ホントウの勇者

さとう

真龍帝国ガウェズリドラ⑰/デーボ溶岩道にて(2)・理解

 
 「このッ!!」


 シェラは狂牛の臀部に槍を突き立てる
 少しでも注意を自分に向ける。まずはミコから引き離す……が


 「な、か、硬いっ!?」
 「ブモォォォォッ!!」


 まるで岩石を突いたような感触
 槍は突き刺さるどころか、わずか数ミリ皮膚を押し込んだだけだった
 しかし、狂牛の注意はシェラに向いた


 「逃げろミコッ!! アタシが引きつける!!」


 シェラは精一杯の声で叫ぶ
 しかし、ミコは弱々しく首を振った


 「ご、ごめ……足が、動けない……」
 「……くっ」


 ミコは足から出血してる
 狂牛の蹄でも掠ったのか、狂牛の前足には血が付着していた
 ミコが動けないなら、シェラが囮になってミコから引き離すしかない


 「こっちだ、かかってこい!!」
 「ハッハッハッハッハ……ブルル」


 しかし、なぜか狂牛はミコから離れない


 「クソ、こっちだッ!!」
 「ブモォォォォッ!!」


 シェラは素早く移動し、ミコの前に躍り出る
 狂牛は興奮しており、真正面からの重圧は凄まじかった


 「コイツ、S+~どころか、SSレートクラスじゃ……」


 シェラは戦慄する
 SSレートは強力なモンスターであり、強さはピンキリだ
 凶暴性や被害によってランクが分けられ、Sレートが繰り上がりSSレートに認定されることもしばしばある
 シェラが戦ったSSレートは、きっと最弱の部類だったのだろう


 「シュン兄ぃ!! カグヤ!! ジュート!!」


 シェラは大声を出すが、近くに居る気配はない


 「アタシが……アタシがやるしかない!!」




 シェラの、孤独な戦いが始まった




───────────────


───────────


───────




 シェラの考えは2つ


 この狂牛を倒すこと、ミコの怪我を治すこと
 ミコの怪我はジュートに治して貰えばいい。幸いなことに怪我は足だけ、出血はあるが命に別状はなさそうだ
 問題は、目の前の狂牛


 正面から向かい合ってみると、その異常がよくわかる
 大きさは10メートルを越え、ツノは頭部に5本も生えている 
 足は6本あり、筋肉は異常なまで盛り上がっている
 全身の皮膚は濃い灰色で、分厚い皮膚は槍の突きを一切通さなかった


 「なら、柔いところを……!!」


 この狂牛は6本足で地面に立っている
 なら、攻撃は5本のツノでの突進のみ。警戒すれば怖くない


 「ブモォォォォッ!!」
 「喰らえッ!!」


 シェラはこの狂牛の最も柔い場所……眼球を狙う
 威嚇のため唸り声を上げたと同時に飛び上がり、隙だらけの眼球に強烈な突きを喰らわせた
 槍は眼球に吸い込まれ、右目を完全に潰す
 シェラは槍を引き抜き、再びミコの前に立つ


