神様のヒトミ

さとう

34・ウェアウルフ鍋



 オークションが終わり、村人達は散っていく
 去り際に何人もアイトの肩を叩き、アイトも笑って答えた
 そして、犬人のドグの手には、布で包んだ包みが1つとジャラジャラ音のする包みが1つ


 「カッカッカ、儲け儲け。ホレ兄ちゃん山分けじゃ」
 「あはは……どうも」
 「さーて、今日は鍋じゃ鍋、美味い酒も飲めるぞい」


 布の包みはウェアウルフの肉
 オークションの最中でも忘れていなかったらしく、1番いい部位をキープしておいたそうだ


 アイトは5万コインほど受け取り、ドグの家に向かった
 日も傾き始め、そろそろ夕食の支度が始まる


 そして歩くこと5分、木で出来た簡素な平屋に到着した


 「ここがワシの家じゃ、まぁ遠慮せず入ってくれ」
 「はい、おじゃまします」


 ドグの話し方はだいぶ砕けた物になり、アイトも遠慮せず上がる
 家の中は居間と寝室の二部屋で、キッチンには垂れた犬耳の女性が見えた


 「おーう帰ったぞー、ばぁさんや、今日は鍋じゃ」
 「はーい、あら? お客さんかい?」


 犬耳女性は70代くらいだが、魔帝族の寿命は長いので当てにならない
 それはドグも同じで、アイトは失礼の無いように挨拶する


 「ばぁさんや、こちらはアイトさん、旅の方での、ホレ……」
 「おやおや、ウェアウルフの肉じゃないか、ご親切にどうも。あたしはドグの妻のドーサよ、何もないところだけど、ゆっくりしていってね」
 「はい、お世話になります」


 ドグが居間の椅子に座り、ドーサはキッチンへ戻る
 ドグに勧められてアイトは椅子に座る
 座るとすぐに、ドーサがお茶を煎れてくれた


 「すぐに夕食にしますね、それまでごゆっくり」


 ドーサの煎れたお茶は苦く、まるで渋い緑茶だった


 「ところで……アイトくんはどこから来たんじゃ?」
 「え、えっと……」


 アイトは後悔した
 こういう質問がされるかも知れないと考えておらず、そのための答えを何も持っていなかった


 「ふぅむ。やって来たのは町の西側から、あっちの方には〔デズモンド地域〕の境界線しかないはずじゃが……さては、冒険者じゃな?」
 「あ、あはは……バレましたか?」
 「かっかっかっか!! 若いのはえぇのう、勇気があり力もある。ワシもあと300年若ければのぅ」
 「あはは……えっと、ドグさんは農家で?」
 「まぁのう」


 ドグは茶を啜りながら、懐かしそうに言う


 「ワシはこの家に奴隷として飼われ、毎日毎日農業漬けでのぅ、食事もロクに貰えんかったし、睡眠時間も毎日3時間ほどじゃった。ありゃ辛かったのぅ……」
 「………え」


 アイトは絶句した


 「畑の敷地を広げる話が出て、ワシ1人じゃ作業が追っつかなくなった。そこで新しい奴隷を買ってきたんじゃ。ふふふ、運命の出会いじゃった」


 ドグは振り返りドーサを見る


 「それからお互い支え合い、なんとかやって来て……転機が来たんじゃ」
 「……転機?」
 「そう、なんとこの村に人間しか掛からない流行病がやって来ての、2周間で村は全滅、残ったのは魔帝族の奴隷たちだけ……ワシらは喜んだ、やーっと解放されたからのぅ。あとは故郷へ帰る者、村に残る者と様々で……ワシとドーサは結ばれたのじゃ」
 「おぉ……」
 「あとは少ーしずつ人間も定住を始めて、今の形になった。これが300年ほど前かのぅ?」
 「スゴいけど……ケタが違いすぎる。でも、奴隷から解放された後は大丈夫だったんですか?」
 「うむ。奴隷は持ち主が死んだ場合は解放される決まりになっておる、これは魔帝族も人間も変わらん」


 魔帝族も人間も
 つまり、人間の奴隷もいる


 「アイトくん、おぬし……」


 ドグがアイトに話しかけた時だった


 「さぁ食事ですよ。遠慮しないで食べて下さいね……どうしたの?」
 「なぁに、ワシとお前の出会いをちょっとのぅ」
 「も、もぅ……別に話すことでもないでしょう?」
 「いえ、いいお話でした」


 テーブルの真ん中に布を敷き、その上に大きな鍋を置く
 ウェアウルフの肉鍋は醤油ベースで味付けしてあり、野菜も豊富に入っていた
 ドーサは焼きたてパンを配り、ドグは高級そうな酒瓶を取り出す


