神様のヒトミ

さとう

23・暗雲



 情報屋と接触して3日、アイヒたちは町を楽しんでいた


 「ねぇねぇ、これなんてどーですか‼」
 「あらカワイイ、でも······そんなヒラヒラしたの、ウチには似合わないって」
 「そんなことない、ルシェラはかわいい」


 アイヒ、ミレイ、ルシェラは、町の服屋で買い物をしていた
 本来の目的は、アイヒたちの装備を買うことだったが、いつの間にか、ただのショッピングになっていた
 離れた場所にはアシュロンが1人で佇み、心なしか疲れているようにも見える


 その後、買い物は数時間かかりようやく一段落
 オシャレなカフェに入り、買い物袋を下ろす


 「いや〜、たまには買い物もいいわね〜」
 「ルシェラ、買い物はしないの?」
 「まぁね、普段はアシュロンと2人だし、アイツは必要最低限のモノしか買わないし。依頼主も傭兵と割り切って接してたから、同世代の子と仲良くなんてなれなかったし」


 ルシェラは苦労していると、アイヒたちは感じた
 だからこそ気になった


 「ルシェラは、どうして傭兵をやってるの?」
 「······ま、昔いろいろあってね。聞きたい?」
 「え、でも······」
 「隠すようなことじゃないし、それに······アナタたちに出会ったのは偶然じゃない気がするの」




 ルシェラは、店の外から見えるアシュロンを一瞥した




 ***********




 「アシュロンは元々傭兵じゃなくて、冒険者だったの」
 「冒険者?」
 「えっと、この世界の至るとこにあるダンジョンや、未開の地域のお宝を探したり、魔帝族の地域である〔デズモンド地域〕を冒険したりする、トレジャーハンターですよね?」
 「そ、アシュロンは腕利きでね、ダンジョンを踏破してS級の冒険者資格を与えられたのよ」


 懐かしそうに語るルシェラに、ミレイは聞く


 「じゃあルシェラも?」
 「うぅん、ウチは冒険者でも······その頃は傭兵ですらなかった、ただの村娘よ」
 「え?」


 ルシェラは少し冷めたコーヒーを啜り、喉を潤す


 「アシュロンには、妹がいたの」
 「·········」


 その一言で何かを察したのか、ミレイは薄く口を開ける


 「名前はアシュリー、ウチの親友でもあった。もう、いないけどね」


 懐かしさと悲しさを混ぜ、ルシェラは語る


 「今から4年前、アシュロンはダンジョンを踏破してS級の認定を受けたばかりでね、大金も入ったからしばらくはアシュリーと一緒に居れるって、ウチもアシュリーも喜んでたけど、アシュロンは変わらずに冒険に出かけたの。アシュリーは悲しんでたけどね、アシュロンのこと冒険バカって言って笑ってた」


 「ウチはその頃、家の方針で剣を習うため、シンク王国にいる親戚の家に向かう準備中でね、アシュロンを見送り出来なくて、文句の1つ言えなかった。アシュリーを1人にするなって、言えば良かったのに······」


 「ウチがシンク王国へ出発して、親戚の家で剣の稽古に明け暮れて1ヶ月、その知らせは突然来た」


 ルシェラは、拳を握る


 「ウチの故郷が、アシュリーのいた村が······野盗に襲われて、壊滅したって」




 ルシェラは俯き、力なく拳を握る




 ***********




 「村の惨状は、そりゃ酷かったわ。年寄りは殺されて、若い女は犯され殺されて、子供は奴隷商人に売り飛ばされて、村には壊れた家屋ぐらいしか残らなかった」


 「アシュロンが帰って来た時のウチはホント酷かったわ、泣きながらアシュロンを殴って、アンタが居ればアシュリーは死ななかったって。アシュリーの墓の前で、アシュロンは崩れ落ちて······」


 「しばらくはウチもアシュロンも、なーんも出来なかった。家族も、友達も、家も、なーんにもなくなって······残ったウチと、死人みたいなアシュロンは、ウチの親戚に無理矢理連れていかれた」


 「無気力な毎日が続いたある日、アシュロンが突然、冒険者を辞めて傭兵になったの。周りは止めたけどウチにはすぐにわかった。アシュロンは、アシュリーを守れなかった自分が許せないんだって」


