神様のヒトミ

さとう

46・戦いと異能とフード



 「お、やったか」


 抱っこしていたミコトの首輪が外れた。
 つまり、所長が死んだのだ。


 「苦しかった……」
 「よかったな」
 「にゃぅぅ」


 アイトは器用にミコトの頭をなでると、ミコトは少し笑顔になった。
 ボロボロで汚れた姿は初めて会ったライラを彷彿させる。


 アイトたちの予定は、一度宿に戻り、シャワーと着替えを済ませて夜明けと共に出発する。
 そのあとドグの村に寄り、ライラの事を聞いて集落へ戻る。
 そこでガロンの墓参りをして〔デズモンド地域〕へ向かうというものだった。


 「聞こえるか、クナイ」
 「は、ここに」
 「うにゃっ!?」


 アイトの影からクナイが現れ、ミコトのしっぽがピンと立った。


 「大丈夫、味方だ」
 「初めましてミコト様、私はクナイと申します。主殿の隠密であり、盾であり剣でございます」
 「にゃう? あんみつ?」
 「隠密な、おんみつ」


 お腹が減ってるのだろうか、それとも眠いのか。
 時刻は深夜過ぎだし、安心したのか少し眠そうだ。


 「このまま帰るか。ライラも待ってるだろうし」
 「はい。レジスタンスはどうしますか?」
 「そうだな。……ミコトも居るけど、このまま帰るのは気が引けるな」
 「ねぇ、らいらって?」
 「ん? 実は仲間がいてな、ミコトのいい友達になれる子だ」
 「ともだち……」


 下水は少し臭ったが、3人でのんびり歩く。
 アイトはミコトを抱っこし、クナイはその隣を歩く。
 15分ほど歩いただろうか、アイトはミコトを見つめた。


 ようやく手に入れた、ガロンの忘れ形見にしてアイトの妹。


 「ふみゅぅ……」
 「身体は平気か? 痛いことされなかったか?」
 「うん、みんな噛みついた」
 「そ、そうか……」
 「ふふ……、ん、これは……ッ!?」


 突如、聞こえてきたのは遠吠え。
 それだけではなく、アイトには魔獣の気配がいくつも感じられた。


 「な、なんだ……?」
 「まさか……、そんな、情報には無かったはず。移送は済んで……」
 「おいクナイ、どういう事だ?」


 クナイは己の失態を悔いてるような表情だった。


 「これは魔獣です、ここにはS~レートのブラックオーガと、食料として生きたままのウェアウルフが飼われていたんです。ブラックオーガは既に移送が済んだはず……、なぜここに」
 「ヤバいのか……?」
 「はい、S~レートは総合能力が未知数で、暫定的に付けられてるレートに過ぎません。戦闘力しだいではSSレートに昇格するかも……」
 「……クナイ、ミコトを頼めるか」
 「主殿、これは私の失態です。私が行きます」
 「ダメだ。いいか、ここに隠れてろ」
 「しかし……」
 「お前が俺を主っていうなら、お前は俺の部下だ。部下の失敗をカバーするのは上司の務めだろ?」
 「主殿……」
 「ミコト、ガモンさんなら、こういうときは行くだろ?」
 「うん、おとーさんは仲間をぜったいに見捨てない」
 「そういうことだ。ちょっと待ってろ、直ぐ戻るから」
 「うん。アイト、がんばって。にゃう」


 アイトはミコトをなでて、そのままクナイへ渡す。




 「さぁて、さっさと終わらせるか」




 ***********




 首輪が外れ、クナイの合図が上がった頃。
 アイトがクナイと合流してから15分ほど前。


 「来た……、合図だ」


 ブルホーンは、茂みの中に隠れながら、施設から上がった光を見た。
 少しずつ、レジスタンスは施設を囲み、包囲網は完成しつつあった。


 ブルホーンは立ち上がり、3メートルはある大戦斧を構え叫ぶ。


 「行くぞぉぉぉぉっ!!」


 ブルホーンの声は爆音のように響き、武装した周囲の魔帝族が一斉に立ち上がる。
 すると、周囲から雄叫びが上がり、施設を破壊し始めた。


 「ふふふ、行くわよアシュロン!!」
 「前に出すぎるなよ」
 「もう!! もっとテンション上げなさいよ!!」
 「必要ない。オレたちはあくまで護衛だ、依頼主から離れるな」
 「むぅぅーッ!!」


