神様のヒトミ

さとう

25・ガロン



 アイトは1人、ガロン宅の裏で精神統一していた


 「ふぅぅ······はぁぁ······」


 上半身裸で、全身からじっとりと汗が流れてる
 気の流れと魔力の流れを感じ取り、頭から指先まで満遍なく魔闘気を巡らせる
 全身の経絡穴、そして魔経絡に魔闘気を留め、爆発させる


 「墳ッ‼」


 すると、全身の汗が吹き飛ばされる
 アイトの身体は完全に乾いた


 「出来た······やってみるモンだな」


 以前、アイトが漫画で読んだ精神統一の仕方をマネしたら、意外と簡単に出来た


 「アイト〜、汚い〜」
 「うわ、ごめんミコト」


 アイトの汗が飛び散ったのか、ミコトは濡れていた
 頭とネコ耳をなでて謝ると、アイトはアダマンタイト石のところへ向かう
 ミコトは家の中へ入って行った


 「よし、今日こそ砕いてやる」


 アイトが一種の奥義を習得し始めて1週間
 アダマンタイト石には無数の拳の跡が刻まれていたが砕けるまでは行かなかった


 奥義の修行を始めてから、畑仕事や山には入るが鍛錬自体は減り、魔術修行も基礎練習だけになった
 ガロン曰く、アイトには全て伝えた。あとは己で精進しろとのこと
 オピスも同じで、【魔術奥義テンプレート・アーツ】は自分で作るモノ、アドバイス出来ることはないと言う


 「雷ねぇ······思いつくのは、高速移動とかだよな」


 漫画で読んだ雷使いは、高速移動したり、高圧電流を纏って戦っていた
 アイトは、自身の体術と雷を組み合わせる技の開発に難航している


 手に紫電を纏わせると、バチバチと帯電する
 そのまま手を突き出して叫ぶ


 「雷切‼ なんちゃって······」
 「何してるんだ、アイト?」
 「ぶっふぅっ⁉」


 ミコトを抱えたガロンが、アイトの一連の動作を見ていた
 アイトは顔を真っ赤にして、なんとか誤魔化した




 結局、アダマンタイト石は砕けなかった




 ***********




 その日の夜、夕食時


 「アイト、お前に頼みがあるんだ」
 「はい?」


 ガロンからの頼み
 集落に来てそこそこ経つが、改まっての頼みは始めてだった


 「ああ、山を超えた先にある洞窟で、聖水を汲んで来て欲しい」
 「聖水······ですか?」
 「そうだ。今のお前なら問題ない、恐らく2日もあれば行けるだろう」
 「それって、泊まりでですか?」
 「ああ、洞窟に到着する頃には日も暮れるだろう。そこで1泊して帰って来てくれ。案内にミコトも着ける」
 「にゃっ⁉ いいの⁉」
 「ああ。気をつけろよ」
 「やったーっ‼」


 ミコトはガロンに抱きついて喜ぶ
 ガロンもミコトの頭をなで、優しく微笑んだ


 食事が終わると、ミコトは部屋へ
 どうやら眠くなったらしく、そのまま寝るようだ


 「アイト、少し話さないか」
 「あ、はい」


 食器を片付け、部屋で【魔術奥義テンプレート・アーツ】の構想でも練ろうかと思っていたアイトをガロンが引き止める
 ガロンはお茶を入れアイトに渡すと、テーブルを挟んでアイトの対面に座った


 「アイト、突然だが、なぜお前はオレたちのことを聞かない?」
 「え?」
 「お前はミコトから聞いたはずだ。オレが、いや、この集落の全員が国境警備隊ということを。気にならないのか?」


