神様のヒトミ

さとう

53・水脈



 アイトの行動理念は、約束を果たすことにある。


 ガロンとの約束は、元妻モーラに最後の言葉と写真を渡すこと、そしてミコトを連れて【水天ヴァルナ】の元へ、恐らく故郷でもある〔水上王国ヴェーリャ〕へ連れて行くこと、そしてライラを故郷へ連れて行くこと。
 それは約束ではないが、果たすべき使命だとアイトは思ってる。


 集落の魔帝族が滅ぼされたとき、アイトは【救世主】にキレたが、あの3人をブチのめしたことで溜飲は下がっていた。
 3人のバックにいるデューク王国に、報復だの復讐だのは考えておらず、魔帝族収容施設を開放したのも、ミコトが居たからに過ぎない。


 アイトは自分の力を理解してる。
 どれだけ強くても、全てを救うことは出来ない。
 人間と魔帝族の戦いを、終わらせることは出来ない。


 だから、目の前の大切な物は守る。
 アイヒにミレイにクナイ、ミコトにライラ。
 彼女たちを脅かす存在は、誰であろうと容赦しない。


 特に人間は【救世主】を道具にし、魔帝族を滅ぼそうとしてる。
 これから旅が始まるが、もしアイトの前に【救世主】が現われアイトたちに害するなら、アイトは、迷わず戦うだろう。


 この世界の人間に対し、アイトの気持ちは傾いていた。
 魔帝族を奴隷のように扱い、アイトを救ってくれた魔帝族を脅かそうとする「悪」として。


 だからこそ、気が付かなかった。
 魔帝族もまた、人間収容施設を作り、人間を奴隷のように扱ってる事実を。




 アイトがその現実を見るのは、もう暫く先の話である。




 **********




 翌朝。朝食を終えたアイトたちは、出発の挨拶のためドグの家に向かった。


 「ねぇ、なんか騒がしいわね」
 「はい。どうやらドグ様の家に、人が集まってるようですね」


 アイトはドグの元へ向かう。
 ドグは村人に囲まれ、目に見えて困っていた。


 「おぉアイトくん、出発かな?」
 「はい。えぇと······何かあったんですか?」


 ドグは頬を掻きながら言う。


 「うぅむ。実はな、住人が増えたのは嬉しいんじゃが、村を流れる水脈が枯れかけてるんじゃ。このままだと農業にも支障が出るし、かと言って新たな水脈を探して掘るには金と時間が掛かる。どうしたモンかと話し合っていたんじゃ」


 アイトは村人たちを見ると、全員が困った顔をしていた。
 農家だけでなく、生きるには水は不可欠だ。


 助けた約400人の魔帝族の内、30人ほどはデズモンド地域へ帰る。
 残りの360人は村に移住することが決まり、村を開拓して住居を作っている。
 中には、魔帝族のツテを使って商売をする者や、農業をするために農地を作る者もいた。


 「他に水脈はないのですか? 山も近いし、可能性は十分にあるかと思いますが」
 「あるとは思うが、調査に時間が掛かる。その間は、畑を休まざるを得ないのぅ」


 クナイの質問を聞きながら、アイトは考えていた。


 「う〜ん、試してみるか」
 「にゃ? アイト?」
 「わふ?」


 アイトはドグに向き直り、提案する。




 「ドグさん、ちょっと試してみたいことが」




 **********




 アイトはドグの家の裏に回り、目を使う。
 セピア色の世界が広がり、【黄昏世界アーヴェント】へ侵入した。


 すると、足元に輝くモグラが何匹も出て来た。


 《わぁ、ヤルダバオトのアイトだ》
 《ホントだ。遊びに来てくれたのかい?》
 「悪い、ちょっと聞きたいことがあるんだ」


 モグラたちはふよふよ浮き上がると、アイトの目の前でホバリングする。
 するとモグラだけでなく、ヘビやイタチまで現れた。


 《よぉアイト、ここに来たのは村のことだろ?》
 《水脈のことですね。あぁ、ワタシたちは見てることしか出来ない。実に歯がゆい》
 「うん。あのさ、何とかできないか? 俺も手伝うから」


