神様のヒトミ

さとう

45・再会



 「主殿、ここから侵入します、お気を付けて」
 「ああ、頼む」


 クナイに着いて行き、建物の裏手に回る。
 警備兵は何人かいたが、アイトとクナイの隱行に気が付かなかった。
 中でも、クナイは凄かった。


 「クナイのアビリティ、便利だな。草むらや砂利道でも全く足音が聞こえなかった」
 「はい、そういうアビリティですので」


 クナイが3メートルほどの高さの点検口入口に、壁蹴りで登る。
 ニセの鍵を外し、空調点検口の蓋を取り外す。


 「では私が先に行きます。後ろから着いてきて下さい」
 「わかった」


 アイトも壁を登り、クナイに着いて前屈みで進む。


 「やっぱ狭いな。……う、コレは……」
 「こればかりは……、どうしました?」


 四つん這いになると、クナイのおしりが近くに見える。
 小さな光を灯しているので、スパッツの食い込みが見えてしまった。


 「な、なんでもない。その、……ゴメン」
 「?」




 四つん這いで良かった。……と、アイトは思った




 ***********




 「主殿、この真下がミコト様の牢です。幸いなことに1人部屋です」
 「ああ……」
 「主殿、ミコト様をお救いしたら、地下三階の排水溝から脱出を、私は所長を暗殺し、そのまま主殿の「影」に潜ります」
 「わかった。気を付けろよ」
 「はい。ご武運を」


 クナイはアイトの案内が終わると、影に潜って消えた。
 アビリティを使い、影から影に移動しているのだろう。


 「ミコト……」


 アイトは、音を出さないように点検口を開ける。
 鍵などは付いておらず、四角い蓋がはめ込まれてるだけだった。


 「あ、あぁ、……ミコト」


 ミコトがいた。
 四角い部屋の壁はツルツルで、部屋の広さは6畳ほど。
 天井の高さは10メートルはあり、登るのは困難だろう。


 そんな部屋の隅に、ミコトは丸くなっていた。
 白いボロ布の服を着て、銀髪はボサボサ、しっぽは項垂れていた。


 クナイの情報では、見張りは1時間に1度。
 見張りが立ち去ってから蓋を開けたので、これから1時間は問題ない。


 アイトは飛び降り、ほぼ無音で着地する。


 「……ミコト」


 ミコトの表情は、暗い。
 何があったのか直ぐに理解出来るほど。
 ミコトの寝顔を何度も見てきたアイトには、ミコトの精神状態がすぐにわかった。


 アイトはミコトの側にしゃがみ、頭を優しくなでた。


 「にゃう……、おとーさん」


 アイトとミコトの目から、ポロリと涙が零れる。


 「ミコト……」
 「うにゃ?……え、……アイト……?」
 「ああ、迎えに来た。一緒に行こう」
 「……にゃ」


 ミコトの目から、ぼろぼろ涙が零れる。
 口は開き、身体は震え、声にならない声を出す。


 「にゃうぅ……、にゃぅぅぅ……、あいと、あいとぉ……、おとーさんが、おとーさんがぁぁ……」
 「ああ……、あぁ……」


 アイトはミコトを思い切り抱きしめた。
 アイトは十分悲しんだ。だからミコトの前では泣かないと決めたが、ミコトの嗚咽を聞くだけで、アイトの中から悲しみが溢れてきた。


 「にゃぁぁ……、にゃぁぁぁ……」
 「ミコト、……絶対、俺が守るから……」


 アイトは今一度決意する。
 何があろうとミコトを守ると。


 「行こうミコト、ここから脱出する」
 「うん。……あいと」


 ミコトを抱っこして、アイトはポケットから鍵を取り出す。
 クナイがコピーした牢屋の鍵であった。


 「地下三階の拷問室から下水を通って行く。大丈夫か?」
 「うん。アイトがいるから」
 「遅くなって悪かった。後でいっぱい話そう」
 「うん。あたしも話したい」




 アイトは、ミコトを連れて音もなく歩き出した。




 ***********




 クナイは、影を伝い進んでいた。


 目的地は所長室。
 この収容所の所長は殆ど姿を現さない。


 その理由は、やはり首輪があるのだろう。
 首輪の仮所有者を複数置かないのは、首輪の管理者登録が面倒なので、所長という最高権力者が管理するのが手っ取り早いからである。


 収容魔帝族の教育が終わったら、貴族やオークションに魔帝族を卸す。
 その時点でようやく所有権を移すので、魔帝族の管理は所長に一任される。


 つまり、所長が死ねば魔帝族は解放される。
 仮所有者でも所有者に変わりは無い。


 「……ここですね」


 クナイは所長室を見つけ、影を伝い中へ。
 そこには3人の男女がいた。


 「所長、デューク王国の貴族数家から、体力のある奴隷と少女の奴隷の注文が入っていますが」
 「そうか。……体力はどうとでもなるが、少女か……」
 「なら、あの猫はどうですか?」
 「いや、まだ教育が不十分だ。誰彼構わず噛みつくからな……」
 「全く、まだしつけが足りないですかね」


 クナイは3人を《深淵》で影に引きずり込む事を真剣に考え、影の中で首を振った。


 所長室は立派な造りで、大きなデスクに革張りのイスに座る所長、書類を抱えた若い女性、筋肉質の男性の3人がいた。
 クナイは所長の足下の影に移動する。


 「やれやれ、考えることが多いな……」
 「お疲れのようですね、少し休まれては?」
 「ふぅむ……」


 クナイは毒針を取り出し、頭と腕を影から出す。
 所長はスーツのようなズボンを履き、くるぶしの皮膚が少し見えた。


 「……ん?」
 「所長、どうされました?」
 「いや、……うぅむ、やはり疲れてるのか?……うぅむ、スマン、少し……、寝る」
 「ははは、寝るなら仮眠室で……」
 「ふふ、お疲れのようね、もう眠ったわ」


 所長は、覚めることのない眠りにつく。
 クナイは部屋を脱出し、合図を出すために外へ向かう。


 一度だけ所長室に振り向き、冷たい声で呟いた。




 「さようなら、暗き夢を……」



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