 「ブガァァァッ!?」
 「よしっ!! やっぱり知能は低い……このまま視界を奪って一度引くぞ!!」
 「シェラちゃん……」


 ミコの前に立つシェラは、強い自信に溢れていた
 右目を奪われた狂牛は、暴れ回りながら距離を取る
 残った左目でシェラを睨み、助走を付け始めた


 「シェラちゃん、逃げないと……!!」
 「心配するなミコ、お前はアタシが守……」


 シェラは唐突に気が付いた


 守る


 シェラは当たり前のように言った
 大事な友達のミコを怪我させた狂牛
 震えて立ち上がれず、縋るような目でシェラを頼るミコ


 ミコはシェラを信頼してる
 自分を守ってくれる、1人の友達として
 その信頼に答えようと槍を握ると、今までにないモノが溢れてくる


 「………あ」


 シェラは理解した
 守ると言うことは、こんなにも簡単なコトだったと
 重要なのは「力」そのものではない。「力」をどこで、誰のために振るうかが大切だったのだ


 「シェラちゃん、まえっ!!」
 「ッ!?」


 戦闘中なのに、一瞬だが敵を忘れた
 助走を終えた狂牛は、すでにこちらに突進して来てる


 「ミコっ!!」
 「シェラちゃん!?」


 シェラは槍を放り投げ、ミコに覆い被さった
 ミコをキツく抱きしめるのは、ミコだけでも守るという意思の表れ


 「ブモォォォォッ!!」


 狂牛は、すぐ後ろまで迫っていた




 「がんばったな、シェラ」




 ふわりと、柔らかい男性の声
 男性にしては長い銀髪に、腰にはシェラもなじみの青竜刀
 いつもと変わらない微笑は、どこまでも澄んでいた


 「しゅん……にぃ……?」


 だが、その表情が変わる
 シュンガイトが認めた「敵」を屠る表情へと
 凍り付くような殺気と共に、一刃の閃光が閃いた


 シェラには、全く見えなかった




 ワケも分からない内に、狂牛は解体・・されていた




───────────────


───────────


───────




 「す、すげ……ぇ」


 シェラたちから少し離れた岩陰で、俺とカグヤは息を吞んだ


 「お、驚いたか……あ、アレがシュンガイトさまや」
 「……あ、ああ」


 シュンガイトさんは、迫り来る狂牛を解体・・した
 そのまま市場にでも出せそうなくらい、見事な解体だった
 頭部は首から切断され、足もキレイに切断されてる
 身体はキレイに開かれ、内臓がボトリと落ち、背骨に沿うように縦に両断されていた


 剣を振った瞬間に、狂牛は解体された。そうとしか言えなかった


 「ジュート、ミコを治すんやろ? 行くで」
 「お、おう」




 俺とカグヤは岩場から飛び出した




───────────────


───────────


───────




 「よし、これで……大丈夫か?」
 「うん、ありがとう。ジュートくん……あ」


 ミコの足を治し、手を貸して立ち上がらせる
 ムワっとする臭いは、失禁したミコの股間からだ。服が湿ってるのが見えた
 ミコは慌てて魔術を使い、湿った服を乾かした
 すると、俯いたシェラがミコの側に来た


 「ミコ、アタシ……」
 「シェラちゃん、守ってくれてありがとう」
 「み、ミコ……でも、アタシがミコを戻さなかったら、こんなことには……」
 「うぅん、そんなことない。シェラちゃんが言わなくても、私はいずれ戻ってたと思うから。だから、助けてくれたシェラちゃんは、私の命の恩人だよ」
 「ミコ……う、うぇ、うぇぇ……」
 「シェラちゃん……う、うぅぅ……」


 シェラが泣き出すと同時にミコもポロポロ涙を零す
 堪えきれなくなり、2人は抱き合って泣いていた


 「ジュートー、このウシ持ってくで、異空間に収納しておいてや」
 「お前な、空気読めよ」


 カグヤはシュンガイトさんが解体した〔グレーデッドバイソン〕に夢中だ
 どうやらあれも最高級食材らしい


 「シェラ、どうやら理解したな」
 「シュン兄ぃ……うん、アタシ……わかった」
 「そうか。さすがオレの妹だ……」
 「あ……うん、えへへ」


 シュンガイトさんは、シェラの頭を優しくなでる
 その光景は美しかったが、俺は腑に落ちなかった


 シュンガイトさんが、シェラに気づかせるためにミコを利用したからだ


 この〔デーボ溶岩道〕に来た本当の目的は、異常に成長した〔グレーデッドバイソン〕の討伐だ
 ミコとシェラを一緒にすれば、焦れたシェラは必ずミコを1人で帰すだろうと踏んでいた
 シュンガイトさんは雌の〔グレーデッドバイソン〕のフェロモンをミコに仕込み、モンスタ-を襲わせ、上手くいけばシェラがミコを守るだろうと踏んでいた
 もちろん俺とカグヤとシュンガイトさんは近くに待機、万全の体制で待っていた


 まさか、釣れたのが異常種の〔グレーデッドバイソン〕だとは思わなかったが
 ミコが怪我した瞬間に俺は飛び出そうとしたが、シュンガイトさんに止められた
 シュンガイトさんは、たった一言だけ言った


 「シェラを信じよう」


 ただ、それだけ
 それだけで、俺は動けなかった
 シェラを信じなかったワケじゃない。俺はミコのことしか考えていなかった
 カグヤは表情を変えず、シュンガイトさんに従っていた
 怪我をしたミコを見て頭に血が上り、シェラのことを忘れていたのだ


 シュンガイトさんになでられるシェラ、むくれるカグヤ、笑うミコ、微笑を浮かべるシュンガイトさん




 この中で1番弱いのは、間違いなく俺だった



「ホントウの勇者」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く