神様のヒトミ

さとう

27・神様のヒトミ



 アイトは状況が理解出来ず、呆然と立ち尽くしていた


 「………」


 唖然
 思考停止
 あの煙は、なんの煙だ?
 今なら分かるが、この集落では調理以外に火を使わない
 お祭りや外でバーベキューなどもなく、火を使うのはいざという時に位置を知られないため、国境警備軍としての仕事のためだった


 だからこそ、何が起きてるか分からなかった
 動悸が速くなり、全身に悪寒が走る
 背中のリュックが重く感じ、聖水とは何だったのかを考える


 ミコトは湧き水と言っていた
 だが、どうしてこのタイミングで汲に行かせたのか
 まるで、集落からアイトとミコトを引き離すためではないのか


 「うそ、だ……」


 ガロン達は、ここで何かと戦ったのか


 「そ、そうだ……まだガロンさんたちと決まったワケじゃ……」




 アイトは、集落に向かって走り出した




 ***********




 アイトが集落の裏口で見つけたのは、エゾの死体だった


 「え……エゾさん!?」


 血溜まりに沈み、目は虚ろ
 背中がバッサリ切り裂かれ、鎧らしき破片が落ちていた


 「エゾさん、エゾさん!!」


 アイトはエゾを抱き起こし、何度も揺する


 いつも修行や勉強の帰りに出会ったエゾ
 疲れたアイトを労い、たまに家で食事もしたりするおじさん
 そんなエゾは、既に事切れていた


 「あ、あぁぁ……なんだよ、なんなんだよ……」


 エゾだけではない
 周りには、いくつかの死体がある


 「あ、あ……ウール、さん……ガオさん、ボドさん……」


 四肢が欠けたウール、首だけのガオ、剣が突き刺さったボド
 全員が、アイトを可愛がってくれた大事な仲間だった


 すると、聞き慣れない声が聞こえてきた


 「おい、めぼしいモンは何もねーぞ」
 「チッ、魔帝族っつってもこんな山奥じゃ何もねーな」
 「おい、【救世主】様たちは?」
 「ああ、あっちで蛇女と鬼ババァと戦ってるよ、どうやらけっこうな使い手みたいだが……まぁ直ぐに終わるだろ」


 エゾの家から、何故か人間が出てきた
 身体には鉄の鎧を纏い、腰には剣を装備してる
 全員が若く、アイトよりやや年上といった風貌だった
 手には干し肉があり、人間達がかじっている
 アイトを見た人間達は、眉をひそめた


 「おい、誰だお前……んん?」
 「黒髪黒目……まさか、行方不明の【救世主】か?」
 「でも隻眼だぜ? 偽者じゃねーの?」
 「おい、顔を見せろ……チ、邪魔だなこれ・・


