ホントウの勇者

さとう

閑話 静寂書華・【知神シャルム・ビブリオン】



 静寂書華しじましょうかは1人、前を歩く神の後ろを音も立てずに歩いていた
 黄金のヘルメットを被り、豪華なローブを纏う最強の神
 【魔神エルレイン・フォーリア】の後ろを無言で歩く


 『······』
 「エルレイン様、お部屋はこちらです」
 『······うむ』


 彼女は盲目だったが、前を歩く神が城の通路を間違えて進みそうになるのを事前に察知し、落ち着いた声で指し示す


 そしてしばらく無言で歩き、真っ白な扉の前に着く 
 書華はドアを空けてエルレインを中へ促し、自分も入る
 ドアを締めてカギを掛けると、エルレインのヘルメットが音もなく溶けるように掻き消えた




 「あ〜っ、つっかれたぁ〜······」




 黄金のヘルメットの下から現れたのは、可憐な少女
 純白の髪と肌、赤いルビーのような瞳はまるでアルビノ
 ローブを脱ぎ捨て、薄手の下着だけの姿になりベッドへ身を投げる


 「はぁぁ······なぁんでこんなカッコでみんなの前に出なくちゃいけないの? 暑いし蒸れるしもうヤダぁ······」


 まるで子供のように駄々をこねるエルレインに、書華は姉のように言う


 「ほらエルレイン、ローブを脱いだらキチンと壁にかける。それとちゃんと着替えなさい」
 「は〜い。ショーカは厳しいよ〜」


 エルレインは立ち上がりローブを掛け、書華の準備した部屋着に着替えると、今度はベッドではなく備え付けの豪華な椅子に座る


 「ねぇショーカ、お茶にしよっ。それと本を読んで‼」
 「はいはい。ちょっとまってね」


 書華はお茶の準備をし、自分で作ったクッキーを添えてエルレインに出す


 「わはっ、いただきま〜す」
 「召し上がれ」


 エルレインはもぐもぐとクッキーを頬張り、美味しそうに紅茶を啜る
 書華は、その様子を眺めながら質問した


 「さて、どんな物語を聞きたい?」
 「えっと······冒険するお話‼」
 「わかったわ。そうね······うん、これがいいわ」


 書華の右手から、大きな1冊の本が現れる
 分厚く灰銀に輝く本をめくると、書華の中に知識が流れる




 本のタイトルは 【全て知識は全神の書庫ヴァルハラー・ゼーレ・スキエンティア




 神の知識を内包した、この世界最高の知識の書だった




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 静寂書華のかつての家族は、父、母、妹の4人暮らし
 夫婦仲は良くなかったのであろう。言い争いをする父と母の姿をよく見かけた


 そんな中で書華は妹と2人で過ごす事が多かった
 夫婦関係とは別に、妹は活発でハキハキし、友達も多く毎日笑顔で過ごしていた


 そんな日々が続き、書華は中学生へ、妹は6年生へと成長する


 「ほら利華りか、だらしないカッコしないで着替えなさい」
 「は〜い、お姉ちゃん厳しい〜」


 真面目で成績優秀な姉とは真逆に、妹の利華は少々だらしなく不真面目だった
 しかしお互い信頼し、仲良し姉妹として生活していた
 父と母の仲は良くなかったが、姉妹だけは別だった


 この頃になると父の帰りは遅くなり、母が沈んだ顔をすることが多くなっていた


 「お母さん······大丈夫?」
 「平気よ書華······ゴメンね」


 母の顔色は日を追って悪くなり、父が帰らぬ日が増えていく 
 まだ子供の書華には大人の事情が理解出来ず、夜中にこっそり泣く母親を見るのは辛かった


 父は子供たちに興味を示さず、朝早く仕事に出かけるとそのまま深夜まで帰って来ない。酷いときは何日も帰らずにいた


 「お姉ちゃん······お父さんって······」
 「·········」


 書華は、なんとなく気付いていた




 父は、愛人の家に入り浸っていることに




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 心労からか、母親は痩せ衰えていった
 そんな状態になっても父は帰らず、家族は既に崩壊していた


 「お母さん······」
 「ごめんね······書華、利華」


 泣きながら謝る母親を見るのは辛かった
 それ以上に、父親が許せなかった




 親戚の援助でなんとか暮らしていたが、ついに母に限界が来た




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 ある日、書華は学校を終えて帰宅すると、家の様子がおかしいことに気が付いた


 「あれ······真っ暗」


 時刻は午後6時
 電気が灯っていてもおかしくない。というかいつもは電気が付いている


 「······お母さん、まさか」


 書華は、母親が家を出てしまったのではないかと疑っていた
 帰らぬ父、溜まる心労、すべてを投げ出して実家へ帰ってしまう······理由としては十分だ
 自分を置いて行ってしまった。その事実が恐ろしくなり、書華は急いで家に戻った