 以前ミコトから聞いた話を思い出す
 しかし、アイトにはどうでも良かった


 「はい、皆さんがどんな立場で、どんな仕事をしてても、俺を救ってくれたことに変わりありません。だからそんなことはどうでもいいです」
 「······そうか」


 話は終わり、アイトは立ち上がる


 「アイト」


 ガロンが、アイトを呼び止めた


 「お前には感謝してる。お前のおかげでオレは······」
 「え?」
 「いや、何でもない」


 アイトは首を傾げたが部屋に戻る
 ガロンは戸棚から酒瓶を取り出すと、ちびちびと飲み始めた


 「早いモンだな······」


 アイトが来て半年、生活は変わった
 魔王に国境警備隊を任され、辺境の森に飛ばされた
 森の入口でミコトを拾い、小さなミコトは集落の誰にも懐かなかったが、なぜかガロンには懐いた
 それから7年、ミコトは大きくなり、今度は人間の、しかも【救世主】を拾って世話をした


 迷子のような顔をした、異世界の少年
 身体を鍛え、知識を付けて、ガロンが伝えるはずだった【壊神拳】を教えた
 アイトには言わなかったが、アイトは才能に溢れていた
 教えるのが楽しく、伝える技は全て伝えた


 ガモンはここで、ポケットから石をとりだす
 それはガラスのような材質で、中には映像が保管されていた


 「バモン、モーラ······オレは、こんな幸せでいいのか?」




 そこに写ったのは、女性と子供の熊人だった




 ***********




 「よーし、行くぞミコト」
 「うん、競争するぞアイト‼」


 翌朝、リュックを背負ったアイトとミコトは、ガロンの家の前にいた
 これから山の向こうの洞窟へ行き、聖水を汲みに行くのだ


 「気をつけろよアイト、ミコトを頼んだぞ」
 「はい、行ってきます」
 「おとーさん、行ってきます‼」
 「ああ、気をつけろよ」
 「うにゃぁ······」


 ガロンはミコトを撫で付け、ネコ耳を触る
 いつもより優しい感じがする


 「あの、ガロンさん······」
 「ん? どうしたアイト」
 「·····いえ、何でもないです」


 こうして、アイトたちは出発した
 アイトが集落に来てから初の外泊でもあった


 「ふんふ〜ん、ん? どーしたのアイト?」
 「······いや、何でもない」
 「そう? じゃあ競争ね‼」




 ミコトは山道を駆け出し、アイトも負けじと追った




 ***********




 アイトたちが出発し、時間は昼を過ぎた頃


 ガモンは家の中へ居た
 家の中にはグリスがいた


 「······行ったな」
 「ああ、準備は出来てるな」
 「······ああ」


 ガロンは床下を破ると、使い古された防具と篭手を取り出す
 少しだけ見つめ、防具と篭手を装着する


 「ホントにやるんだな?」
 「ああ、オレたちは国境警備隊だ。いかにアイトの同胞······【救世主】といえ、魔帝族の領地を犯す者は排除せねばならん」
 「チッ、こんなことは言いたかねぇがよ、【救世主】はバケモンだ。全盛期のオババですら、現れて数ヶ月のガキに殺されかけたんだぜ」
 「だが、やるしかない。魔王様からは、撤退の指示はない。それはつまり、オレたちは仕事をしなくちゃならないと言うことだ」
 「はぁぁ······ガキの頃の付き合いだから分かるがよ、お前が死んだらミコトはどうなる? アイトだって悲しむぜ?」
 「バカが、オレは死ぬつもりはない。息子と娘・・・・を残して死ぬ父親がどこに居る?」
 「はぁ、わかったよ。全く」


 ガロンが家から出ると、同じように武装した住民が集まって来た


 「やれやれ、これが最後の戦いになるだろうねぇ」
 「オババ、まだ隠居には早いわよ?」


 オババは包丁のような巨大な剣を握り、オピスは魔術師のローブを纏っている
 鹿人のエゾも、羊人のウールも完全武装し、集落の全員が戦闘態勢を取る


 「いいかいガキども、敵は【救世主】だ。アイトの同胞だが遠慮はいらない、この【魔王軍・独立国境警備隊】の強さを見せつけてやろうじゃないか‼」


 雄叫びが上がり、全員を鼓舞する


 ある日、グリスが持って来た情報にはこうあった
 【救世主】が、魔帝族の領地を下見がてら、力を試すと
 そして、【救世主】の力により、国境付近のこの集落が狩りの目的地になると


