神様のヒトミ

さとう

36・クナイ



 「………」
 「私は『天魔てんまアーカーシュ』に命を救われ、今より1年前からこの世界で技と腕を磨きました。全てはいずれ現れるあなた様にお仕えするため。私はあなた様……、いいえ、主殿あるじどのの剣となり盾となる隠密でございます」
 「………」
 「現世にて死した私は、『天魔』様によって救われました……。我が家に伝わる秘伝の薬品を調合中、誤って毒薬を作り出し服用。そのまま命を落とし、気が付けば漆黒の空間へ。『天魔』様から、私がお仕えする主殿が一年後に現れる。それまで腕を磨き、来たるべき日に備えよと」
 「………」
 「そして、主殿が現れ『開眼』……。ようやく私の役目が来たのでございます。さぁ主殿、なんなりとご命令を。炊事洗濯暗殺夜伽、何でもしてご覧にいれましょう」
 「『雷駆ライク』!!」




 アイトは、全力で逃げ出した。




 ***********




 「何だよアレ、絶対ヤベーだろ……!!」


 アイトは全力で走り、くノ一少女から逃げていた。
 突如現れたヤバい少女。
 アイトは不審人物と思い、取りあえず逃げ出した。


 そのまま30分ほど飛ばし、山を越えて森の近くまで来た。
 取りあえず周囲を見回し、ここでようやく一息入れる。


 「ったく、疲れた。それにしても、黒髪黒目……、それに、くろさき……」
 「九乃クナイです。どうぞクナイとお呼び下さい」
 「どわぁぁっ!?」


 少女クナイが、アイトの隣に現れた。
 息切れ1つ起こさずに、アイトの側に跪く。


 「な、なんだよお前!? 何が目的だ!!」
 「私は主殿の隠密です。そのために今まで鍛錬して参りました」
 「お、隠密?……。そう言えば、忍者みたいだな」
 「正確にはくノ一です。我が家は代々忍者の家系なのです」
 「へぇ……、って、現代日本に忍者なんていんのかよ!? いったい何時の生まれだ!?」
 「はい、私は15歳です。本来なら主殿の1つ下ですが、この世界で1年過ごしたので、主殿と同い年と言うことになります。それと忍者ですが、現代日本に存在します。我が家は暗殺や内部調査を国から依頼されて動きますので」
 「ま、マジで……?」
 「はい」
 「いやでも、何で俺なんだよ!? お前なんて知らないぞ!?」
 「それは主殿が、『万象ヤルダバオト』の継承者だからです。私は『天魔』様から、主殿にお仕えするように言われています」
 「それって……、コイツか?」
 「おお、それが『万象神ヤルダバオトの瞳』……美しい」


 アイトは右目を開眼させる。
 すると、クナイのステータスが見えてしまった。




 ***********


 【黒崎九乃くろさきクナイ】 ♀ 15歳


 ◎【異能アビリティ
 1・《暗夜行路あんやこうろ
  ○主人と認めた人間の影に潜める
  ○影と影を移動できる(レベル5・範囲500メートル)


 2・《影縫い》
  ○高速移動
  ○無音での移動が可能


 3・《深淵》
  ○真に殺意を覚えた対象を影に引きずり込む(即死)


 4・《影断ち》
  ○影を切り取る(切り取られた影は肉体に影響を与える)


 5・《忍びの忍薬》
  ○あらゆる薬品、薬草を操る
  ○薬品調合(レベルMAX)


 ***********




 アイトは思った。


 「こわっ!?」
 「あ、覧られましたか」


 クナイは事もなげに言う。


 「あ!? もしかしてお前、俺の影に……!?」
 「はい。私は主殿の「影」ですので」
 「……」 


 アイトは露骨にイヤそうな顔をし聞いた。


 「お前、いつから俺に?」
 「はい。村に入る前、ウェアウルフと追いかけっこしてる時からです」
 「……なんで言わなかった?」
 「はい。村には人が大勢居ましたので、隠密である以上、人に注目されるのは好ましくないと思いまして」
 「じゃあ、あのウェアウルフの首を切ったのは……」
 「はい、私でございます。お役に立てたでしょうか」
 「………まぁ、うん、ありがと」
 「は、ありがたきお言葉、頂戴いたします」


 アイトは真面目な顔をして言う。


 「村に居たってんなら、俺とドグさんの話は聞いてたな?」
 「はい。銀猫人のミコト様をお救いするために、シェスタ王国へ向かうと」
 「……悪いけど、まだお前を信用できない。いきなり現れて、ヤルダバオトだの天魔だの、正直俺はどうでもいい。俺はミコトを救って、ミコトを故郷に連れて、ガロンさんとの約束を果たす。お前が俺に何を求めるか知らねーけど、俺はそれ以外する気はない」
 「構いません」


 クナイは顔を上げ、ノータイムで答えた。


 「私は主殿の隠密。そのために再び生を受け、1年間修行を重ねました。私が主殿に求めるのは、側に置いて頂くことだけです。主殿がどんな目的で動こうが、私はそれを補佐するだけでございます」
 「……なんで、そこまで」
 「命の約束は、命を持って返す。『天魔』様との約束は、主殿を助け補佐することだからです」


 アイトはクナイを見る。
 真っ直ぐな目は輝き迷いがない。
 よく見たらかなり可愛いな、なんてアイトは思った。


 「………」
 「ならば、証明いたします。私は一切、主殿を傷付けません」
 「………証明?」


 するとクナイは立ち上がり、腰のベルトを外し落とす。
 徹甲と脚絆を外し、額当てと羽織を脱ぐ。
 スパッツと鎖帷子を外し、胸に巻いていた「さらし」も外す


 「なななな……、何してんだ!?」


 クナイは素っ裸になり、服や装備をアイトに差し出す。
 アイトは顔を背けたが、クナイの真剣な声は聞こえた。


 「どうぞ。服と装備、私の身体を思う存分お調べ下さい。私は一切抵抗いたしません、気の済むまでお好きになさって下さい」


 アイトはクナイを見てないが、声の真剣さは伝わった。
 この瞬間、アイトは自分の負けを理解した。


 「……わかった、わかったよ、俺の負けだ」
 「いえ、確認を」
 「いや、俺の負けだって。もう分かった、お前の本気はな」
 「しかし……」
 「いいから、服を着ろっての」
 「わかりました。主殿の命令なら」


 アイトは後ろを向き、衣擦れの音を聞く。
 心臓が高鳴るのを感じたが、なんとか耐えた。


 「主殿」
 「お、おお」


 クナイの方を向くと、着替えが終わり再び跪く。


 「それでは参りましょう。シェスタ王国はこの森を抜けた先にございます。主殿でしたら明日には到着するでしょう、森を抜けたら野営をしましょう」
 「わ、わかった」


 クナイは立ち上がり、森を歩き出す。
 アイトは吹っ切れ、クナイに向かって言った。


 「あーもう、ここまで来たら働いて貰う。シェスタ王国に着いたらミコトの情報収集と、救出手段を考えるからな。それと、俺に着いてくるなら〔デズモンド地域〕にも向かう。覚悟しとけよ!!」
 「はい!!」


 アイトはやけっぱちのように言うが、クナイは認めて貰えたのが嬉しいのか笑う。




 こうしてアイトは、クナイというくノ一を仲間にしたのだった。
 

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