 ルシェラはむくれるが、確かにアシュロンとルシェラの依頼主はアイヒとミレイ。
 彼女たちが先行しない限り、どんな戦況でも前には出れない。


 「行くよ、アイヒ」
 「わかった、手加減しなさいね」
 「うん……」


 薄く微笑むミレイから、白い冷気が漂い。
 杖をクルクル回すアイヒから、カラフルな蝶々が飛ぶ。




 ミレイとアイヒは、以外と好戦的だった。




 ***********




 「取りあえず、建物を壊そっか」
 「そうね、こんなとこ存在しないほうがいいわ」


 アイヒが杖を建物に向けると、無数の蝶が舞う


 「さ、行きなさい《虹の女神蝶アイリース・プシュケイ》たち。やっちゃって」


 蝶の数は200を越えている。
 それぞれが様々な属性を宿した、アイヒ特製の魔術蝶。
 赤い蝶は炎が吹き荒れ、青い蝶は周囲の水分を集めて水弾となり、黄色の蝶は地面の土を集めて土塊となり、緑の蝶は風を纏う。
 白い蝶は光り輝き、黒い蝶は闇を集め、紫の蝶は紫電を帯びる。


 これらは全て、7つの属性を帯びた魔術攻撃。
 この蝶を前に、属性の防御は意味をなさない。
 これがアイヒのメイン攻撃魔術にして、アイヒの名を冠する魔術。




 『虹色の魔術師アルコバレーノ夢見愛妃ゆめみあいひの【魔術奥義テンプレート・アーツ】・《虹の女神蝶アイリース・プシュケイ》である。




 ***********




 蝶が様々な攻撃で施設の壁を壊すと、いくつもの壁に大穴が空く。
 そこからレジスタンスが侵入し、囚われの仲間達を助けに向かった。


 しかし、敵もやられるだけではない。


 「来たぞ、警備兵だ!!」
 「気を付けろ!!」


 警備だろうか、フル装備の兵士が施設から現れた。
 数はまだ少ないが、練度が桁違いに高い。


 「ルシェラ、サポートを」
 「りょーかい!!」


 魔術を使うアイヒとミレイの近くに、数人の兵士が来た。
 アシュロンは大剣を構え、ルシェラは双剣を抜く。


 「傭兵風情がッ!! 人間を裏切るのかッ!!」
 「違う、金で雇われただけだ」


 アシュロンは冷静に剣を受け止め、変わらない表情で呟く。


 「悪いが、国なんてどうでもいい」
 「な、ぐぉッ、重いッ!?」


 アシュロンと打ち合った兵士の剣が、いきなりガクッと落ちた。
 その隙を逃さず、大剣とは思えない速度で袈裟斬りを繰り出す。


 「ば、バカな……」
 「急所は外した」


 それだけ言うと、アシュロンは次の敵へ。


 アシュロンの【異能アビリティ】は、《重量操作ヘビーコントローラー
 アシュロンが指定した物質の重さを、少しだけ変える。
 それが精々10キロ程度だろうと、いきなり剣の重量が10キロも増えればバランスが崩れる。
 アシュロンの大剣が10キロも軽くなれば、それなりの速度は出して斬れる。


 アシュロンの剣技と、重量操作。
 この2つでアシュロンはここまで登ってきた。




 そして、これからも。




 ***********




 「よっしゃ、喰らえーッ!!」
 「ぬぅんッ!!」


 ルシェラは、アシュロンのサポートに回っていた。
 アシュロンがダメージを与えた兵士のトドメであり、まだ未熟なルシェラの【異能アビリティ】が役立つ場所でもある。


 「こ、これは……?」
 「痛いでしょ? 悪い事は言わないから気絶しなさい」
 「ぐ、ぅぅぅ……!!」


 兵士は、傷口を押さえて遂に蹲る。
 ルシェラは兵士の頭にかかと落としを喰らわせた。


 ルシェラの【異能アビリティ】は、《鈍痛の苦ペインキラー
 指定した相手の傷口の痛みを倍にする。
 逆に言えば、傷がなければなんに意味も無いアビリティ。だからこそアシュロンがいなければ意味が無い。まだ未熟であるが故に仕方が無い。
 ルシェラもそれは理解していた


 「アシュロン、終わった!!」
 「来い、サポートだ」




 ルシェラは、嬉しそうにアシュロンの元へ向かう。




 ***********




 「おい、なんだコリャ!!」
 「なんで魔獣が!?」


 今度は、壊れた壁から続々と魔獣が現れる。
 現れたのはウェアウルフで、この施設の食料兼、不要と判断された魔帝族の処刑執行役でもあった。
 何を想ったのか劣勢を感じた施設職員が、その檻を開けたのだ。


 「チィ、人間ならともかく魔獣相手じゃ分が悪ぃ!!」


 ブルホーンが叫ぶがもう遅い。
 すでに戦闘は始まり、魔獣の餌食になる者が現れた。


 「くそ、同胞の救出は!?」
 「まだです!! 首輪は外れていましたが、中で戦闘が始まって……」
 「チィィッ!! オレが行く、何人か着いてこい!! アシュロン、ここは任せた!!」