 偵察しか出来ないアビリティなのか、ガロンたちが国境警備隊と言うことまではバレていない
 純粋に、力試しの場を求めているだけだった


 集落で情報を共有し、アイトとミコトには伏せられた
 ミコトはまだ小さかったし、アイトに至っては同胞である
 いくらアイトでも、魔帝族が人間を殺す所を見せるワケにはいかなかった


 なので、戦闘が始まる前に、アイトとミコトを山の向こうの洞窟へ逃がす
 そして、戦いを今日中に終わらせ、何事も無かったかのように片付ける
 これが、集落全員で話した結論だ
 ぶっちゃけ、聖水なんてない、ただの言い訳だ


 「グリス、万が一の時は、アイトにアレを渡しておいてくれ」
 「やなこった······とは言えねぇな。ったく、損な役回りだぜ」
 「ああ、偵察が済んだらお前は身を隠せ。そしてアイトとミコトを頼む」
 「わかったよ。終わったら美味い酒で乾杯しようぜ」
 「ああ、とっておきを開けてやるよ」


 グリスは全員と話すと手を上げて森の中へ
 情報ではミモバの森を抜けて来るのは分かっていた


 「ふふ、アイトの【魔術奥義テンプレート・アーツ】を見てないし、ここで終わるわけにはいかないわね」
 「そうさね。くくく、久しぶりに血湧く血湧く」


 国境警備隊は、全員が凄腕の使い手


 「アイト、ミコト······」


 ガロンの予想では、アイトたちの帰りは明日
 それまでに終わらせて、全てを無かったことにする


 しかし、ガロンの予想は大きく外れた


 「······おい、あれは」
 「何か、来るぞ?」
 「まさか······グリスッ‼」


 片腕を切断され、全身に酷い火傷を負ったグリスが飛んできた
 グリスはガロンにキャッチされ、辛うじて息をしていた


 「き、を······つけ、ろ」
 「喋るな‼」


 全員が戦闘態勢を取る中、現れたのは50人以上の人間
 その中でも、特に強いのが3人の男女


 「へぇ、けっこう居るなぁ」
 「20人くらいかな、少し物足りないかも」
 「さて、ヤろうじゃねーか、へへへッ‼」


 『城壁キャッスルウォール』・土間裕子どまゆうこ
 『炎の化身ブレイズアバター』・日野ひのみわ
 『チャンピオン』・時枝広大ときえだこうだい


 神が遣わせた【救世主】
 19人の、奇跡の使い手たちが、ここにいた


 「クソ餓鬼共······‼」


 オババの白髪が解け、宙を舞う
 干し柿のような肌が膨れ上がり、頭部のツノが盛り上がる
 爪が伸び、キバが伸び、身長も3メートルほどに伸びた


 「おお、凄いねぇ」


 土間がのんびりと言うが、特に驚いてはいない


 「裕子、広大くん、やるよ」
 「へ、命令すんじゃねぇぞ。オイ兵士ども、てめぇらは周囲を警戒してろ、ここはオレたちが楽しむ場所だ‼」


 兵士は命令通り散開する
 そして、オババが叫んだ


 「行くよお前たち‼ 魔帝族の力を見な‼」


 集落の魔帝族は、【救世主】を倒すべく向かっていく
 ガロンはグリスを止血し、家の柱によりかけた


 「アイト、ミコト······さらばだ」




 ガロンは雄叫びを上げ、【救世主】に向かって行った




 ***********




 ガロンの予想は、大きく外れていた










 アイトは、すでに集落の近くまで戻っていた



「神様のヒトミ」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く