ホントウの勇者

さとう

戯遊機塔メガラニカ・マグダーラ⑫/慈愛・無意識



 〔戯遊機塔メガラニカ・マグダーラ〕4階層・【亡者の行進】
 クリア条件・ゴールまでたどり着け


 扉の先にあったのは、暗い夜道だった
 腕輪のクリア条件を見ても、ロクなことはなさそうだ


 「真っ暗だね、兄さん」
 「ああ。大丈夫か、コノハ?」
 「······はい」


 コノハは、俺の背中に失禁したことを悔やんでる
 話しかけると目を逸らし、頬を染めてなんとか返答するって感じだ。やりにくい


 「暗いけど、どうやら一本道だし、さっさと進もう」
 「はーい」
 「······はい」
 『キュッ‼』


 亡者の行進。どう考えてもヤバいイメージしかない
 早くここを抜けて、今日は帰ろう




 俺たちは少し早足で進み出した




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 「やっぱそう来たか⁉」
 「わぁ、ガイコツがいっぱい」
 「······ですね」


 一本道の先、松明を掲げたガイコツが、規則正しい並びでこちらへ歩いてきた
 道幅びっちり、まさにガイコツが敷き詰められてる
 脇を通り抜けることも出来ないし、天井も狭いので飛んでいくのもムリ。なら簡単だ


 「コノハ、ぶっ壊すぞ‼」
 「はい。お任せを」
 「あ、ちょっと待って」


 俺とコノハは武器を構え、数百メートル先のゴールまでガイコツを蹴散らす覚悟をした
 いざ突撃、という瞬間にリリが俺たちを引き留めた


 「なんだ、ここは任せてハミィから降りるなよ」
 「ううん、もしかしたらなんとかなるかも」
 「リリ?」


 リリは少し考え、俺とコノハに語る


 「あのね、ずっと前に歌を歌ったときに、ゾンビみたいなモンスターや骨みたいなモンスターが、溶けてなくなっちゃったことがあるの。コノハはその時いなかったから知らないと思うけど、たぶん私の歌で成仏したんだなって思って」


 なにそれ、この世界にも成仏って言葉があるのか


 「は、初耳です」
 「ごめんね、心配かけたくなくて言わなかったの」
 「もしかして……〔ガガテロ村〕の児童養護施設での帰りに、かわいいモンスターを追いかけて行ったときですか?」
 「う、うん。その……その時にモンスターに出会っちゃって、でも襲ってこなかったし、悲しそうだったから、元気になる歌を歌っただけだよ?」


 コノハの視線はちょっとキツい
 どうやらリリが隠し事をしてたことを咎めてる……が、今はそんな場合ではない


 「お、おい。とにかく行こうぜ、リリの歌を試してみよう」
 「はい、では話は後で」
 「は~い。じゃあ行くよ、よろしくねハミィ」
 『キュウッ!!』


 ガイコツの集団下校みたいな群れに、俺たちはゆっくり近づく
 ハミィは揺れないように大きなジャンプを自重し、小さく小刻みに進む
 俺とコノハはハミィの少し前を両サイドから固めるように歩く。これならどんな状況も対応できる


 「ガイコツさん……ゆっくり休んでね……」


 リリの慈愛の歌声が、周囲を包み込む
 俺もコノハもリリの美声に酔いかけるが、ガイコツに集中する


 「お、おぉ……」
 「これは……」


 前の列から、ガイコツが静かに崩れていく
 崩れた骨は溶けるように掻き消え、その場には何も残らない




 気のせいか、ガイコツたちは喜んでいるようにも感じた




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 あっさりとゴール
 ガイコツは全て消滅、戦闘行為も一切なし


 「よかったぁ、ガイコツさんたち、ゆっくり休めるといいね」
 「あ、ああ……」


 リリは天使のような笑顔を浮かべ、俺に向かって微笑む
 これだけの力……まさか


 俺はリリのステータスを再確認した


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 【リリティアラ】 歌姫
 【レベル4】
  体力E 60
  攻撃力E 25(+20)
  防御力E 5
  俊敏性E 3
  魔力S 56800
  属性【白】


 【装備】
  武器 【スタンロッド】+20
  防具 なし
  アクセサリ 【青花の髪留め】


 【特殊】
  1・『銀麗讃歌シルバーレイ・ラプソディア
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 「な……これって、まさか」
 「兄さん?」
 「ジュート殿、これ……」


 俺は迷わず、リリの【特殊】項目をタッチした


 『銀麗讃歌シルバーレイ・ラプソディア
 【白】・【白】・【白】の融合ブレンドであり、『固有属性エンチャントスキル
 【効果】
 歌声を聞いたモンスターを行動不能にし、アンデッド系モンスターを即死させる
 モンスター以外の生物が聴くと、魅了の効果を発揮する




 リリは、無意識で【特級魔術】を行使していた




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 「と、【特級魔術】だと······⁉」
 「あ、ホントだ。でも私、魔術なんて使えないよ?」


