズモンド地域へ、お前の
  故郷へ向かうんだ。
  お前を拾ったとき、当然だが魔王様にも報告した。
  しかし、帰って来た答えは集落で育てろと言うことだった。
  なぜ希少種族である銀猫人を、この集落で育てなくては
  ならなかったのかは分からない。それはきっとお前の
  母親が関係してる可能性がある。


  お前の母親は、【水天ヴァルナ】である可能性が高い。
  願わくば、母親の元でのびのびと暮らして欲しい。
  この手紙をアイトが読んでるなら頼む。
  ミコトを、お前の妹を守ってくれ。


  最後にミコト、お前の『変身』をアイトに話せ。
  お前のアビリティは、呪わてなんかいない。
  お前の全てを、アイトは受け入れてくれるはずだ。


  ミコト、お前はオレの自慢の娘だ。  
  誕生日を祝ってやれなくてすまない。
  オレのクローゼットの中に、プレゼントを用意した。
  女の子らしく着飾るのも、見てみたかったがな。


  オレは死んでも、魂はミコトの傍に。


  
                   ガロンより』


 **********




 「おとーさん······」


 ミコトはアイトの胸に顔を埋め、泣きながら聞いていた。
 ガロンの想いは、アイトにも届いた。


 「ミコト、お母さんに会いに行こう。俺がお前を守るから」
 「······うん」


 アイトは、気になることがあった。


 「ミコト、『変身』って何だ?」
 「······あたしのアビリティ。初めて発現したのが2年前で、そのとき暴走したの」
 「ぼ、暴走⁉」
 「うん。あたしは覚えてないけど······集落が全壊して、ミモバの森で暴れたって、おとーさんが言ってた······」




 アイトは、ここで初めてミコトを覧る。




 **********


 【ミコト】♀ 7歳 銀猫人ぎんびょうじん


 【異能アビリティ
 1・《猫神転身イザナミノミコト・コンバージョン
  ○魔猫イザナミノミコトへ変身する


 **********




 「ライラと同じか······」
 「にゃ?」
 「いや、何でもない」


 アイトは手紙をミコトに渡す。


 「帰ろうか。ガモンさんのクローゼットに、お前のプレゼントがあるみたいだぞ」
 「プレゼント······おとーさん」




 アイトはミコトと手を繋ぎ、家に帰ることにした。




 **********


 
 家に帰ると、掃除を終えたミレイたちがお茶を飲んでいた。


 「おかえり、ミコト」
 「にゃあ、ただいま」


 ライラが心配そうにミコトの傍へ歩み寄る。
 すると、机の上には包装された大きな箱が置いてあった。


 「掃除してるときに見つけたの。多分······ミコちゃん宛」
 「申し訳ありません、ここまで運んで来ました」
 「大事なものだと思うよ」


 青い包装紙に赤いリボン。
 ミコトは丁寧に包装紙を剥がし、白い箱を開ける。


 「にゃ······これって」


 入っていたのは、薄い銀色の服。
 女の子らしいが、冒険者のようでもあるワンピース。
 活動的なミコトをイメージしてか、素材は頑丈な革製品。
 ブーツもお揃いの、ミコトのためにあるような服だった。


 「······ミコト、これ」


 アイトが手に取ったのは、鈴の付いたチョーカー。
 首輪のようにも見える、キレイなアクセサリー。


 そして、一枚のカードには、こう記されていた。




 「誕生日おめでとう
  女の子らしく、でもミコトらしく」




 ミコトは全てを抱きしめ、泣き崩れた。




 **********




 アイヒが手伝い、ミコトは着替えを済ませ現れた。


 「にゃ······どうかな?」


 銀色のワンピースを纏い、首には鈴の付いたチョーカー、頭にはライラの首飾り。  
 ワンピースからは尻尾が出ており、恥ずかしそうにユラユラ揺れた。


 「わうぅ、似合ってる、ミコト」
 「はい、とてもお似合いです」
 「すっごく可愛い」
 「ああ。さすがガロンさんだ」


 ミコトはアイヒに抱きつく。
 どうやら恥ずかしいらしく、顔を埋めていた。


 「ミコちゃん、ホントに可愛い〜」
 「にゃうぅぅ〜」


 みんなが笑うと、ようやくミコトも笑顔を取り戻した。


 「アイト、あたし······おかーさんに会いに行く。お願い、連れてって」
 「当たり前だろ、お前は俺が守るからな」


 別れを済ませたミコトは、前に進もうとしてる。
 アイトはそれを感じ、改めて決意した。


 すると、入口のドアがノックされた。
 あり得ないことに、全員が驚愕していた。


 「······俺が行く、動くなよ」


 アイトは立ち上がり、慎重にドアへ進む。


 「······誰だ?」


 ドア越しに聞こえたのは、若い女の声だった。


 「ドア越しに失礼します。私は【羅刹天ラクシャーサ】様の配下、ウルフィーナと申します。アイト様に、この周辺土地譲渡の件で、お話をしに参りました」




 アイトは、ゆっくりドアを開けた。





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