神様のヒトミ

さとう

0・プロローグ



 なんで、どうしてこんなことに


 「………ッ」


 1人の少年が、草むらの中で息を殺していた
 少年はどこにでも居そうな顔立ちだが、その顔は恐怖に染まっていた
 着ている服は今は珍しい学ランだが、買ってからまだ1ヶ月の新品は、所々が破れ傷つき泥だらけ
 周囲の藪に引っかけたのか、破れた学ランから覗く肌は傷だらけだった


 少年は、震えを止められなかった
 何故こんな場所にいるのか、どうして自分は1人なのか
 口元を両手で押さえ、息を殺して潜んでいた


 少年は、襲われ、追われていた


 知らないうちに涙が溢れる
 これは夢なのか、ではこの痛みは現実なのかと自問自答する


 少年が潜む藪は、毒々しい紫色をしてる
 見たことも無いような青い大木に、見たことが無い動物


 そして、少年を追う得体の知れない怪物


 『グゥゥゥ……』
 『ギィィィ……』


 全身が緑色の怪物
 ポッコリと出た腹に、ツルツルの頭部、腰にはボロ布を巻き、手には鋭利な石を結びつけた粗雑な槍
 眼球がギョロギョロ動き、何かを探すように周囲を検索してる


 そんな怪物が、少年の潜む草むらの側を通過した


 全身に緊張を漲らせ、震えるだけでカサリと音がする
 気を失う寸前まで呼吸を止め、怪物が去るまで彫像と化す


 『ギャウゥ、ギャウ』
 『ギャギャウ』


 よく分からない意思疎通をして、怪物たちは去って行く
 遠ざかる足音に、少年はようやく力を抜いた


 「……ハァ、ハァ、ハァ……ふぅ……」


 声を出すのも躊躇った
 何がきっかけで何が起きるか分からない


 「……」


 少年は、ワケが分からなかった


 「何なんだよ、一体……」




 少年は、ここまでの経緯を振り返った




 ********** 




 「藍斗、だいじょーぶか?」
 「……ちょっとキツい」


 長距離移動中のバスの中、神世かみよの藍斗あいとの顔色は悪かった
 バスの席は最後尾、バスに乗車してるのは20人ほど
 向かう先は、バスで2時間ほどの陸上競技場だ


 「ったく、酔いやすいのは治んねーな」
 「仕方ないだろ……体質なんだよ……」


 隣に座るのは同じ中学からの腐れ縁、相羽洋二あいばようじ
 引き締まった顔立ちに、身長も180はある、100メートル走の選手でもある
 高校入学してまだ1ヶ月ほどだが、女子からの人気は厚い


 このバスに乗るのは、高校入学して1ヶ月の1年生
 そして、陸上部に入部したアスリートたちである


 週末を利用して、隣町で管理する大型の競技場で練習するために、朝早くから向かっている途中だった
 服装は全員が制服で、大きなボストンバッグを持ってきてる


 すると、前の座席の同級生が振り返った


 「大丈夫、アイト? アメ舐める?」
 「あ、ありがと……夢見さん」
 「いいって、同じ中学の出身同士、助け合わないとね」


 長い髪を束ねた少女、夢見愛妃ゆめみあいひがハッカ飴を1つくれる
 藍斗は遠慮なく受け取り、さっそく口の中へ


 「おい夢見、オレにもくれよ」
 「はいはい、ほれ」
 「サンキュ……ってハッカ飴かよ、ババくせぇな……」
 「あんだって……?」


 夢見は整った顔を歪め、洋二を睨み付ける
 そんな夢見を宥めたのは、隣にいた少女だった


 「アイヒ、私にもちょうだい」
 「いいけど……美玲はバカにしないよね? ハッカ飴」
 「しないよ、おいしいからスキ」


 どこかのんびりした少女、湯川美玲ゆがわみれい
 陸上選手らしからぬロングヘアをした、可愛らしい少女だった


 「アイト、へいき?」
 「う、うん。平気だよ、湯川さん」
 「ミレイでいい、何度も言ってる」
 「えっと……」


 藍斗は何故か、美玲に懐かれていた
 面識はないはずなのに、入学してから側に居ることが多かった
 美玲は頭も良く運動神経もいい。陸上部では期待のホープとして洋二ともども歓迎されていた


 「アイト、私もこれあげる」
 「あ、ありがと……ゆが」
 「ミレイ」
 「………み、みれい」
 「うん」


 美玲は花のような笑顔を浮かべる
 藍斗は照れくさくなり、思わず顔を背けた


 「ねぇねぇ、アタシを忘れないでよ!! ほらアイト!!」
 「おわっ!?」
 「ぎゃっはっは、修羅場だな」
 「おい洋二、ヘンなこと言うなよ!!」
 「アイト、ジュース飲む?」


 アイヒが大量のアメを差し出し、洋二がゲラゲラ笑い、美玲が飲みかけのジュースを手渡す
 気が付けば、藍斗の気分は良くなっていた


 「危ないッ!!」


 誰かが、大声を出した
 全くもって突然だった




 気が付くと、視界が暗転した




 ***********




 「………う、ぅ」


 何が起きたか分からなかった
 気が付くと、真っ暗な暗闇の中にいた


 「……ここ、は……?」


 何故か、真っ黒な地面の上にいた
 周囲を見回すと、同じように倒れてる人がいた
 全員学生服……どうやらバスに乗っていた生徒たちみたいだ


 「お、おい洋二、起きろ!!」
 「う、うぅぅ……あい、と?」


 思わず大声を出した藍斗
 その声に反応したのか、生徒たちが続々と起き始める


 「アイト、アイト」
 「ミレイ……大丈夫?」
 「うん」


 ミレイが起き、アイトにぴったりくっついた
 何故ここまで懐かれるのか分からないが、今はとにかくそれどころじゃない
 すると、アイヒが起きてアイトの側に来た


 「アイト、ここ……どこ?」
 「俺が知るか……」


 アイヒの質問に答えられるのは、誰もいないだろう


 「確かバスに乗って……隣町の競技場へ向かってたんだよな?」
 「そうだけど、バスも荷物もないじゃん、ワケわかんない」
 「アイト……」
 「み、ミレイ、くっつきすぎ」


