神様のヒトミ

さとう

26・異変



 アイトとミコトは、崖を登り岩場を越え、お昼過ぎには山の頂上まで来ていた


 「アイト、お昼にしよ」
 「ああ、腹減ったしな」


 アイトはカバンから、ガロン特製のサンドイッチを取り出した
 食パンの耳は敢えて取らず、畑の野菜と魔獣の肉の燻製を挟んだ特製品だ
 アイトはもちろん、ミコトの大好物でもある


 「いただきま~す」
 「いただきますッ!!」


 木で作られた水筒の水を飲みながら、大きなサンドイッチを頬張る
 シャキシャキの野菜と、肉の燻製の味が混ざり合い絶品であった


 食事を終えて一服する
 するとアイトは、ミコトに提案した


 「なぁミコト、洞窟まで距離あるし、ちょっと試したいことがあるんだ」
 「にゃ?」


 ミコトは丸くなり、しっぽがユラユラ揺れている
 お腹いっぱいになると眠くなるようで、少しぼんやりしてた


 「実は新技を開発中でさ、ちょっと試したいんだ」
 「にゃあ……いいよ」
 「よし、じゃあここからは俺に任せろ」
 「うにゃ?」


 アイトはミコトを背負うと、持ってきたロープで身体を縛る
 ミコトは訳も分からず、アイトに質問した


 「あ、アイト。なにすんの?」
 「ああ、俺の適応属性は【雷】でさ、そいつを応用した移動方法を考えてたんだ。それで考えたのが……コイツだ」
 「う、にゃぁっ!?」


 すると突然アイトの身体が発光し、バチバチと放電する
 ミコトは感電することがなかったが、しっぽの毛が逆立った


 「能力は高速移動。名付けて『雷駆ライク』だ」


 【魔術奥義テンプレート・アーツ】・『雷駆ライク
 要は電気の力で高速移動する
 アイトにも仕組みは分からないが、電気を身体に流したら身体能力が格段にアップし、試しに走ってみたら恐ろしい速度が出た
 しかし、操作に難があり、未だ完璧には使えない


 「しっかり掴んでろよ、目標は……今日中に帰って驚かせる!!」
 「にゃーお、いいねソレ!!」


 アイトは地面を踏みしめ、洞窟の方向に向く
 下り坂の地面は一本道で、木々こそあるが大きな遮蔽物はない
 まともに進めば4時間ほど、つまり夕方までかかるが、アイトの目標時間は


 「30分!! 聖水汲んで……3時には家に到着だ!!」
 「おぉー!!」


 つまり、これから2時間半で家まで帰る
 『雷駆ライク』をずっと発動させたまま、ノンストップで走る


 「行くぞ!!」
 「いっけーっ!!」




 アイトは走り出し、全力でジャンプした




 ***********




 地面に着地して再びジャンプ


 1回のジャンプで、100メートルは飛んだ
 アイトの身体は魔術で強化されてるので、壊れる心配は無い
 むしろ、風を切るのが心地よく、クセになりそうだった


 「にゃっほーっ!!」


 ミコトもご機嫌である
 アイトも嬉しくなり、さらにスピードを上げる


 平地に着地すると、そのまま全力疾走する
 時速200キロは出てるだろうか、しかしアイトの瞬発力は並ではなく、地面にある岩や小石を躱す
 面白くなってきたアイトは、道の先に立つ大木をジャンプして避ける


 「いやっほーッ!!」
 「にゃっふーッ!!」


 気が付けば、あっという間に30分経過
 山を越え、平地を進むと小さな林が見え、岩場に囲まれた洞窟が見えた


 「お、あそこか」
 「うん、そうみたい」


 ゆっくりとブレーキをかけ、洞窟手前で停止する
 洞窟は小さく、長さも殆ど無かった


 「あ、あそこだ」
 「ホントだ、洞窟ってか岩場から水が染み出してる感じだな」


 アイトは木の水筒に水を入れてしまう


 「なぁ、これが聖水なのはわかったけど、何に使うんだ?」
 「知らない。ここに来たのも初めてだし、おとーさんがここに湧き水があるっていってたのは知ってるけど」
 「ふーん……」


 アイトは湧き水を飲むと、顔を歪める
 あまりの冷たさに、胃が驚いた


 「うんまっ!! つめて~」
 「あたしものむっ」


 ミコトは水をペロペロ猫のように舐める
 アイトはついミコトの頭をなでてしまった


 「にゃう?」
 「帰りも飛ばすからな、いっぱい飲んどけよ」




 ガロンの頼みの聖水を手に入れ、帰路につく




 ***********




 帰り道を全力で飛ばし、アイトは思っていた


 ガロンは驚いてくれるだろうか
 2日はかかるとガロンは言ってたが、たったの1日で戻ったこと


 オピスは驚くだろうか
 アイトが考えた『雷駆ライク』を見て、何を言うだろうか


 オババは驚いてくれるだろうか
 洞窟までの地理を迷わず、全力で駆けたことを


 アイトは走る
 人間族である自分を受け入れてくれた故郷へ
 異世界という行き場のない地獄の中の、天国へ


 今日の夕食は何だろう
 明日からまた修行
 【救世主】たちの答え


 考えることは、いくらでもあった。でも


 「もうすぐ到着だ!!」
 「うん!!」


 今は、アイトの人生で最も輝いていた
 だからこそ、恐怖がある




 こんな幸せが、いつまで続くかという恐怖が




 「……アイト、待って……」
 「ミコト?」
 「止まって!!」


 ミコトの様子がおかしく、アイトは崖下辺りで止まりミコトを降ろす


 「………なに、これ」
 「ミコト、どうしたんだ?」


 ミコトは何故か震えだし、泣きそうな表情で言った


 「に、におい……血のにおいが……それも、たくさん……」
 「は? 血って……魔獣だろ?」
 「ちがう、これ……うそ、違う!!」
 「お、おいミコト!?」


 ミコトは獣のように、4足ダッシュで走り出した
 訳も分からずアイトは追いかける




 そして、アイトは見てしまった






 血煙が登る、アイトの故郷を
 

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