 すると兵士の1人が、頭だけのガオを蹴り飛ばした


 「………」


 アイトの中で、何かがキレる
 久し振りに見た人間達は、肉の塊にしか見えなかった


 「おい、顔を……ぶげゃぁッ!?」


 アイトは近づいて来た兵士の顔面を、全力でぶん殴った
 鼻とアゴが砕け、眼球が飛び出し、前歯が全部折れて吹っ飛んだ


 「な、お前……!!」
 「やっぱ魔帝族か、構えろ!!」


 アイトは、15歳にして殺意を覚える




 「殺す」




 ***********




 3人の兵士を肉の塊にし、アイトは周囲を見る


 「人間族……それに、救世主……!! ミコト、ガロンさん!!」


 アイトはガロンの家に向かう


 「エドさん、ノーマさん、ウグイさん……ちく、しょう……!!」


 ほんのちょっとの距離なのに、見慣れた顔が倒れてる
 アイトは涙を流しながら、ガロンの家に入る


 「ミコトッ!!」


 しかし、そこには誰もいない
 アイトは家を突っ切り、裏庭へ出る……そして






 「が………がろん、さ……」






 大きな熊人が、血だらけで倒れていた




 ***********




 「あ、あぁぁ……あぁぁぁ……」


 アイトは幽鬼のようにガロンの元へ行き、その場で崩れ落ちる
 ガロンは右腕が消失し、身体中引き裂かれていた


 「ああ、あぁぁぁ………」


 涙が溢れ、止まらなかった
 隻眼から溢れる涙は、地面にシミを付けた
 アイトはガモンに縋り付き、逞しい胸に顔を埋める


 「う、うぁぁ……あぁ……え……?」


 すると、何かに頭をなでられる
 毛むくじゃらの黒い腕、何度も感じた優しい手


 「………泣くなアイト……男だろう?」




 ガモンは、薄く目を開けて微笑んだ




 ***********




 「が、ガモンさん!? よかった、手当を!!」
 「……聞け、アイト」
 「え……」


 ガモンは、絞り出すような声で言った
 まるで、生きる力全てを使い、声を出しているようだった


 「オレは……オレには、妻と息子がいた。妻はオレより強く、最高の女だった……」
 「ガモン、さん……」


 アイトは、ガモンの話を聞くしかなかった
 きっとこれが、最後になると分かってしまった


 「オレが魔王様からこの国境警備軍の仕事を受けたとき、妻は猛反対した。息子は5歳になったばかりで、そのとき魔帝族の流行病で苦しんでいたからな……だが、魔王様に逆らえなかったオレは、妻と息子を捨ててこの地へ来た」


 「結果……息子は死んだ。妻は……オレを恨んで、オレが居ない間に妻を支えてくれた男性と再婚した。オレが守りたかったモノは……なかった」


 「過去も思い出も全部捨てて、この地で仕事に生きようとしたとき……ミコトに出会った。集落の誰にも懐かなかったのに、なぜかオレに懐いてな……オレの事情を知る集落の連中は、オレが父親になることを勧めた」


 「最初は苦労したが……あの子の笑顔が、オレの息子とダブって見えた。息子を捨てたオレが、こんなにも幸せを感じていいのかと、何度も考えた。ミコトの成長が嬉しい半面、オレは悩んだ……」


 「そんな時だ、お前が現れた。生きてたら、息子と同じくらいのお前が……オレが見つけた時、また運命を感じたよ。お前を拾って、鍛えて……本来は息子に教えるつもりだった【壊神拳】を教えて……」


 「オレは……オレは、幸せだった。息子の側に居なかったオレが、こんなにも幸せを感じていた。息子と娘に囲まれて、オレはバモンの側に居なかったことを後悔した……」


 ガモンは、震える手でポケットを探る
 すると、1枚の硝子板を取り出す


 「アイト、ミコトを頼む……オレの娘を、頼む」
 「がも、さん……ひっぐ、はい……!!」
 「ミコトを、銀猫人の故郷へ……連れて行ってくれ。それと、これを……オレの妻に」


 ガモンは硝子板をアイトに託す
 そこには子供を抱えるガモンと、熊人の女性が写っていた


 「モーラに、すまないと……愛してると、伝えてくれ」
 「……はい……っぐ」


 ガモンはアイトの頭をなでる
 アイトはこの感触を、心に刻み込む


 「アイト、【壊神拳】全三種の『きわみ』奥義……『螺渦らうず』・『太極たいきょく』・『臥王がおう』を使いこなせ、そして……最後の、『天衣無縫てんいむほう』を完成させろ……お前なら、出来る」


