神様のヒトミ

さとう

2・現実



 「ちょ、は、えぇ?」


 理解が出来なかった
 目の前に居るのは、誰だ?


 「は? は? はぁぁ!?」


 右目が熱い
 焼けるような熱が溢れ、ドロリとした何かが零れる
 右手で拭うと、真っ赤な血がマグマのように熱かった


 「い、ぎ、が、ぁぁぁぁぁッ!?」


 叫ぶ、ただ叫ぶ
 脳が焼け付くような痛みが広がり、眠気や空腹が消し飛んだ
 アイトは何が起きたか理解出来ず、視界に写る情報を見た


 『ギャギャギャギャギャッ!!』
 『ギャハハハハッ!!』


 下卑た笑い声を上げるのは、醜い緑の怪物


 「は、は、は、はぁ……はぁぁ……」


 腰を抜かし、じりじりと後ずさる
 アイトが見ていたのは、助かりたいがために見た幻覚だった


 「い、ぎっ……でぇぇ……」


 分かったのは、怪物が持つ石の槍で、右目を潰されたこと
 怪物が、アイトを殺すために迫っていること


 「や、やめ……」


 アイトは、残った左目で怪物を見た




 【グ*ん/「。リン】
 ・〔pd^の森〕に済む:7な生物
 ・弱点@:1ない。




 おかしい、『森羅万象しんらばんしょう』が発動しない
 文字化けし、全く答えが分からない


 「く、来るな……来る、な……」


 こんな時、漫画やアニメだったら助けが来るのだろう
 かっこいいヒーローが助けに来たり、異世界人であるアイトが、突如チートな「力」に目覚めて怪物たちをやっつける


 「来るな、来るな、来るなぁぁぁぁぁッ!!」




 しかし、現実は非情であった




 *********** 




 緑色の怪物は、アイトをメチャクチャに蹂躙した


 サンドバッグのように殴り、手足を石槍で突く
 痛みで鳴き声を上げるたび、ゲラゲラと笑う
 腫れ上がった顔から涙が溢れ、意識はすでに手放していた


 怪物にとってアイトは、迷い込んだオモチャに過ぎない
 遊び終わったオモチャは捨てられる


 全く反応を示さなくなったオモチャを投げ捨て、殺す事もなく立ち去った
 別に生きてても死んでても、どうでもいい


 だって、ただのオモチャだから


 『ギャギャギャ、ギャハハ』
 『ギャウウ』


 怪物にしか分からない談笑をしながら去って行く


 アイトはさんざんな姿だった
 顔は腫れ上がり、服は破かれ、右目は潰されていた
 身体中に石槍の刺し傷があったが、石槍が思ったより鋭くなかった事が幸いしたのか、出血は見た目ほど酷くはない。しかし、打撲や打ち身は深刻だった


 「………」


 アイトは、わずかに目を開ける


 声を出すことも出来ず、ほんの少しだけ左目を動かす
 だからどうと言うことはない。ただそれだけ


 現実は、漫画やアニメやラノベとは違う


 ここで誰かが、それこそヒーローや物語のヒロインが助けに来るワケでもない
 あるのは辛い現実。立ち上がり、進まなければ、あるのは死


 「………」


 左目からは、透き通るような涙
 右目からは、濁ったような黒い血


 誰かに会いたくて仕方なかった
 洋二やアイヒ、ミレイに会いたくて仕方なかった


 「………う、ぅ」


 ノドが焼け付き、声を出すのも辛かった
 それでも、溢れる思いをはき出したかった


 「う、うぅぅ……うぁぁ……」


 動かない身体、流れる血と涙
 アイトは絶望に支配されていた




 それでも生きて立ち上がる。死にたくないと思ったから




 ***********




 アイトは立ち上がる。それだけで15分は経過した


 「……」


 喋ることはない
 喋っただけで身体が痛むのだ
 これから前に進むのに、少しでもダメージは軽くしたい
 落ちていた棒を杖にして、幽鬼のように歩き出す


 「……」


 アイトは、進む
 何も考えず、ひたすら歩く
 生への執着のみで歩き、木々の隙間を縫い、藪をかき分ける
 この先が例え断崖絶壁だろうと、アイトは進む


 「……」


 痛みが途中で消えたのは、アドレナリンのおかげだろうか
 身体も軽くなり、ここから先は命を削る
 それでも、歩く


 「……」


 あれから何時間、何日経過しただろうか
 もしかしたら数十分しか経過していないのかもしれない


 「……ぁ」


 だから、これも幻覚なのかと疑う
 これ以上歩くこと、ダメージを負うことは死に繋がる
 でも、それはアイトにとって希望に見えた




 アイトの視線の先に、狼煙のような煙が見えた




 ***********




 アイトは、確実に歩を進めていく
 狼煙の先に何があるのか分からない。もしかしたら先ほどの怪物が、肉でも焼いているのかもしれない
 でも、アイトは進む


 「……ぇ」


 進んだ先にあったのは、小さな集落
 ロッジのような木の家が10軒ほど見え、すぐ近くで火が燃えていた
 まるでたき火のような優しい炎が、アイトの心を優しく包む


 「………」


 1歩、1歩と進む
 炎に向かって、縋るように
 視界が歪み、何かから解放されたような感覚が全身を駆け巡る
 涙が零れ、血も零れる


 「………」




 アイトは炎の近くで倒れ、そのまま気を失った



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