 「お母さん‼ 利華‼」


 この時間だと利華は既に帰っているはず
 自分を置いて、2人で行ってしまったんだ······と、書華の心は押しつぶされそうになっていた


 書華は急ぎ居間へ
 そして、母親と利華を見つけた






 2人は、既に死んでいた






 母親は、首にコードを巻きつけ首を吊り
 利華は、包丁で心臓を一突きされていた




 「·········え?」




 書華は、理解出来なかった
 机の上には、殴り書きされたメモ用紙


 「耐えられません、さようなら
  1人では寂しいので、利華を連れていきます
  書華、あなたは強く生きて下さい」




 書華の視界は、真っ暗になった




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 失ったものは、とても多かった




 後で分かったことだが、これは母の復讐


 ドラマなどでは離婚して実家に帰るパターンだが、母親は死を選んだ
 死ぬことで父に社会的ダメージを負わせて人生を潰す
 事実、父は愛人から見限られ職場をクビになった
 書華は母の妹へ引き取られ、名字も変わり引っ越しをした
 父が書華に会いたいと言ったが、母の妹がそれを許さなかった






 そして、精神的苦痛から書華は視力を失った  






 妹、そして母の死が脳に焼き付いている
 真っ赤に染まる床、苦しみ抜き死んだ母の表情
 それら全てを忘れるために、書華自身が視力を失うことを選んだ


 歩くのも、大好きな本も読めない
 日常生活すら困難になったが、書華は気にしなかった


 中学では特殊学級に入ったが、書華の成績は普段と変わらず目が見えないとは思えないほど正確に文字を書けたし、コミュニケーションも問題なかった


 なので高校は一般入試を受けて、見事にトップクラスの成績を収める
 勉強に打ち込み、全てを忘れるかのように点字の勉強をする
 高校の図書準備室に点字の本があると言うことで本を借りに行く




 そして、書華は銃斗と出会った




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 書華がエルレインと出会ったのは、ローレライに命令されてエルレインの付き人となった時


 「私が······ですか?」
 「そう。アナタが適任なのよ」


 ローレライの命令は、エルレインの付き人になれというもの


 「し、しかし私は目が見えません。迷惑をかけてしまいます」
 「いえ、アナタしか適任はいないわ。お願いね」


 そう押し切られやむなくエルレインの部屋へ   
 ドアを静かにノックすると、重い声が聞こえてきた


 『入れ』


 ボイスチェンジャーを使ったような声
 書華は震える手でドアを開ける


 「し、失礼します。この度エルレイン様のお世話係を務めさせて頂く、静寂書華です」


 ガチガチに緊張した挨拶
 するとエルレインがゆっくり近づく気配がした


 『······目が見えぬのか?』
 「は、はい。その······精神的なモノで」
 『······どれ』


 エルレインが何をしたのかは分からない。しかし温かい何かが書華を包み込んだ


 「······え、あ」


 見えない目を開けると、そこは花畑
 数年ぶりに見る色鮮やかな光景に、書華は心を奪われた


 そして、そばに立つ2人


 「お、母さん······利華?」


 死んだはずの母と妹
 2人は笑顔で書華を見る


 「お姉ちゃん。元気でね」
 「さよなら、書華」


 絶望を抱いて死んだ母は、晴れやかな笑顔で
 理不尽に死んだ妹は、天真爛漫な笑顔を浮かべて


 「お母さん‼ 利華‼」


 きっとこれは幻、だけど救われた気がした
 手を伸ばした先にあるのは柔らかく、温かい手


 「辛かったんだよね······でも、もうお終い」


 目の前には純白の髪と肌を持ち、ルビーのような瞳の少女


 「貴女は愛されてた。妹は母を1人に出来なかったから、一緒に死を選んだの。だから貴女は1人じゃないわ」


 純白の少女エルレインは、書華を抱きしめる


 「幸せになって」


 書華の涙腺は決壊し、涙は滝のように流れる




 こうして書華は、光を取り戻した




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 書華はエルレインの付き人となり、いくつもの仕事をこなした


 エルレインの付き人として、友として、時には姉として
 死んだ妹みたいに天真爛漫な少女と共にいる


 「エルレイン。楽しそうね?」
 「うん。ショーカのお話は面白いし、それに······もうすぐママに会えるし‼」
 「······ママ、ね」
 「うん。今は私の中で眠ってるけどね、もうすぐ会えるってローレライが言ってたわ」


 エルレインの笑顔が眩しいが、その言葉に書華は不安が隠せなかった


 不吉な予感がする




 書華は、もう二度と失わないために戦うことを誓った





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