 「その気持ち、ウチには痛いほどわかった。ウチもアシュリーを守れなかったのは一緒だから······だから、アシュロンに着いてウチも傭兵になったの。親戚は反対したけどね」




 ルシェラはここまで語り、冷めたコーヒーを飲み干した




 ***********




 「ミレイ、アナタの顔······アシュリーにそっくりなのよ」
 「え······」


 ルシェラはミレイの頭をなでる
 手を伸ばしても届かない、そんな風に手を伸ばす


 「傭兵ギルドで見たときは、ホントに驚いた。それ以外にも驚いたけど、アシュロンはアナタを放っておけなかったのね」
 「ルシェラ······」


 ミレイは、ポロリと涙を零した


 「ほら、泣かないの」
 「ミレイ······」
 「ごめん、ごめんね」


 ルシェラはミレイの目を拭うと立ち上がる


 「さ、行きましょ、アシュロンにも悪いしね」


 3人はカフェを出る
 ミレイは近くにいたアシュロンの側へ行くと、袖を掴んで引っ張りだした


 「······何だ?」
 「一緒に行こう、ね?」


 ミレイは、アシュロンに親近感を抱いていた
 何かを失ったような、哀しさを帯びた目を見て、どうしても気になった
 理由がわかった今なら、アシュロンとも分かり合える


 「······」
 「ごはん食べよ、ルシェラがいいお店を見つけたって」




 アシュロンの袖を引っ張るミレイは、とても楽しそうだった




 ***********




 そして、情報屋との約束の日


 アイヒたちの泊まる宿屋に、1人の男性が来た
 革の鎧と剣を装備した、いかにもな冒険者で、歳も若く20代前半くらいの男性だった


 「例の件で話があるので、いつもの酒場へ」


 それだけ言うと、男性は去っていく


 「よし、行くぞ。情報屋の酒場だ」


 アイヒたちは緊張しながら酒場へ向かう
 裏路地を通り、人気のない酒場に到着し中へ
 カウンターでは、先程の冒険者風の男性が酒を飲んでいた


 「奥へ」


 そう言うと、アイヒたちは奥の部屋へ
 冒険者風の男性も中へ入ると、いきなり雰囲気が変わった


 「ふぅ〜う。さ〜て、まずは金の話だ。お前さんたちの欲しい情報は手に入ったぜ。手間賃として400万コイン頂こうか」
 「ちょ、アンタ誰よ? ウチらはアンタなんて知らないわよ⁉」
 「おっとスマン、この顔じゃわからんか······これだっけ? 確か······この顔か?」


 男性が顔を触ると、グニャグニャと形が変わる
 まるで粘土のような材質で、いくつもの顔に変化した


 「か、顔を変化させるアビリティ······」
 「おお、面白いね」
 「へへ、情報収集にはもってこいなのさ。進化すりゃ体型も変化出来るんだがな」


 中年男性の顔になり、ようやく本題に入る
 しかしその前に、アイヒがコインをテーブルに置いた


 「へへ、毎度あり」
 「内容次第で追加料金を払ってあげるわ。さ、どうぞ」




 アイヒは気丈に見えたが、声はやや震えていた




 ***********




 「まず、アンタらの言うアイトだがな······見つけられなかった」
 「······そ、じゃあこれでサヨナラね」


 アイヒは踵を返そうとし、中年男性は慌てて止める


 「待て待て最後まで聞け‼ いいか、オレたち諜報ギルドが見つけられなかったんだ。赤ん坊から子供、死体の埋められた場所や名前を変えたヤツまで探し出すオレたちが、だ。なら答えは1つ」
 「······まさか」


 アシュロンが何かに気付き、顔を上げる


 「そう、〔デズモンド地域〕だ、そこしかない」
 「まさか、魔帝族の地域に⁉」
 「ああ。あそこは流石のオレたちも管轄外だ。それともう1つ」


 中年男性は、人差し指を立てる


 「何人かの【救世主】が、国境へ向かったらしい。どうやら兵を連れて偵察がてら、腕試しをするんだとよ」




 何かが、起きる予感がした



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