 アイトは頷く
 全てを語り終えたガロンは、優しく微笑む
 その目から、涙が零れていた


 「あぁ……アイト、ミコト……オレの、自慢の……」
 「ガモンさん……俺、ここにいる」
 「ああ、あったかいな……」


 ガモンの手を握り、アイトは笑う
 涙は止まらないが、ずっと笑う


 「バモン………いま、そば、に………」




 ガモンは、そのまま眠りについた




 ***********




 潰れた右目が、痛み出す


 ガモンの手を握りしめ、アイトは立ち上がる
 すると、集落の中央で轟音が聞こえた


 「ミコト……」


 アイトは振り返り走り出し……一度だけ振り向いた


 「ガモンさん……」


 アイトは前を向き走り出す
 そして、集落の中央に、そいつらはいた


 「ヘイヘイヘイ、楽しませろよ!!」
 「チ、ィィィ……ガキが……」
 「こっちは……もうダメね」
 「あとは、あなただけだよ?」


 片腕を失ったオババと、上半身だけのオピス
 アイトは大声で叫んだ


 「止めやがれテメェらぁぁぁぁッ!!」


 アイトは『雷駆ライク』を使い、オピスを掴む裕子に殴りかかる


 「あら? まだいたの」
 「な……ぐ、がぁッ!?」


 だが、見えない壁がアイトを阻み、そのまま吹き飛ばされる
 何度も地面を転がりようやく停止した


 「新手……ん? ねぇ、あの子って……」
 「ンだよ? あぁ?」
 「黒髪黒目……それに同い年くらい、まさか……アイトくん? だっけ」


 裕子がオピスを興味なさそうに投げると、アイトの側まで転がってきた


 「お、オピス先生!!」
 「あ、ら……あい、と……無事、だった?」
 「はい……はい、ちくしょう!!」
 「ゴメンね……負け、ちゃった……偉そうに、先生なんて言ってくれて……嬉し、かった……」
 「せんせ……」
 「しっかり、見て……あなたの、目で……」
 「オピス、先生……」
 「ありが……とう……」


 オピスは笑顔になると、そのまま事切れた
 ズキン、と……アイトの目が痛み出す
 もう見えない右目が、静かに疼き出す


 アイトは右目を抑えながら立ち上がり、敵を見る
 泣くのは、全てが終わったら
 オババに加勢すべく走り出した


 「おいおい、なんだよテメェ」


 アイトは広大に殴り掛かる
 目の前の3人は敵であり、男女の区別は既になかった


 「おぉぉぉッ‼」


 全身に魔闘気を漲らせ、拳に集中する
 怒りに身を任せた一撃は、広大の顔面を捉えた




 ─────ガキンと、硬い音が響く




 「······な」
 「ほぉ、いいじゃん」


 広大はアイトの拳を片手で受け止め、ガッチリと握り締める
 アイトは全力で拳を引き戻すが、ビクともしない


 「離、せっ‼」
 「おっと」


 外れない右拳はそのまま、左のハイキックを繰り出す
 しかし、広大は右腕でブロックした


 「気を付けて時枝くん、その人······操られてるのかも」


 みわがオババの鬼包丁を素手で受け止める
 オババの腕の筋肉が膨張し、包丁が砕け腕が弾け飛ぶ


 「ぐがぁッ⁉」
 「オババ先生ッ⁉」


 両腕を失ったオババは吹っ飛び、ゴロゴロと転がる
 アイトはオババに駆け寄るため、掴まれた右拳に全力で魔力を流す


 「離せテメェェェェッ‼」
 「おぉ♪ 痺れる痺れる」


 数億ボルトの電流が流れるが、広大は気持ち良さそうに目を閉じるだけ


 「おい、落ち着けよ。お前はオレたちの仲間だろ? なんであんな魔獣共と居たのかは知らねーが、一緒に帰ろうぜ?」
 「魔獣······だと‼」
 「そうだよ、何を吹き込まれたのか想像付くけどよ、コイツ等はこの世界の悪なんだよ。それを滅ぼすためにオレたち【救世主】が呼ばれたんだろうが」
 「······違う‼」
 「おっと」


 アイトは右拳を外す
 今までに無い力が溢れてくる


 そのまま『雷駆ライク』を纏い、倒れたオババの側へ
 広大が追撃しようとしたが、2人の女子に止められた


 「おい、なんだよ」
 「少し様子を見ましょう、面白いモノが見れるわ」
 「へぇ、どうやらあの魔獣に、恩義を感じてるみたい。悪いコトしちゃったかな?」
 「知るかよ、アホか」
 「どうせあの鬼人は助からないわ。一応、戦闘態勢を。暴走した彼を取り押さえて、城へ帰還しましょう」
 「うん。アイトくんを捕獲したら、湯川さんたちも喜ぶよねぇ」
 「そういえば、兵士共は?」
 「ああ、先に帰還して貰ったわ。役に立たなかったし、乱入してきたネコの魔帝族を捕獲して連れて行ってもらったわ」
 「奴隷を捕まえろって言われたのに、ぜ〜んぶ殺しちゃったもんね」
 「し、仕方ないでしょ、加減が難しいんだもの」