 「さぁさぁ、一杯」
 「えと……い、いただきます」


 アイトは人生初の酒を貰う
 おちょこの酒は琥珀のような色で、匂いもキツい
 アイトは意を決してチビリと飲む


 「むふッ!? あっつっ!?」
 「おぉ、さすがにまだ早かったかの?」
 「ほらアイトさん、お肉お肉」
 「い、いっただきます……熱ッ!? うんまっ!!」


 ウェアウルフの肉は軟らかく、醤油ベースのスープにとても合う
 まるで高級な豚ロースのような味


 アイトは酒でなく水をもらい、鍋とパンをかじる
 ご機嫌なドグは昔話をし、ドーサもドグとの思い出を語る




 こうして、楽しく夜は更けていった




 ***********




 風呂はなく、魔術で身体を清める
 アイトは居間で毛布を被り寝ることになった


 「アイトくん、ちと話さんか」
 「はい?」


 寝間着に着替えたドグが椅子に座る
 ドーサは既に寝室へ


 「ワケありなら言わんでもいいが……アイトくん、キミはデズモンド地域から来たんじゃな?」
 「っ!?」


 アイトは驚きドグを見る


 「ははは、ワシやドーサは犬人じゃからニオイには敏感での、キミからは濃い魔帝族のニオイがするんじゃ。それこそ魔帝族に囲まれて暮らしてたような……」
 「………はい」
 「別に深入りするつもりはないし、力にはなれんが……事情を話さんか? アドバイスくらいは出来るかもしれん。こう見えて600年は生きとるでの」


 アイトは少し迷ったが、ドグに事情を説明した
 国境警備軍のこと、連れ去られたミコトのこと、ミコトを追って〔シェスタ王国〕へ向かっていること


 「そうか……国境警備軍が」
 「はい、全滅しました……」
 「ふぅむ、国境警備軍が全滅したなら、魔王様に報告が行くはずじゃな。それからどのようなアクションを起こすかは読めんが……」
 「あの、シェスタ王国ってどんな場所ですか?」
 「うぅむ、あそこは完全な奴隷差別の町じゃ。こことは比べられんくらい魔帝族に対する扱いがヒドい。かつてこの村にも脱走した魔帝族が来たが……【服従の紋章】を刻まれていた魔帝族は、すぐに死んでしまった」
 「服従の紋章……?」
 「その名の通り、絶対服従を強いられる紋章じゃ。主人となる人間の血を混ぜた入れ墨を彫られ、一度でも彫られれば死んでも解放されん。そして血の契約により主人には絶対服従、逆らえば主人の意思1つで殺される」
 「………み、ミコト……」
 「ところで、そのお嬢ちゃんが攫われたのはいつじゃ?」
 「……4日前です」
 「ふぅむ、通常の手続きなら、シェスタ王国の魔帝族収容施設に送られる。その後、町で競売にかけられて主人の元へ送られる、買い手が付かない魔帝族は……始末される」
 「………」


 アイトの手は、硬く握られていた


 「あの施設では簡単な礼儀作法や勉強が行われる。中には反発する魔帝族もおるからの、強制的に勉強させるために、首に拘束用の首輪を付けられて、逆らったりすると電気が流れる。ワシもドーサも経験があるが、恐らく変わっていないはずじゃ」
 「じゃあ、猶予は……」
 「はっきり言えんが、恐らく1月以内には競売にかけられる。4日前とすれば、余裕を見て20日ほどじゃな。急いだ方がいいが……どうする気じゃ?」
 「決まってます」


 アイトは迷いなく言う


 「……止めてもムダ、か」
 「はい。それに約束してるんです、銀猫人の故郷に連れて行くって」
 「……銀猫人!?」
 「は、はい」
 「まさか、連れ去られた魔帝族は……銀猫人なのか!?」
 「そうですが……」
 「おぉ、まさか……たしか、7歳で女の子……」
 「あの、ドグさん?」
 「アイトくん、その子は銀猫人にとって重要な子だ」
 「へ?」
 「全ての魔帝族に共通するが、銀猫人は子を宿すのが魔帝族で最も難しい種族でな、雌の個体数はほんの僅かしか確認されていない。そして、最後の出産記録はワシの知る限り1人……」
 「えっと、どういう……?」


 
 「【魔帝十二神将まていじゅうにしんしょう】の1人、【水天すいてんヴァルナ】様……彼女が、最後の出産者じゃ」




 ドグは絞り出すような声で言う


 「で、でもどうして? そんな重要人物の子供なら、国境警備軍のガモンさんが黙ってないだろうし、魔王と繋がりがあったなら、ミコトのことも報告してるはず」
 「わからん。だがこれは事実じゃ」
 「それにドグさん、どうしてそんな事を……」


 ドグはニヤリと笑う


 「なぁに、この辺の魔帝族は、故郷と繋がりがあっての。あっちの情報は常に入ってくるんじゃ」
 「おぉ……」


 アイトは感心した
 村に残った魔帝族と、デズモンド地域に帰った魔帝族は繋がっている


 「アイトくん、ワシには応援しか出来んが……頑張ってくれ」
 「はい、ありがとうございます。ミコトを助けたら、また寄ってもいいですか?」
 「ああ、是非来てくれ」




 タイムリミットは20日、アイトは静かに拳を握った
 

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