神様のヒトミ

さとう

47・朝日



 ミコトをクナイに任せたアイトが見たのは、大きな黒い「鬼」だった。


 「あれがブラックオーガ、……ん!? あれって……、ウソだろ!?」


 アイトが見たのは、黒髪の2人の少女。
 氷を操るロングヘアのミレイ、そのミレイを引っ張るアイヒ。
 その2人は、ブラックオーガのターゲットになっていた。


 「クッソ、あの黒ゴリラ……ッ!!」


 アイトは下水入口から駆けだし『雷駆ライク』を纏う。
 ミレイが魔帝族を助けるために氷を撃っているのが見え、アイトは口元が綻ぶ。
 そして、ミレイたちを庇おうと、大剣使いと双剣士が前に飛び出したのを見た。


 「吹っ飛べコラァァァァッッ!!」


 アイトは走る勢いを利用してジャンプし、そのままドロップキックをブラックオーガの脇腹に食らわせる。
 ブラックオーガは真横に吹っ飛ぶが、硬い外皮が衝撃をほぼ無効化した。


 「来い」


 アイトは構え、ブラックオーガを見据える。
 知能は低いのか、拳を振り上げて突進してきた。


 「ふぅぅ……」
 『グォォォォォッ!!』


 アイトは魔闘気を纏い、必殺の一撃を喰らわせるために構える。
 全三種の奥義で、アイトが最も得意とする魔獣用の奥義を。


 『ガァァァァッ!!』


 ブラックオーガの雄叫びは恐ろしい。
 しかしアイトには一切響かない。


 ブラックオーガが拳を振り上げた瞬間、カウンターで懐へ飛び込む。




 「『螺渦らうず』!!」




 ブラックオーガの心臓に拳は命中。
 螺旋状に魔闘気が広がり、ブラックオーガの体内を破壊しながら駆け巡る。
 ブラックオーガの穴という穴から、ドロリと血液がこぼれ落ち、そのまま静かに倒れて死亡した。


 ブラックオーガの死を確認したアイトは、未だに呆然としてる4人に向きフードを外す。




 「久し振り。……夢見さん、湯川さん」




 ***********




 「あ、……あい、と……?」
 「う、うん。その……、久し振り」


 目の前のアイトが信じられないのか、アイヒは呆然と呟く。
 アイトも訳が分からず、取りあえず質問した。


 「えっと、2人は何で」
 「アイトぉぉっ!!」
 「おわッ!?」


 質問の瞬間に、涙声のミレイが飛びついてきた。


 「わわわ……、あ、あの、ゆがわさ」
 「ミレイ」
 「え?」
 「ミレイでいい、ミレイがいい……」
 「あ……」


 ミレイがポロポロ涙を流し、アイトを見つめる。


 「その、ミレイ……」
 「うんっ、ん……」
 「んぷ、ん!?」
 「なぁぁぁッ!? ちょ、ミレイ!?」


 次の瞬間、ミレイはアイトにキスをした。
 アイトは目を見開き、ミレイは逆に目を閉じる。
 アイヒは我に返り驚愕し、アシュロンとルシェラはまだ事態を飲み込んでいないようだった。
 ミレイはゆっくり唇を離し、アイトの胸に顔を埋める。


 「アイト、背が伸びた?」
 「あ、まぁけっこうじかんがたってるし」
 「えへへ、もう離れないから。ずっと一緒」
 「あ、はい」


 アイトは棒読みで答えた。
 人生初の女の子の唇の感触が、生々しく残ってる。


 「……とにかく、ここを離れるぞ。駐留兵士が来ると厄介だ」
 「えと、彼が探し人でいいんだよね?」
 「はい、そーです」
 「アイヒ……、なに固まってるのよ、大丈夫?」


 アシュロンが剣を納め、全員に声を掛ける。
 するとアイトが草むらに声を掛ける。


 「クナイ、いるか」
 「はい、ここに」
 「にゃあ」


 ミコトを抱っこしたクナイが、草むらから現れる
 いきなりの登場に、またもや4人は驚いた


 「だだ、誰よ!?」
 「初めましてアイヒ様、私はクナイ、主殿の隠密です」
 「おんみつ?」
 「まぁな、おいでミコト」
 「にゃうぅ」


 アイトはミコトを抱っこし、アイヒたちに向き合う。


 「俺たちは宿に戻る。もう1人待たせてるん……えと、ミレイ?」
 「いっしょに行く」
 「あの……」
 「行く」


 ミレイがアイトの腕にしがみつく。
 離れようとしないミレイを見て、アシュロンが言う。


 「仕方ない。おい少年、お前の宿へ身を隠す。案内してくれ」
 「へ? あの……」
 「時間がない。間もなくデューク王国の駐留軍兵士が押し寄せてくるぞ」
 「わわ、わかりました」




