ホントウの勇者

さとう

真龍王国ガウェズリドラ⑦/本館道場にて・兄と妹



 「サイ」の教室は歩いて15分もかかった。どんだけ広いんだよ


 幼年組の教室の先生に聞いた場所には、やはりデカい建物があった
 入口は観音開きの重そうな木の扉で、扉の上には「釵」と達筆な文字が彫られていた


 「さて、カグヤの練習でも見学するか」
 《……いいけど、今度は平気かな》


 シロは幼児たちに弄られ、少し参っていた
 耳を引っ張られ、尻尾を握られ、身体をもみくちゃにされ……うーん、毛並みがボロボロです


 取りあえず扉を開ける
 ギギギ、と鈍い音がするが、以外と軽かった


 「お、やってるやって……」


 「釵」教室は広く、幼年組教室の数倍はある
 門下生は50人ほどだろうか、男女が交わり全員が胴着を着込み、手には練習用の木の釵が握られている


 しかし、練習をしてる者は誰もいない
 全員が横に並び、道場の中央にいる人物たちを凝視していた


 「シュンガイトさまぁ~、こうですかぁ?」
 「カグヤ、ここはこうして……ほら」
 「えへへ~」


 道場の中央には、カグヤとシュンガイトさん
 「型」を教えてるのだろうか、シュンガイトさんはカグヤを背後から抱きしめるように覆い被さり、両手を取って指導してる
 カグヤはだらしない顔でニヤニヤし、気持ち悪い顔で動いていた


 「やぁん、シュンガイトさまぁ~………あ」


 やべ、カグヤと目が合った
 慌てて逸らすも時既に遅し


 「お、ジュート君じゃないか。見学かい?」
 「えっと………まぁ」
 「………」


 カグヤの目が雄弁に語ってる




 あ・っ・ち・い・け・!!




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 「せっかくだし、キミもどうだい? 双剣とは違うけど、キミにも得るものがあるかもしれない」


 シュンガイトさんはカグヤから離れ、俺に向かって歩いて来た
 おいおい、カグヤの目付きが怖いんですけど


 「えっと······」
 「遠慮しないで、ほら」
 「そうやな、こっち来なジュート。ウチと組手しよか?」


 うう、イヤな予感が


 「はは、カグヤと組手か。良かったら相手をしてやってくれ。オレは他の生徒を見なくちゃいけないからね」


 シュンガイトさんはスタスタと壁際の生徒たちの元へ
 生徒たちは何故か安堵、シュンガイトさんにワラワラと群がって教えを請いてる


 カグヤはピクピクと口元と眉を動かし、俺に向かって微笑んだ


 「ほな行くでジュート、死なんように頑張りや」




 あぁ、ここに来なきゃ良かった




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 「いてて……俺が何をしたってんだよ……」


 カグヤにボッコボコにされ、逃げるように道場を出る
 シュンガイトさんは和やかに見守ってるし、怒りのカグヤの猛攻は恐ろしかった
 カグヤはかなりシュンガイトさんに惚れてる。甘いひとときを邪魔した俺に対する殺意は、それはもう恐ろしかった
 取りあえず、シュンガイトさんが言ってた演習場へ向かう
 何かあったらということだが、恐らくシェラが居るのはそこだ


 《ははは、キミがあんなにやられるなんて、初めて見たよ》
 「言うなよ、女の怒りは身体が竦むんだ。こりゃ男の本能だぜ」
 「そうかな? カグヤはキミをだいぶ認めてるようだよ?」
 「うおっ!?」


 いつの間にか、隣にはシュンガイトさんがいた


 「驚かせてすまないね。そろそろシェラの所へ行くんだが、キミもどうだい?」
 「そうですね、ご一緒します」


 なんか俺、誘われてばっかだな


 「カグヤはいいんですか?」
 「ああ。正直なところ、カグヤにはもう教える事はない。あとはカグヤが実戦で技を磨き練ることだけだ。こんなことを言うのはアレだけど……今のカグヤの相手をできる〔龍人族〕は、オレぐらいのものだ。きっとカグヤも淋しいから、オレの所へ来るんだろう。早くシェラがカグヤと渡り合えるくらい強くなれば、淋しい思いをさせることはないと思うんだが………」
 「え、いや……はぁ」


 いや、カグヤは単純にアナタに惚れてるんだと思うんですが


 「ジュート君、この国に居る間だけでも、カグヤの稽古に付き合ってくれないだろうか? 実力の近い者同士なら、カグヤも淋しくないと思う」
 「あ~、いや……俺じゃなくてシュンガイトさんは……?」
 「いや、オレだと甘やかしちゃうからね。カグヤのためにならない」


