神様のヒトミ

さとう

11・狩猟



 翌朝、日の光が差し込み間もない頃、アイトは1階へ降りてきた


 「おはようございます、ガモンさん」
 「ああ、早速だが行くぞ。朝食はコイツで間に合わせろ」


 ガモンはテーブルの上にパンと干し肉を置き、アイトには干し肉を手渡した
 どうやらテーブルの朝食はミコト専用のようだ


 「さて、準備はいいな?」
 「はい」


 準備と言ってもアイトに用意する物はない
 ガモンは背中に片手斧を紐で下げ、手には大きな袋を畳んで持っていた
 アイトに袋を手渡すと、しっかりした口調で言う


 「これから行くのは近くの山だ。山には魔獣が居るから気を付けろ」
 「ま、魔獣……」


 アイトはぶるりと震える
 ミモバの森で出会った、緑色のバケモノを思い出した


 「いいか、この世界で生きていくのに、戦う力は必要だ。お前みたいな【救世主】なら尚更な。これからは体力作りに加え、山での狩りを取り入れる」


 アイトは、ゴクリとツバを飲み込んだ


 「オレは武器の扱いなんて知らん、だからお前には対魔獣用の武術を教えてやる。使い方によっては人間にも有効だろう。オレのオヤジは戦争で人間相手にそれで戦ったらしいからな」
 「……はい、お願いします」
 「よし、では行くぞ」




 アイトは、ガロンの後に着いて家を出た




 *********** 


 集落を進み、ミモバの森と反対方向の山へ向かう
 しかし、その山はアイトの想像とかけ離れていた


 「着いてこい、落ちるなよ」


 ガモンが渡っているのは、岩の上
 最初こそ普通の山だったが、しばらく進むと90度の絶壁
 そこを登り終えると今度は土砂崩れならぬ岩崩れがあったような悪路
 登り、歩くだけでも体力を奪われる、しかし体力作りには最適の山だ


 「これは、畑の比じゃないぞ……」


 ついそんなことを言ってしまう
 アイトは、最初の崖登りで体力をほぼ使い果たしていた


 岩場を抜けると、ようやく山の中らしくなってきた


 「さて、このあたりから魔獣が出る。いいか、常に四方に気を配れ」
 「は……はい!!」
 「いい返事だ。覚悟を決めたか」


 アイトは周囲を警戒する
 キョロキョロと周りを見て、何度も後ろを振り返る


 「視覚だけじゃない、嗅覚や触覚も使うんだ。風の流れを肌で感じ、山の臭いを覚えて異臭を感じろ」
 「……はい」


 ガロンは普通に歩いてるように見えるが、足音が殆どしない
 それに比べてアイトは、枝を踏みつけて音を出したり、枯れ葉を踏んでガサガサと目立つ音を出してしまっていた


 「く……」
 「気にするな、どうせ魔獣たちにはオレたちの存在はバレている。だがアイト、お前は周囲の警戒の仕方を覚えるんだ。相手に存在や位置が知られてると知られていないでは、全く違う」


 アイトは、ガロンの教えを心に刻む
 決して忘れないように、ガロンの背中を心に焼き付ける


 「………ふむ、いるな」
 「え……」


 ガロンが立ち止まり、思わずアイトも立ち止まる
 獣すら通らない山の中腹
 周囲は木々に囲まれ、気味の悪いツタや木の実が生い茂り、日の光もあまり差さない山の中


 「来るぞ、気を付けろ」
 「……」


 アイトの歯がカチカチ音を立てる
 自然と足が震え、周囲の警戒すら怠ってしまう




 そして、それは現れた




 ***********




 「ほう、珍しいな」
 「あ、ぁ……」


 ガモンは驚いたような、少し間の抜けた声を出し、アイトは余りの恐怖でへたり込んでしまった


 目の前に来たのは4メートル強のバケモノだった
 ガモンの2倍はありそうな漆黒の体軀に、丸太よりも太い4本の腕
 顔や身体はゴリラに近く、戦意剝き出しでガモンに威嚇をしていた


 「コイツはマッドコングだ、人間の等級で言うと……確か、A+レートだったか? うぅむ、後でオババに確認してみるか」
 「が、がも……さ」


 余りの恐怖にアイトはチビっていた
 温かい液体がズボンを濡らす


 「見ろ、コイツの身体は筋肉質だが、乾燥させれば最高級の肉になる。血抜きして保存しておけば、半年は肉には困らん。内臓は煮込めば絶品のモツ鍋になる。ミコトにいい土産が出来た」
 「ガモンさんっっ!! まえーーッ!!」


 嬉しそうなガモンはアイトの方を向き、目の前のマッドコングをまるで警戒していなかった
 馬鹿にされたと感じたマッドコングは、強靱な太さの腕を振りかぶり、全力でガモンの顔面を殴りつける


 グシャァッ!! と、大きな音が響く


 「さて、よく聞けアイト」


 それは素手でマッドコングのパンチを止め、握られた拳の指を掴み握り潰した音だった
 ガモンは左手でマッドコングのパンチを止め、中指を潰す


 『グォォォォォッ!?』


 マッドコングは痛みの叫びを上げ、ガモンの手から逃れようと3本の腕を使って残りの1本の腕を引っ張る
 しかし、ガモンの拘束は全く緩まない


 「いいかアイト、どんな生物も弱点はある。魔獣の弱点は、心臓か頭、それか「魔核」だ」


 ガモンはいつものような口ぶりで、アイトに講義をする


 「オババから聞いてると思うが、この世の全ての魔獣には「魔核」が存在する。その魔核は年月によって大きさを変え、人間の間では高値で取引されたり、武器や防具の材料になったりする」


 ガモンは右拳を握りしめ、振りかぶる


 「いいかアイト、オレの技をよく見ておけ……」


 ガモンは自身の左腕を引く
 するとマッドコングが引っ張られ、体勢を崩す


 「憤ッ!!」


 魔力とは違う何かを帯びた拳が、マッドコングの心臓を貫いた
 そのままマッドコングの身体は痙攣し、息絶える


 「今のは体内で「気」を練り、魔力と合わせた「魔闘気」だ。この打撃が当たれば、「魔経絡」にダメージを与えられるし、肉体にもダメージを与えられる。つまり、魔術を使えなくさせるコトが出来る」


 アイトはボーゼンとしながらも、キチンと講義は聴いていた


 「オヤジ曰く、オレの祖父が対人間、対魔獣、対【救世主】用に開発した武術だ。お前にはこの技を伝授しよう」
 「は、はい……お願いします」


 アイトは、ほぼ無意識で返事をした


 「その名も……【壊神拳かいじんけん】だ。さて、まずはコイツを解体して、近くの川でお前のズボンを洗う。ついでに魚も獲っていくか」




 今更だが、斧は武器でなく解体用だった



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