 3人は、死体に囲まれ談笑を始めた




 ***********




 「オババ先生っ、大丈夫か⁉」
 「おや······アイト、かい?」


 オババの身体は萎んでいき、アイトの知るオババとなる
 両腕が消失し、全身に酷い火傷を負っていた


 「ちくしょう、今手当を······」
 「もうダメさね、いいからお聞き」 
 「オババ······」


 ガロンの時と同じ
 アイトはそう感じ、涙が溢れる


 「あの【救世主】たちは、召喚されたアンタたちの中でも末席レベルらしいね。ははは、このアタシが手も足も出なかった。歳は取りたくないねぇ······」
 「オババ、俺は······」
 「いいかいアイト、アタシはアンタが特別だと思ってる」
 「え······」


 オババの顔は優しい
 まるで、孫を見るおばあちゃんのような目


 「《森羅万象》······全てを見る。まるで、神様のヒトミじゃないか。この千年生きたアタシでさえ、聞いたことない【異能アビリティ】だ」


 ─────ズキンと、アイトの目が疼く
 まるで、オババの声に反応してるようだった


 「目が潰れても、見えなくなっても、アンタのアビリティは消えたワケじゃない。いいかいアイト······見るんだ」




 『キミは私の最後の希望、右の目で黄昏を、左の目でキミの世界を、両の目で虚空の世界を』




 「アタシたち魔帝族を滅ぼすのが、この世界を救う······アタシは、違うと思う。アイト、あんたの答えを見つけるんだ、それがアタシの最後の宿題だよ······」
 「オババ······」
 「あぁ、生きてて良かったよ·······こんなにも、満たされたのは、初めてだよ······」




 『見るんだ、そして……』




 「アイト······ありがとね」
 「オババ······オババ······」


 アイトの顔を覆っていた布が外れる
 眼帯の変わりに巻いていた布が、意思を持つかのように外れた


 「う、ぐぅぅ······あ、ぁぁぁ······」


 悲しみと怒りが混ざり合う
 左目から涙、右目からは黒い血が流れる


 「やってやるよ、オババ······」


 アイトの右目が燃え上がるように熱くなる
 焼けた杭を打ち込まれたかのような激痛が走る


 「こんな、こんなことをする為に呼ばれたのが【救世主】なら······」


 白い結膜が黄金に輝き、虹彩は虹色に煌めく
 瞳孔には星のような紋章が入り、眼球周囲の皮膚には発光する紋様が刻まれる




 「俺が全部ブッ壊す‼」
 『全てを1つに‼』




 そして、アイトは『開眼かいがん』した




 ***********




 「ねぇ、様子がおかしいよ?」
 「あん?」
 「気を付けて、いざという時は取り押さえるわよ」


 アイトはユラリと立ち上がり、3人に向き直る
 その目は輝き、そして怒りを内包している


 「神世くん、貴方を探してたの。帰りましょう?」


 みわが優しく手を差し伸べる
 しかし、アイトはドスの聞いた声を出す


 「黙れ、ゲス野郎共」


 女子2人はため息を付いたが、広大はピキリと眉を寄せる


 「おいおい、舐めた口利くなよテメェ、優しく言ってるウチが華だぜ? お前をブチのめして繋いで帰ってもいいんだよ、コッチは」


 アイトの表情は変わらない


 「いい、貴方は魔帝族に操られてるの。凶悪な精神コントロールを受けてるとしか思えない。落ち着いて、帰りましょう?」
 「そうだよ、それにキミを探して湯川さんたちも居なくなっちゃったの。キミが居れば戻ってくるはずだよ?」


 アイトは構える
 【壊神拳】の基本の型
 右拳を胸に、左手を前に突き出して


 「もう黙れ、お前たちは俺の敵だ」
 「チッ、もういいだろ、日野、土間よぉ」
 「······仕方ない、制圧するわ」
 「ゴメンね、ちょっと痛いかも」


 3人の空気が変わる
 しかし、アイトは負ける気がしなかった
 アイトは名乗る。目の前の敵に






 「壊神拳かいじんけん初段二級しょだんにきゅう第一種だいいっしゅ十五号じゅうごごう神世藍斗かみよのあいと






 こうして、アイトの戦いは始まった




 ***********










 アイトは、自分の頭にある【異能アビリティ】を見た
 開眼した、真の【異能アビリティ】を










 《万象神ばんしょうしんヤルダバオトのひとみ
 ○隣り合う世界に干渉することが出来る



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