 洋二もアイヒも困惑し、ミレイに至ってはぴったりくっついてる
 他の生徒たちも混乱し、何人も声を荒げていた


 何分経過しただろうか、唐突に声が聞こえてきた


 『おめでとう!! あなた方は【救世主】に選ばれました!!』




 次の瞬間、周囲がキラキラ光り出した




 ***********




 「な、何だ……!?」


 いきなりの声に、全員が警戒した


 『おっと、そんなに警戒しなくていい。ボクは【神様】です』


 キラキラした鱗粉のような光が集まり、ヒトの輪郭を作り出していく


 「か、神様……?」
 『そうだよ、相羽洋二クン。キミ達20人は選ばれたのさ』
 「な、なによソレ……」




 『キミ達は全員バス事故で死亡した。だから消滅するはずだった「魂」をコッチに引っ張って、【救世主】として蘇らせたのさ』




 その言葉に、全員が絶句した
 ヒト型の鱗粉は何でもなかったように語る


 『キミ達にはきょ~りょくな【異能アビリティ】が備わっている。本来なら1つしかない【異能】が複数あるスペシャルさ。それらを駆使して世界を救ってくれ!!』


 ワケが分からなかった
 全員、死んでいる? 救世主? どういうコトだ?
 アビリティ? 世界を救う? 理解不能だった


 『キミ達はこれから〔デューク王国〕に召喚される。その前に【異能】について簡単に教えておくね』


 ヒト型の鱗粉は、変わらぬ調子で話を続ける


 『さて、相羽洋二クン。頭の中で異能と念じてごらん?』
 「あ、あびりてぃ……? おわっ!?」


 洋二は頭を押さえて膝をつく


 「よ、洋二!? 大丈夫か!?」
 「な、なんだこれ……《救世の勇者》だって……?」
 『おお、ちょーレア【異能】だね。キミは大当たりだ!! ホラホラみんなもマネしてごらん』


 すると、いろいろな場所から声が上がる


 「《黄金騎士》か、かっけぇな!!」
 「《炎の手》だってよ、なんだこれ?」
 「《知識の図書館》ね。よくわからないけど……」


 あちこちで声が聞こえる。どうやら少しずつ状況を飲み込んできたようだ


 「アイト、私は《銀嶺の聖女》だって」
 「アタシは《奇跡の魔術師》ね。へんなの」


 ミレイもアイヒも【異能】とやらを試したようだ


 『ホラホラ、神世藍斗クンも見てみなよ。どんな【異能】なのかはボクにも分からないんだからさ』


 アイトはこのヒト型の鱗粉に警戒しながらも、言われた通りにする
 この場ではどうしようもない


 「【異能】……う、ぐぅっ!!」




 アイトは頭を押さえ、浮かび上がる何かを見た




 【異能アビリティ
 《森羅万象しんらばんしょう
 ・見たモノの情報を見ることが出来る






 『あっちゃ~……そりゃハズレだね』


 ヒト型の鱗粉は、そんなことを言っていた


 『それは見たモノの情報を知ることが出来るんだ。でも、それだけしか出来ないんだよね~……他にはどんな【異能】がある?』
 「………な、ない」
 『へ? マジで? あちゃ~、ゴメンゴメン、キミはどうやらハズレみたいだ。ごめんね~♪』


 ヒト型の鱗粉は、頭を押さえて軽く謝る


 『さ~て、確認も終わったし、これから〔デューク王国〕に転送するね。そんじゃガンバ!! おーえんしてるよ~♪』


 愕然とするアイトに目もくれず、鱗粉はふわりと散った




 その瞬間、猛烈な浮遊感に襲われ暗転した




 ***********




 「そうだ、ヘンな鱗粉が……」


 ここまで振り返り、ようやくアイトは事態を飲み込んだ
 目覚めたら〔デューク王国〕ではなく、たった1人で奇妙な森にいた
 しばらく彷徨っていると、ワケの分からない怪物が現れたのだ


 「ありゃまるでゴブリンだな……はは、漫画の読み過ぎか」


 ゴブリンから逃げ、何度も転び、ようやく撒いた
 なぜアイトだけこんな森に1人なのか


 「そう言えば……アビリティ? だっけ」


 《森羅万象》とかいうアビリティを思い浮かべ、近くの石を拾い上げる


 〔落石〕
 ・落ちていた石。硬い


 「なんじゃこりゃ……こんだけ?」


 試しに葉っぱを拾い上げ、もう一度見る


 〔ミモバの葉〕 
 ・ミモバの森に生える木の葉
 ・神経毒があり、多量に摂取すると死に至る


 「こわっ!?」


 アイトは葉っぱから手を離し、周囲を見回す


 「ここ、どこだ……ミモバの森、だっけ」


 ザワザワと、恐怖が迫ってくる
 今はまだ明るいが、もし暗くなったらと考えると怖くなる


 「ここから出ないと……」




 アイトは、当てもなく歩き出した



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