 リリはのほほんとしてる
 しかも【白】属性。状態変化系の魔術だ
 恐らくだが、キチンと指導をすれば、かなりの魔術師に化けるだろう


 「リリは無意識で魔術を行使していた。俺やリリが自覚して確認したから、名称が現れたのか?」
 「う〜ん、私は別にいつも通りだけど」


 わからん。でも凄いことだ


 「なぁリリ、リリさえ良ければ、俺が魔術を教えてやろうか?」
 「ホントに⁉ なんか面白そう‼」


 うーん、ブランみたいに天真爛漫だ
 もしかしたら、ブランと仲良くなれるかもな


 「ジュート殿、今日はこの辺りで引き上げましょう」
 「だな、マフィとの約束の階層まであと半分だし、そろそろ腹も減ったしな」
 「魔術まじゅつ〜」




 浮かれるリリをなでつけ、今日は引き上げる事にした




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 ダンジョンから戻ると、入口にフレイミュラがいた


 「ハァ、ハァ······ま、まだ行けます」
 「お嬢様、これ以上の無理は······」


 メイドさんがフレイミュラを支え、執事は後ろで控えてる
 どうやらこっちもダンジョンの帰りらしい。それにしてもボロボロだ


 「フレイミュラお姉ちゃん‼」
 「え······り、リリティアラ⁉ なぜここへ⁉」


 リリはハミィに乗ったままフレイミュラに近づく


 「ひどい怪我······大丈夫?」
 「ええ、平気よ」


 フレイミュラはリリの頭をなでる
 するとリリはフレイミュラに抱きついた


 「り、リリティアラ?」
 「いたいのいたいの、飛んでけー······」


 するとリリの身体が淡く発光し、フレイミュラの身体を優しい光が包み込む
 俺は驚愕してその光景を見つめた


 「バカな⁉ せ、【無垢なる光セイファート・ライフ】だと······しかも、ほぼ無詠唱で、なんてこった······⁉」


 ブランですら最初は詠唱を必要としたのに、リリはほぼ無詠唱、しかも俺は何も教えていない。恐るべき才能だった


 「リリティアラ······あ、あなた、【白】属性······」
 「フレイミュラお姉ちゃん、もうへいき?」


 フレイミュラと執事とメイドは驚愕してる
 リリは相変わらず輝くような笑顔だ
 俺はとりあえず、ややこしくなる前に切り出した


 「り、リリ。とりあえずメシにしようぜ」
 「そ、そうですね。フレイミュラ様、申し訳ありませんが、失礼します」


 コノハも空気を読んだのか、俺に同調してくれた


 「フレイミュラお姉ちゃん、またね。行こっかハミィ」
 『キュウ』


 リリはハミィに跨り、俺たちの元へ




 俺たちはそのまま、近くの飲食店に入ることにした




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 「こういう場所で食べるの初めてかも」


 リリはのん気に飲食店を見回してる
 俺たちか入った飲食店は、簡素な木造造りの小屋だ
 4人座りの円卓が3つにカウンターが4席で、かなりこじんまりしてる。畳もうと思えば半日で終わるだろう
 地面も土のままだし、メニューも単純なものしかない
 ちなみに、ハミィは外で雑草をモシャモシャ食べてる


 「俺は······ホットサンドでいいや」
 「私も同じものでお願いします」
 「私は〜······うん、兄さんと同じで」


 みんな同じかーい
 まぁいいか。その代わり夜に期待する


 待つこと3分。3人分のホットサンドが運ばれてきた
 具材には、肉や野菜だけでなく焼いた魚の切り身なんかも使われてる。こりゃ美味そうだ
 俺たちは早速食べようと手を伸ばす


 「いただきまー」 
 「失礼、よろしいでしょうか」


 フレイミュラが現れた
 全然よろしくない。とりあえず待ってくれ


 「あ、フレイミュラお姉ちゃん」
 「リリティアラ、先程は助かりました」


 リリとフレイミュラはにっこりとやり取りをしてる
 すると突然、フレイミュラは真剣な眼差しを俺に向ける


 「貴方にお願いがあって参りました」
 「はぁ······俺に?」
 「はい。聞けば貴方はフィンテッドが一目置く冒険者だとか」


 そうなのか。なんか恥ずかしいな


 「フィンテッドの試験まであと2日······どうか、私を鍛えて頂けませんか?」
 「鍛えるって······2日でどうにかなる問題じゃないと思うけど」
 「構いません。僅かでも強くなれるのなら、手段は選びません。どうかお願いします」


 うーん、鍛えるってどうすれば
 2日足らずでどうしろと。フレイミュラの場合、1年は欲しい
 するとリリが言う


 「兄さん、お願い」


 リリに言われると断れない
 これで退路は断たれた。やるしかない


 「わーったよ。その代わり、スパルタで行くからな」
 「······覚悟は出来ております」




 ま、やれるだけやるしかないか



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