 しかし、目の前にはウェアウルフの集団が。


 「クッソがぁぁ!!」


 ブルホーンは斧を振り回し、何体かのウェアウルフを両断する。
 だがウェアウルフは動きが速く、なかなか捕まらない。


 「ちくしょう、このままじゃ駐留兵士まで来ちまう。急がねぇと」
 「わかった。ここは任せて」
 「へ?」


 そこに居たのは、ミレイだった。
 手を翳すと、施設全体に何かが落ちてくる。


 「な、なんだコリャ……」


 ブルホーンが驚くのもムリはない。
 それは「雪」だった。
 純白の雪が落ち、周囲は綺麗な雪景色へ変わる。


 「行くよ、《氷像鏡像オルムスペクター》」


 ウェアウルフの前に、氷で出来たウェアウルフが現れる。
 ミレイが認識した生物と、全く同じ形の魔獣を氷で作り出す【第二異能ダブルアビリティ




 『銀雪姫ブランシュネージュ湯川美玲ゆがわみれいの【異能アビリティ】・《銀嶺の聖女》の力だった




 ***********




 氷のウェアウルフは、生身のウェアウルフを喰らい尽くす。


 氷のウェアウルフが砕けても、周囲の雪が損傷をすかさず補填する。
 何事もなかったかのように氷のウェアウルフは戦い始める。


 「なんつーアビリティだよ。……おっと、行くぞ!!」


 ブルホーンは施設の中へ。
 戦闘も終盤になり、何人もの収容魔帝族が連れ出された。


 施設に停めてあった護送用魔導車が発進し、ハジの村へ走り出す。
 10台ほど護送車が出て行ったところで、轟音が鳴り響いた。


 「な、なに?」
 「……来るよ、アイヒ」


 そして、壁をぶち破り大型魔獣は現れた。


 『ガオォォォォォッ!!』


 漆黒の体軀に、全身が鋼の筋肉で覆われた魔獣。
 大きさは4メートル強、顔はまるで鬼。


 「あれは……、マズい、ブラックオーガだ。S~レートのバケモノだぞ!!」
 「ヤッバ、今の装備じゃ太刀打ち出来ない!!」


 珍しく、いや初めてアシュロンたちが焦る。
 レジスタンスたちは撤退した。


 「足止めする」


 ミレイが氷の塊を打ち出し、ブラックオーガの注意を引く。
 逃げるレジスタンスの魔帝族を標的にしていたブラックオーガは、ミレイの方に向く。


 「く、マズいよミレイ」
 「わかってる、でも……」


 ミレイの視線はブルホーンに向いている。
 ブルホーンは、女の魔帝族を抱いていた。


 「ブルホーン、はやくこっちに……!!」
 「ミレイ、逃げるよ!! 早く!!」


 ミレイとアイヒに向かってブラックオーガが駆けてくる。
 その速度は速い。ミレイの氷を弾き飛ばし向かってくる。


 「クソ、下がれ!!」
 「アシュロン!!」
 「ミレイ!!」
 「いやぁっ!!」


 アシュロンが剣を構えミレイの前に。
 ルシェラがそれを追って前に。
 アイヒはミレイを引っ張る。
 ミレイは自分の軽率な行動を呪う。






 だが、ブラックオーガは真横に吹き飛んだ






 「……え」


 ミレイは思わず見た。
 紫電を纏い、フードを被った何者かを。


 『グ、ウゥゥゥ……ッ!!』
 「来い」


 その人物は、左手を前に出し右拳を胸に当てる。
 フードを被ってるため顔は見えないが、口元は笑っていた。


 「ふぅぅ……」


 その人物から、魔力とは違う何かがあふれ出す。


 『グォォォォォッ!!』


 ブラックオーガが、怒りにまかせて突進してきた。
 フードの人物は動かない。まるでその必要が無いかのように。


 『ガァァァァッ!!』


 ブラックオーガの全力の右拳が、フードの人物を捉えた。
 振り下ろされた拳は、フードの人物を潰しミンチにする……ことはない。




 「『螺渦らうず』!!」




 螺旋の力を帯びた右拳が、ブラックオーガの心臓に直撃した。
 ブラックオーガの攻撃の瞬間に飛び上がり、必殺の右拳を叩き込んだのだ。


 『………』


 螺旋の力はブラックオーガの体内を暴れ回り、そのまま背中から抜けて行く。
 ブラックオーガは吹き飛ばされることなく、全身の穴から血を流してその場に倒れた。


 アシュロンも、ルシェラも、アイヒもミレイも、その結果を呆然と見つめていた。
 フードの人物はアイヒたちに振り返り、そのフードを外した。






 「久し振り。……夢見さん、湯川さん」





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