神様のヒトミ

さとう

16・修行



 オピスとの魔術訓練は、集落の外れの広場で行われていた


 「いいわね、その調子よ」
 「……はい!!」


 アイトは今、直径20メートルはある巨大な岩石を浮かせていた
 手のひらサイズの浮遊石から始め、徐々に石のサイズを大きくし、今ではこれほどの大きさの岩石を浮かせられるようになった


 「はいおしまい、ゆっくり降ろして……はい」
 「っぷは、おっしゃ!!」
 「うんうん、だいぶ魔力の扱いに慣れたわね。それに、2ヶ月でここまでやるなんて……さすが【救世主】ね」
 「はぁ……自覚はないですけど、スゴいんですか?」
 「そりゃあね、並の人間だったらここまで出来ないわ。出来るとしたら星級魔術師レベルね」
 「うーん、基準が分からん」
 「ふふ、じゃあ次はいよいよ適応属性を調べましょう。それが分かったら、その属性を中心に訓練して、【魔術奥義テンプレート・アーツ】を作りなさい」
 「【魔術奥義テンプレート・アーツ】……自分だけの、オリジナル魔術」
 「そう、魔術師と呼ばれる人間は必ず持っているわ
  魔術は形のない【魔術奥義テンプレート・アーツ】なの。本来は【火】属性だったら、炎を生み出せるだけ。【魔術奥義テンプレート・アーツ】を加えて初めて魔術の形になるの。【魔術奥義テンプレート・アーツ】が無かったら、ただの大きな炎しか生み出せないわね」


 例えば、【火】に特化した魔術師がいたとする
 この時点で出来るのは、ただ炎を生み出せるだけ
 それは特級でも星級でも変わらない
 ここで「火を丸く固めて打ち出す」という【魔術奥義テンプレート・アーツ】を加えて、初めて【火球ファイアボール】という魔術が生まれるのだ
 そして自分だけの【魔術奥義テンプレート・アーツ】を作りだし、自分だけのオリジナル魔術を持つ


 それこそが、この世界に生きる一流の魔術師なのだ


 「さて、一度アタシの家に行くわ。そこで適応属性を調べるわよ」
 「はい、オピス先生」




 はやる気持ちを抑えながら、アイトは歩き出した




 ***********




 オピスの家に着き中へ入る


 オピスは戸棚から小さなガラス玉を取り出した
 そのガラス玉をアイトに手渡す


 「あの、これは?」
 「これは魔水晶、属性を調べる魔道具よ」
 「へぇ……」
 「さ、少しだけ魔力を流してごらんなさい」


 オピスに促され、アイトは少しだけ魔力を流す


 「うわッ!?」
 「あら珍しい……」


 すると水晶から紫電の光が爆ぜ、ガラス玉は砕けてしまった
 アイトは慌てて欠片を拾い集め、オピスに謝る


 「す、スミマセン……割れちゃいました」
 「いいのよ、どうせ使い捨てだし。割れるとは思わなかったけど」


 水晶の欠片を捨てると、オピスが言う


 「アイト、アナタの適応属性は【雷】ね。人間での【雷】属性はかなりレアよ、人間族全体で見ても2割といないんじゃないかしら?」
 「か、雷……俺が」
 「雷は基本的な7属性の中でも、特に弱点がない属性なの。火と水、地と風、光と闇、そして雷。アタシが知る限りでは、戦場に大規模な落雷を落としたり、電磁波を操って周囲一帯の生物をマヒさせたりしてたわね」
 「なるほど……う~ん」
 「ま、ゆっくり考えなさい。焦っても仕方ない、アナタの特性に合った【魔術奥義テンプレート・アーツ】を作るのよ」
 「はい、ありがとうございます」




 こうして、この日の魔術訓練は終わった




 ***********




 翌日、ガロンとの稽古


 「はぁ、はぁ……くそ」
 「どうした? 型は教えた、後は使うだけだ」


 アイトの前には、漆黒に輝く岩石
 ガロンがどこからか持ってきた物で、これを砕くのが稽古である
 アイトの両拳は皮が剥け、血が出ていた


 「魔闘気の練りがまだ甘い、それとインパクトの瞬間に魔闘気を回転させるんだ、そうすれば対象の体内を破壊しながら衝撃が伝わり、特殊指定級の魔獣ですら屠れる。これが壊神拳一種の奥義・『螺渦らうず』だ」


 アイトは気と魔力を練り魔闘気を作り出す
 右拳に魔闘気を込め、全力で正拳突きを突き出す


 「はぁッ!!」


 アイトはインパクトの瞬間、岩石に触れるか触れないかの刹那、魔闘気を爆破させる勢いで回転をイメージする


 突風が巻き起こりアイトの拳が岩と衝突する
 まるで岩同士をぶつけたような音が響き渡る




 「………ダメ、か」




 ピキリと、小さな亀裂が入った
 だが、それだけだった


 「ふむ、まあ今日は合格だ」
 「へ……?」
 「全く、1日やそこらで出来るハズがないだろう。オレですら習得に10年掛かったんだ、今日初めて教えて、それでこのアダマンタイト石に亀裂を入れるとは、正直に言うが驚いた」
 「あ、いや……」
 「アイト、お前には素質がある。オレの代で終わらせるつもりだった【壊神拳】を受け継いでくれ」
 「あ………」


 アイトは、今日1日で3種の奥義を見せてもらった
 全てがアイトの度肝を抜き、人間であるアイトが使えるかかなり悩んだ
 でも、ガロンはアイトなら使えると信じてくれた




 アイトは、それが何より嬉しかった




 ***********




 それから2周間、アイトの技は益々磨かれていった


 「アイトー、アプジュースのむ?」
 「ああサンキュ、ミコト」


 破壊拳の全ての型を教わり、少しずつ形になっていった
 アイトは最近、【救世主】の事を考えるようになった


 「アイト、また難しいカオしてる」
 「ん? そうか……」


 ガロンの家の庭で休んでいると、ミコトがじゃれついてくる
 頭をなで、ネコ耳をいじると、ミコトは可愛らしく鳴いた


 「なぁ、ミコトはいつからこの集落にいるんだ?」
 「にゃーん? わかんない、おとーさんに赤ちゃんのころ拾われて、あとはずーっとここにいたしー」
 「そ、そうか……悪かった」
 「なんで謝るの? へんなの」


 話題を変えようと、アイトは何気ない質問をした


 「それにしても不思議な集落だよな、奥に進むと毒の森、前に進むと凶悪な魔獣の山、なんでこんな所にみんな住んでるんだろう?」


 ずっと疑問に思っていたが、敢えて聞かなかった疑問でもある
 ミコトからまともな答えは来ないだろうと思ってはいたが、思わず口に出た


 「んにゃー、それは、おとーさんたちが「こっきょーけーびぐん」っていうお仕事を、まおー様からお願いされてるからだよー」


 だから、答えが返ってきたのには驚いた


 「え……こ、こっきょう?」
 「こっきょーけーびぐん。この集落はにんげんと魔帝族の中間にあるの、それで危ないにんげんたちが入ってこないよーに見張るおしごとだってー……にゃうぅ」


 アイトはミコトの頭をなでっぱなしだった


 「国境警備軍……そうか、だから……」


 おかしいと思っていた
 ガロンにしろオピスにしろオババにしろ、全員が恐ろしい使い手だ
 グリスは弱いが、情報収集にうってつけのアビリティを持っている


 まともに進めばこの集落は絶対に見つからない
 だからこそ、隠れて人間達を監視できる


 そして、もう1つ


 「魔王……か」




 アイトは、なぜかその単語が気になった
 

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