ホントウの勇者

さとう

戯遊機塔メガラニカ・マグダーラ⑯/サメ・静かなる森



 ボートは公園の池で乗るような一般的なもので、オールはちゃんと付いていた


 「これで向こうまで行くのか······」


 ゴール地点はかなり遠く、まともに漕ぐと数日は掛かりそうだ
 さすがに海の上での宿泊は避けたい


 《だいじょーぶっ、わたしにお任せっ‼ それっ‼》
 「おぉっ⁉」


 ルーチェが指先から魔力を放つと、ボートの先の海水が盛り上がり形を変える
 透き通るような海水は細長くなり、手ビレと尾ビレが生えてくる。数は3匹ほど


 なんということでしょう、海水はイルカのような生物へ変化した


 「すっげぇ、イルカだ」
 《このコたちに引っ張ってもらえばすぐに着くよ‼》
 「さすがだ。ありがとな」
 《えへへ〜······ふふん》
 《む、ぐぐぐ······‼》


 ルーチェの頭をなでる
 するとルーチェは、ティエルに勝ち誇るような顔をした




 ケンカになる前に、さっさと出発するか




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 水のイルカに鎖を咥えさせ、ボートを引っ張って進む
 俺はボートに腰掛け、ルーチェは俺の膝の上、ティエルは俺の隣に腰掛けた
 小さな人魚を抱きかかえるようにして前を向く


 「おぉ、速いな」
 《でしょ〜》
 《······ふん》


 時速にして2・30キロほどだろうか。速くもなく遅くもなく、のんびりとしたクルージングだ
 しかし、気になることがある


 「これのどこが試練なんだ?」
 《あのね、あたしたちはルーチェミーアの力で進んでるけど、人力であそこまで漕ぐのはかなりキツいわよ》
 「た、確かに。考えただけでゲンナリする」


 すみません、軽率な発言でした。以後気をつけます


 《それに、マレフィキウムが造ったダンジョンが、この程度のはずないじゃない。ほら、来たわよ》
 「へ?」
 《ジュート、後ろ後ろ》


 ルーチェに言われて後ろを振り返る


 「·········はい?」




 海面から3つ、巨大な背ビレが俺たちを追従していた




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 「さささ、サメだぁぁぁっ⁉」
 《ちょ、大声出さないでよ》


 だってサメだぞ⁉ ジョーズだぞ⁉


 《あのねぇ、あんなサメよりSSレートのモンスターの方がよっぽど怖いわよ?》


 ティエルは呆れてるが怖いのは怖い
 人間なんて海中じゃ無力だ。もし海に落ちたら瞬く間にサメの餌になるだろうな


 「るるるルーチェ、スピードアップだ‼ 振り切れぇぇぇっ‼」
 《はーい》


 ルーチェはのんびりとした声でイルカに命令する
 するとイルカのスピードはアップしたが、サメもぴったり着いてきた


 「おいおいおいおい、ヤベーぞ、追いつかれるッ⁉」
 《仕方ない、ここはあたしがやるわ》


 ティエルは立ち上がり、黄金の装飾が施された弓を生み出し、いつの間にか現れた腰の矢筒から光の矢を取り出して構える
 ティエルの姿はまるでキューピットに見えた


 《とりあえず、大人しくしてなさい》


 光の矢を放つと黄金の軌跡を描きながら矢が飛んでいく
 矢はサメのヒレに命中し、痛みからか、サメのスピードがガクンと落ちる
 ティエルは続けざまに矢を放ち、残りの2匹もヒレを撃ち抜いた