 なんとまぁ、この人って鈍いんだな。意外な弱点だ
 それは別として、カグヤのスパーリングパートナーか


 「まぁ俺でよければ。俺も身体を使わないと鈍るし」
 「ありがとう。この道場は好きに使って構わない。カグヤにも伝えておくよ」
 「はい。でも、真龍王ガウェズリドラの〔龍炎〕としての務めは……?」
 「問題ない。〔龍炎〕の役目は、ガウェズリドラ様の有事の際の護衛だからね。普段は自由にしていいし、身体を鍛えるのも勤めの内さ。お、ここだ」


 お喋りの合間に、到着した
 着いたのはこの敷地内で最も大きな建物


 
 「剣龍館」本館道場。兄と妹の修行場だ




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 道場は広大で、床一面が石畳の部屋だった


 シェラは1人、槍を振るっている
 流れるような槍捌き。基本に忠実な「型」をなぞる動きは洗練されており、シェラの腕前が達人であることを感じさせた


 「待たせたね」
 「遅いッ!!」


 シュンガイトさんが声をかけると、シェラは見向きもせずに怒鳴る


 「悪いなシェラ。さっそく始めようか」
 「ああ。シュン兄ぃが稽古を付けるなんて久し振りだし、アタシがどれくらい強くなったか見せてやる。悪いけど、今日がシュン兄ぃの命日だ!!」
 「いや殺すなよ……」


 思わず俺はツッコむ
 シュンガイトさんは木刀を取り出し、シェラに言う


 「シェラ、お前は確かに強くなった」
 「ふん、当然だ!! 誰かを鍛えてばっかりのシュン兄ぃとは違う!! アタシは常に最強を目指してる!!」
 「ははは、耳が痛いな。でも………」






 「自分じゃなく、誰かのために振るう剣は……強いぞ?」






 次の瞬間、シェラが真横に吹き飛んだ




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 誓って言う。シュンガイトさんは俺の真横にいた


 シェラとの距離は15メートルくらい
 結果を言うと、シェラの真横に移動したシュンガイトさんが、シェラの脇腹にを木刀で薙いだ


 「う、ぐげぇぇっ!?」
 「立て、シェラ」


 シェラは吐瀉物をまき散らし蹲る
 防御も、心構えも、全ての準備が整っていない、不意打ちだった


 「しゅ、シュン、にぃ……」
 「思えば、お前をまともに鍛えたことはなかったな」
 「ぐ、う……」


 シェラは立ち上がり、〔龍天牙撃りゅうてんがげき〕を構える


 「はぁぁぁぁッ!!」
 「父さん母さんが流行病で死んだのは……オレが12歳、お前が4歳の頃だったな」


 シュンガイトさんはシェラの猛攻を躱す、躱す、躱す
 全てを読み躱す。恐ろしい技量だった


 「オレは〔剣龍〕になって4年目、仕事にも慣れたし、金の心配はなかった。強いて言えば……お前が、両親の愛情を知らず、オレのマネをして、オレから離れようとしなかったことだ」
 「ぎぁぅっ!?」


 シェラの槍を躱し、棒立ちのような状態で木刀を振るう
 まるで力の籠もっていない1撃なのに、シェラは吹っ飛ばされる


 「オレは父親じゃないし、母親でもない。オレから離れようとしなかったお前を育てるために側に置いた。だから必然とお前も武術を覚え、槍を振るい、あまつさえ〔龍天牙撃〕を振るうまでになった」
 「あ、あぁぁぁぁッ!!」


 シュンガイトさんは、まるで遊んでるようだった


 「強くなるにつれて、お前はオレを見る目が変わった。強いなら、強いから、もっと力を誇示するべきだと、〔剣龍〕であることに誇りを持ち、力を誇示するべきだと」


 少しずつ、シュンガイトさんの攻撃が苛烈になっていく


 「でもな、そんな力はいらないんだ。オレに取っての力は守るための物。守ることが、オレに取っての〔剣龍〕の誇りだ」


 シェラは防戦一方になり、反撃すら出来ない
 シュンガイトさんは木刀1本で、シェラを追い詰めていた


 「いいかシェラ、お前に足りないのは相手を思いやる気持ちだ。力や技術だけじゃない、精神面でお前は〔龍人族〕の誰よりも劣る。カグヤは疎か、ミコちゃんやリュカロにもな」
 「はぁ、はぁ、はぁ……」
 「お前がオレを目標にしてたのは知ってる。お前がオレの「力」しか見ていなかったのなら……責任はオレにもある。だから、オレがお前を導こう。それが兄として、妹のお前に出来ることだ」


 シュンガイトさんは木刀を構える




 シェラの地獄は、ここから始まった



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