 こうして、7人で急ぎアイトの宿へ向かった。




 ***********




 「ただいま~」


 時刻は朝の3時頃。当然ながらライラは寝ている。
 しかし、大人数の気配を感じたのか、ガバッと起きた。


 「おかえりアイト……?」
 「はは、ただいまライラ」


 ライラは大人数に驚き、ベッドから飛び降りて威嚇する。
 しかも、アイトが抱っこしていたミコトも威嚇に反応した。


 「ぐるるる……」
 「しゃーっ!!」


 だが、可愛らしい鳴き声で緊張感はない。
 むしろ、アイヒが「わぁ」と声を出した。


 「それにしても、カワイイ女の子ね。こっちのネコちゃんも、あっちのワンちゃんも」
 「おいでおいで」
 「がぅぅぅ!!」
 「しゃあ!!」


 ライラに近づくアイヒに威嚇し、ミコトに手を伸ばすミレイ。
 アイトは頭を抱え、取りあえずクナイに言う。


 「クナイ、ミコトをシャワーに連れて、着替えも頼む」
 「畏まりました。ではミコト様」
 「にゃうぅ……、アイト」 
 「大丈夫。まずはシャワーを浴びろって、臭うぞ」
 「しゃーっ!! あたしは臭くない!!」


 クナイがシャワー室に連れて行ったのを確認すると、アイトはライラの側に行き、ライラを抱っこしてベッドに腰掛ける。するとその隣にミレイが座り、アシュロンは壁により掛かる。アイヒは椅子に座り、ルシェラはテーブルに寄りかかった。


 「アイトぉ、なにが……」
 「大丈夫、みんないい人だ」
 「くぅん……」


 アイトはライラの頭をなで、イヌ耳を触る。
 するとライラは気持ちよさそうに鳴き、ここでようやくアイトはミレイたちに向き直った。




 「さて、お互いの事情を話そっか」




 ***********




 アイトは転移してからここまでのことを、ミレイたちもここまでのことを話した。


 「じゃあアイトはデズモンド地域に行くの?」
 「ああ、まずはミコトと一緒に集落に戻って墓参り、それから行く」
 「じゃあこっちの子も?」
 「わふ?」
 「うん。ライラの故郷も探すつもりだ。それと、ガロンさんの奥さんに、渡す物もあるしな」
 「ナルホドね、デズモンド地域……」


 ルシェラは少し考え、アシュロンに言う。


 「アシュロン、ウチらは……」
 「ああ、これで依頼は完了だ。探し人も見つけたしな」
 「あ、そうか……、アシュロンさん、ルシェラさん……」


 アイヒとミレイは悲しそうな顔をしていた。
 しかし、ルシェラが笑顔で言う。


 「ま、楽しかったわ。【救世主】を護衛するなんて滅多に出来ない経験だしね」
 「あの、よかったら一緒に」
 「一緒に行こ?」
 「ゴメン、もう次の依頼が入ってるの。スッゴく魅力的だけどね」
 「次の依頼?」


 アイヒとミレイの誘いを、ルシェラはきっぱり断った。
 アシュロンが静かに言う。


 「ブルホーンの依頼でな、オレたちはすぐにハジの村に向かう。あそこは魔帝族の管理地域だが、追っ手が来ないとも限らんし、村の護衛が必要なようだ」
 「アナタたちの探し人を見つけたらでいいから、次の依頼として受理してくれって、昨日の内にブルホーンに言われたのよ。それで次の依頼はブルホーンってワケ」
 「と、言うわけでオレたちは行く。報酬を払ってくれ」
 「……はい」


 アイヒは目に見えて沈み、コインを数枚取り出し渡す。


 「ホラホラ、せっかく再会したんだから暗い顔しない!!」
 「ルシェラさん……、でも」
 「楽しかったわ、アイヒ、ミレイ。久し振りに普通の女の子に戻れた気分……、ありがとう」
 「………」
 「ほら、泣かないの」
 「その、ごめんなさい……」


 アイヒはルシェラに抱きつき、胸に顔を埋める。


 「………」
 「………」


 ミレイも立ち上がり、アシュロンに近づく。
 アシュロンはミレイを見つめたが、表情に変化はなかった。
 そして、ミレイはアシュロンに抱きついた。


 「ありがとう、アシュロン」
 「………」


 アシュロンの手が、ピクリと動く。
 まるで、ミレイの頭を優しく撫でるのを堪えたように見えた。


 「……いいか、直ぐに町を脱出しろ。お前達の魔導車はオレとルシェラが乗っていく。その代わりに用意した魔導車が自由駐車場に停めてある。それに乗っていけ」
 「え」
 「念のためだ。いいな」
 「……うん」


 アシュロンはポケットから鍵を取り出し、ミレイに渡す。


 「アシュロン、貴方は私を守ってくれた……、ありがとう」
 「………ああ、オレも」


 アシュロンは部屋のドアに手を掛け、ポツリと言った。


 「ありがとう」


 アシュロンが部屋を出て、ルシェラが続く。


 「バイバイ、アイヒ、ミレイ……、元気でね」


 輝くような笑顔で、ルシェラがドアを閉める。
 2人が去ったあと、窓から朝日が差し込み始める。




 アシュロンとルシェラは、朝日を浴びながら去って行った。



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