神様のヒトミ

さとう

3・優しい世界



 夢を見ていた……気がする




 『アイト、キミが見る世界はここだけじゃない』




 意識だけが揺らめき、まるでぬるま湯に浸かっているような
 聞こえるのは、どことなく幼い声




 『私の声を聞いて、見て、そして感じるんだ』




 なぜか安心する
 ずっとこのままでいたいような、甘い声




 『キミは私の最後の希望、右の目で黄昏を、左の目でキミの世界を、両の目で虚空の世界を』




 その言葉は、頭に入り抜けて行く




 『まだダメか……いいかい、アイツら・・・・の思惑に乗るな。キミと繋がれるのはまだ先だけど、これから先は辛いことが沢山ある。決してくじけるな、目を背けるな』




 誰だ?




 『その目……『森羅万象』は、物質の情報を得るだけじゃない。本質は^nbyn;。-/*」することが出来る。それはこの世でキミだけにしか出来ない』




 何を言ってる?




 『見るんだ、そして……』




 すると、ぷつりと何かが切れた




 ***********




 ゆっくりと目を開けたアイトが見たのは、ネコ耳だった


 「……」
 「……」


 女の子、だろうか
 顔は幼く、たぶん7歳くらいだろう
 人間そっくりだが、耳だけが猫のように頭にくっついてる
 アイトの顔を覗きこみ、目を開けたアイトを見て固まった


 「おとーさん!! 起きた、にんげんが起きたーっ!!」


 シュバッと立ち上がり、脱兎の如く駆けだした
 甲高い声を上げ、階段を降りていく。どうやらここは2階らしい


 「……あれ」


 アイトはゆっくり起き上がり、激痛に顔をしかめた
 アイトは服を着ておらず全裸だった。パンツすら履いてない
 身体中に緑色の包帯が巻かれ、顔は半分包帯で視界が埋まっていた


 「……あれ?」


 アイトは呆然と周りを見る
 ログハウスのような建物らしく、硬いベッドの上にはワラが敷かれ、そこに布をかぶせてあるようだった。布団とは言えないボロ布が掛けられているのがわかる
 部屋にはベッドと、勉強机のようなテーブル、ベッドの脇には水瓶と柄杓が置いてあり、中には透明な水で満たされていた


 「あ、あぁぁっ!!」


 アイトは柄杓を放り投げ、水瓶に頭を突っ込む
 あり得ないくらい水を飲み、ようやくここで理解した


 「いき、てる……俺は、生きてる……」


 ポロポロと涙が勝手に零れた
 身体の痛み、死の恐怖、そして生き残った現実が溢れ、まるで全てが流れ落ちるように涙となってこぼれ落ちた


 「全く、水くらい落ち着いて飲まんか。もったいない」


 いきなりの声に身体が固まり、視線を向ける


 「身体はどうだ? 腹は減ってるだろ?」


 現れたのは、大きな男だった
 顔こそ人間だが、頭には丸い耳
 ランニングシャツから見える腕は黒い体毛に覆われ、その体毛がほぼ全身を覆っているのが目に見えて分かった


 「心配するな、オレたちは魔帝族まていぞくだが敵意はない。ここにいるのはそんな連中ばかりだ」


 何を言ってるのか分からなかったが、優しげな笑顔は信用できた
 あるいは、アイトの中ではまだ夢なのかもしれない


 「ほら、スープを汲んできた。オレの畑で育てた野菜たちは、町で売ってる野菜より栄養があるぞ?」


 アイトは差し出された皿を受け取り、木のスプーンを掴む
 事態が理解出来ないまま、取りあえずスープを啜った


 「……っ!!」


 温かい
 温かく、ほどよい塩気が口一杯に広がる
 ジャガイモのような、ニンジンのような野菜がハラハラほぐれ、アイトのために消化がいいように作ってくれたことが直ぐにわかった


 「はふ、んぐ、はふっ……あつッ!? んぐ」
 「ははは、まだまだあるから安心しな。ゆっくり……」


 男性は、アイトを見て黙り込む
 皿は空になり、アイトはポロポロ涙を零す


 「お、おれ……し、し、しぬかと……ひぐっ、うぅぅ……こ、殺されるかと……」
 「大丈夫、大丈夫だ」
 「う、うぁ……うぁぁぁぁッ!!」


 熊のような男性は、アイトの頭を優しくなでる


 アイトは泣いた
 男性の胸に縋り付き、ひたすら泣いた




 アイトは、しばらく泣き続けた




 ***********




 アイトは泣き止むと男性から離れた


 恥ずかしくなり赤面する
 そしてようやく話すことが出来た


 「あの、助けてくれてありがとうございます」
 「ああ、よかったよ。まさか〔ミモバの森〕から人間族が来るとはな、あそこは毒の森と言われて、オレたちでも迂闊に近寄らない」
 「……」
 「さーて、聞きたいことや知りたいことはあるが、まずはメシだな。おかわりはいるだろ?」
 「あ……お願いします」


 アイトは空になった木の器を差し出し、男性は受けとる
 立ち上がると、思い出したように言った


 「ああ、オレは熊人のガモン。よろしくな」
 「あ、藍斗……です」
 「アイトか、いい名前だな」


 ガモンはにっこり笑うと階段を降りていった
 アイトはベッドに座ったまま右目を確認する


 「……ない、いや……潰れてるのか」


 怖くて、眼窩には触れられなかった
 痛みもあるが、15歳の少年には、眼球が潰れた事実は余りにも重かった


 「……」


 アイトは試しに水瓶を見た




 〔jr水o:^[〕
 ・/*-^水を.*-




 「……ダメか」


 まるでバグったような情報しか写らない
 唯一の【異能アビリティ】なのに、これでは一般人と変わらない


 「じー……」
 「ん?」


 階段の影から、斑模様のネコ耳が見えた
 ネコ耳はゆっくり上昇し、銀色の髪の毛が見えてキレイな銀眼が見える
 アイトはその様子を見ていた


 「はっ!?」


 目が見開き、シュバッと隠れる
 どうやら気が付かれないように接近していたらしい


 「こらミコト、なにやってる」
 「ひゃうっ!? お、おとーさん、にんげんだよ、にんげんだよ!!」
 「わかったわかった、お前もコッチに来い」
 「わわわ、にゃうぅぅ!?」


 ガモンはネコ耳少女の襟を掴んで持ち上げると、そのままアイトの元へ
 アイトにスープの皿を渡すとガモンはイスに座り、ネコ耳少女を抱きかかえる


 「すまんな、この子はミコト、銀猫人ぎんびょうじんだ。まぁ一応はオレの娘だ」
 「一応じゃない!! あたしはおとーさんのコドモなのっ!!」
 「ははは、すまんな」
 「ふにゃあ♪」


 ガモンはミコトをなでると、ミコトの顔はとろけ出す


 「冷めんうちに食え、食ったら包帯を交換しよう」
 「ねぇねぇ、あたしもスープが飲みたい!!」
 「全く……」




 アイトは穏やかな気持ちになり、スープを再度おかわりした



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