 「おおいいぞ、さすがティエル‼」
 《ふふん、もっと褒めてもいいのよ?》
 《むぅ〜》


 俺はティエルの頭をなでてやる
 すると今度はルーチェがむくれた




 が、怒り狂ったサメが怒涛の追い上げを見せてきた




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 「ぎゃあーっ‼ めっちゃ怒ってるーっ‼」


 怖え。サメに追いかけられるなんて経験はない
 どんなに強くても、潜在的な恐怖は拭えない


 《面倒ね。水の中じゃ矢は届かないし······》
 《わたしも海の生き物をやっつけるのはな〜》


 なんでこんなにのんびりしてるんだよ、こっちは喰われるかもしれないってのに


 「えーっと、そ、そうだ‼ 行くぞニュール‼」


 俺は神器を纏い、【機械神化ソウルオブインヘニュール】に神化する


 「よし、コイツで‼」
 《あ、待ってジュート‼》


 ティエルの呼びかけを無視して『紫電雷震砲トルトニス・レール・バスター』を呼び出し構えた


 「おわっ⁉」


 が、突如としてボートのスピードが落ちた


 《ああもう、インヘニュールの神化は重すぎるのよ‼ 前に一度使ったからわかるでしょ⁉》
 「げっ、そういえば⁉」


 しかし、時すでに遅し
 サメは俺たちの数メートル後ろへ来てた


 「うぉぉぉぉっ⁉ 喰われるぅぅぅっ⁉」
 《きゃあっ、ちょっとジュート⁉》


 俺は神化形態のままティエルを抱えて蹲る
 ティエルは抵抗せずに俺を受け入れた
 ちくしょう、ここまでかよ


 《ゴメンね、ほいっと》


 ルーチェが何やら呟いたがどうでもいい
 これから俺はサメの餌になる。喰われたらスタート地点に戻るのだろうか、それとも死んでしまうのか


 《ジュート、どうしたの?》
 「······へ?」


 ルーチェの声が聞こえる
 サメの噛みつきがやって来ない
 俺は恐る恐る振り向く


 「·········」
 《あーっ、ティルミファエルずるいっ》
 《ふふ〜ん。ジュートに抱きしめられちゃった》


 ルーチェとティエルは何やらケンカしてる
 しかし、俺の視線は真上に向いていた


 ボートの上に巨大な水球が浮き上がり、その中をサメが泳いでいた
 どうやらルーチェの魔術らしく、サメたちのいた海域を、丸ごと掬い上げて閉じ込めたようだ


 《ジュート、わたしも抱っこしてよ〜》
 《ダメよ、今はあたしの番だからね》




 ハァ······なんかすっごく疲れた




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 海中では無敵のサメも、空中では無力


 サメを連れたまま小島へ向かう
 途中で巨大なウミヘビやエイ、なぜかウニが襲ってきたが全て撃退した
 ルーチェの「海中すくい取り」殺法に、モンスターは為す術もない


 それから数時間、俺はルーチェとティエルを抱っこしたまま小島へ到着した


 「あ~……やっと着いた」
 《楽しかったね~》
 《ふぅ、翼が濡れちゃったわ。お風呂入ろうっと》
 《あ、わたしも入る~》
 《そうね、じゃあマレフィキウムの所へ行くわよ。じゃあまたね、ジュート》
 《ばいばいジュート、また遊ぼうね!!》


 そう言い残し、2匹とも消えてしまった
 なんだかんだで仲がいいのね


 「う~ん、もう1階層行くか」


 どうせ帰っても1人だし、時間はお昼前くらい
 ちょっとムリをして進んで腹を減らし、お昼は豪勢に肉にしよう




 俺は8階層へと進む事にした




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 〔戯遊機塔メガラニカ・マグダーラ〕8階層・【静かなる森】
 クリア条件・ゴールを目指せ(ボーナスステージ)


 なんだこりゃ。ボーナスステージ?
 扉の向こうは穏やかな森が広がり、日差しも柔らかく気持ちいい
 森は長い1本道で、危険な気配は全く感じない


 「ボーナスステージね、そういうことか」


 どうやらここは何もない
 ゆっくり進んでゴールを目指すだけのステージだ。ラッキー


 《ジュートさ~ん、おいらたちも一緒でいいっすか?》
 《ギ・ギ・ガガガ》
 「お、クライブにニュール」


 珍しい組み合わせだ
 俺の脇を飛ぶクライブと、地面をキャタピラで進むニュール


 「よし、せっかくだし一緒に行くか」
 《はいっす!!》
 《ギガガ》


 こんな機会めったにない
 海の上では神経をすり減らしたし、日光浴がてら歩こう




 俺たちはゆっくりと歩き出した




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 《んん~……ここの樹液は甘くて美味しいっす。ジュートさん、空き瓶ありませんかね?》
 「いやないよ……いっぱい吸っとけ」
 《ギギガガ・ガガガ》


 クライブは樹液を吸いながら進むので、なかなか先に進まない
 ニュールはキュラキュラ音を立てながら進む。以外と森林風景にマッチしてる


 「あ、ガソリンは足りてるか? 足りなきゃ出すけど」
 《ギギギギガ・ガギガ》
 「え~っと……」
 《大丈夫、ありがとう。って言ってるっすよ》
 「そっか、足りなかったらいつでも言えよ?」


 俺はツルツルの金属質の頭をなでる
 するとニュールは嬉しそうに頭をグルグル回した


 ダンジョンでこんなにまったり出来るとはな
 マフィの約束の階層まであと2つ。それが終わったら〔龍の渓谷〕だ


 せっかくだし、もう1階層上に進むかな



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