 すると、待ってましたと言わんばかりに全員が浮き上がる。


 《待ってました‼ へへへ、外に遊びに行けるぜ‼》
 《あぁ、この日を夢見てました‼》
 《よーし、張り切っちゃうよ‼》


 アイトは困惑し、確認する。


 「あ、あのさ、水脈を探すんだけど」
 《水脈? そんなのいくらでもあるさ。それに、ボクたちの力でもっと面白いこともできるよ》
 《あぁ、日頃の頑張りに免じて、オレたちからプレゼントを送ろうぜ‼》
 「あ、あの、何を?」
 《いいからいいから、村の真ん中でボクたちを開放して‼》


 アイトの身体に、【黄昏妖精トワイライト・ニンフ】たちが入っていく。
 アイトは目を解除すると、力が漲るのを感じた。


 「アイト、どーした?」
 「オナカ痛いの?」


 ミコトとライラがアイトを引っ張る。


 「えと、ちょっと妖精さんとお話してた」
 「うにゃ?」
 「わふ?」




 アイトは2人を連れて、ドグの家に向かった。




 **********




 アイヒたちは、村人に混ざって話し合っていた。
 しかし、いい解決策が出ないのか、表情は暗い。


 「あ、アイト」
 「主殿、ご苦労様です」


 アイトは手を上げて返す。
 すると、近くでアイヒが何かを話していた。


 「水脈は探知出来るかも知れないけど、掘り当てるのはキツイわね。ヘタに高威力の魔術を使えば、水源もろとも吹っ飛んじゃうかも」
 「うぅむ、万事休すか······」
 「あの、ドグさん」
 「おおアイトくん、何かいい手があるのかね?」
 「えっと······まぁ」


 アイトは事情を説明するより見せた方が早いと考え、村の中央へ向かう。
 アイヒたちやドグも着いていき、数人の住人も来た。


 「頼むよ、【黄昏妖精トワイライト・ニンフ】たち」


 アイトは地面に手を置き、その力を開放する。




 「『黄昏開放トワイライト・リベレーション』」




 大地に、妖精たちの力が流れる。
 この世界にはない力、あり得ない力。


 アイトにはわかった。
 大地に妖精たちが満ちて行き、水脈が活性化するのが。


 すると、枯れかけの井戸から水が吹き出す。
 地面の数カ所から間欠泉のように水が吹き出した。


 「お、おぉぉ······奇跡じゃ」


 ドグが言うと、村人たちは歓喜した。
 アイトは身体から力が抜け、痛みもあったが何とか耐える。


 「ふぅ〜、疲れた」
 「さすが主殿、お疲れ様です」
 「ヤルダバオトの瞳の力ね、ホントにチートね」
 「アイト、すごい」
 「にゃははっ‼ つめたーい‼」
 「わぉーん‼ 吹き出してるー‼」


 ミコトとライラは、降ってくる水に興奮していた。
 村の子供も混じり、水掛け遊びになっている。


 「た、たたた、大変だーっ‼」


 すると住人の男性が、血相変えて走って来た。
 喜びに相応しくない声色に、全員が注目する。


 「なんじゃ、騒々しい。何かあったのか?」
 「お、おおお、おおお······」


 男性は村の空き地方向を指差し、声にならない声を出す。




 「お、お、温泉‼ 温泉が吹き出した‼」




 **********




 「まさか温泉とはねぇ······なんでもアリなの?」
 「どうやらプレゼントらしいぜ、妖精たちの」
 「温泉かぁ。今度来たら入れるね」
 「はい。村人たちは大喜びでした」


 アイトたちは、村を出発して集落へ向かっている。


 間欠泉のように吹き出した温泉。
 村の外れの広場には、村人が集まり困惑していた。
 まさか火山もないのに温泉が吹き出すとは思ってもいなかったらしい。


 「ま、立派な建物作るって言ってたし、楽しみにしておこう」
 「うん。楽しみ」


 後のことはドグに任せ、アイトたちは早々に出発した。
 ドグはいち早く立ち直り、温泉施設を作ると豪語し、それに釣られて村人も大騒ぎ。
 宴も始まりそうだったので、アイトたちは便乗せずに出発した。


 「にゃっにゃっ」
 「わんわんっ」


 アイトは、拾った猫じゃらしを振るう。
 するとミコトとライラが手を伸ばして遊ぶ。




 「さ、集落へ行って、次はボルカニカだ」





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