ホントウの勇者

さとう

閑話 病川薬実 ・【病神パララティア・プドラ】



 病川やまいがわ薬実やくみたちは、〔美食の町イーティア〕で腹ごしらえを済ませ、次の町へ向かうことに


 「いや~、まさかラーメンがあるとはな。こりゃどう考えてもジュートの仕業だろ」
 「ですね。それに屋台を見つけた時はビックリしました」
 「だね、それに屋台のオジサンは無月くんのコト知ってたし、それに麺打ちの師匠が水萌だなんてね」
 「全く、わけわかんないわ。無月のヤツ、寄り道ばっかしてるじゃん」
 「……まぁ旅をエンジョイしてるのは間違いないねぇ、アタシたちみたいに」


 病川の一言に、全員が苦笑い
 剣吾たちはこの美食の町で3日ほど情報収集という名の食べ歩きをしてる
 町の中央付近を歩いていたときに、ラーメンの屋台を見つけて驚いた
 のれんには平仮名で「ら~めん吉兵衛」と書かれていてさらに驚いた


 「どうする? 次の行き先は……〔魔術師の町ブルグレート〕か、少し戻って〔細工の町ベネレド〕だけど」


 三重の言葉に一同は悩む
 銃斗がどちらへ向かったか手がかりはない。この町にいたのは間違いないが、ラーメン屋のオヤジも行き先までは聞いていなかった
 解決策を出したのは、喚生だった


 「順当に行けばブルグレートですが、ベネレドに向かわなかったという根拠はありません。なので遠回りになりますがベネレドを経由して王都へ向かい、そこからブルグレートへ向かうというのはどうでしょう? もしかしたらそのままどこかで鉢合わせになるかもしれませんし」


 つまり、ブルグレートを最後にして、回り込むように王都へ
 そこから順に町を巡り、最後にブルグレートへ向かう
 銃斗がブルグレートへ向かっても、最後はどこかで巡り会えるというルートだ


 「そうだな、それで行こう。さすが喚生だな」
 「はい。もっと褒めて下さい」
 「お、おう」


 ピッタリと寄り添う喚生に、女子3人は反応する




 ギャーギャーと騒ぐ5人は、普通の冒険者にしか見えなかった




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 町を出て数日。剣吾たちは〔細工の町ベネレド〕へ到着した


 「ここは銀細工で有名な町だって。高級品から庶民のアクセサリまで、幅広く取り扱ってるってさ」
 「へぇ……ま、興味ないな」


 煌干の言葉に剣吾は興味を示さなかった
 ちょっと期待した煌干だったが、剣吾の言葉に肩を落とす


 「そんなに大きくない町だし、ここはバラバラで行動しよう。3時間後に集合な」


 剣吾は全員にそう言って歩き出す
 4人は顔を見合わせたが、剣吾の真剣さに報いるため、真面目に情報収集することに




 病川は、この町を治める貴族の屋敷へ向かった




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 「……なるほど、ねぇ」


 病川は、聞き込みしながら町を歩き、この町を治める〔フェンゴフ家〕の前に来た
 この貴族は何代も続く有名貴族で、王からの信頼も厚い貴族。しかし、現当主の女癖がたたり、住人からの信頼はイマイチ低い


 現当主には正妻の他にも妾が16人いる
 すでに隠居した前当主が、誕生日のたびに妾を連れてくるのが恒例になっている
 子供も生まれて跡継ぎは何人もいるが、現当主は子供にあまり関心を示していないようだ


 病川は、銃斗の情報を集めながら、こんな情報も仕入れていた


 「……歌姫の少女、ねぇ」


 現当主30歳の誕生日、王都の貴族ルノー家の4女を妾として貰ったが、4女が婚約を破棄し脱走した
 16歳の歌姫をいたく気に入った現当主は、追っ手を差し向けたが逃げられた、ということだ


 「……胸糞悪い。当主も、ルノー家とやらも」


 集めた情報では、歌姫であるリリティアラを嫁がせ、王との結びつきが強いフェンゴフ家と密接な関係になりたいがための縁談だったそうだ


 16歳という、病川より2歳も年下の少女
 しかもその少女は歌姫と呼ばれ、【灰の大陸】にある施設や孤児院などで歌を披露しながら回っていると聞く
 そんな少女に突如舞い込んだ縁談、しかも本人の了承なしの政略結婚
 30歳の、会ったこともない男との結婚。病川でも逃げ出す




 最悪なのは、ルノー家は全ての罪をリリティアラに着せた、という事実だった




 別に、病川はリリティアラなんて興味ない 
 ただ、いいように使われ捨てられる
 そんな、まるで自分たちの未来・・・・・・・・・・みたいな光景に胸を痛めていた


 「………ふん」




 病川は、静かにその場を後にした




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 「ダメだな、どうやらハズレみたいだ」
 「……すみません」


 5人は集合し、情報を共有したが、銃斗に関わる情報は得られなかった
 喚生が謝るが剣吾は優しく諫める




 5人は1泊し、王都へ向けて歩き出した




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 順調に進み、ようやく【王都グレーバシレム】へ到着した


 8大陸で最も栄えてる王都は混雑し、店や建物も近代さを感じる
 歩く種族は様々で、獣人や翼人なども多く見られた


 「それにしても大きいな……さすが王都だ」
 「ここを探すのは大変だね」
 「ですが、コツコツ行くしかありませんね」
 「そーね、じゃあ今回はグループを分けて……」


 三重がグループ分けを提案するが、病川は手を上げた


 「ごめん、アタシはちょっと行くところがあるから」


 その言葉に、4人はポカンとした
 来たばかりの5人に行く場所などあるはずがない


 「ちょ、何言ってんのよ薬実」
 「そうだよ、どうしたの?」


 三重と煌干が言うが、病川はすでに歩き出していた


 「一体何が……?」
 「………ほっとけ、大丈夫だろ。俺たちも行こうぜ」
 「じゃ、じゃあグループ分け!!」




 話し合いの結果。グループは1対3、つまり剣吾1人と女子3人で分かれた




 女子3人は肩を落とし、トボトボと歩き出した




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 「それで、リリティアラの行方は?」
 「分かりません。〔盗掘の魔林〕へ向かったという情報もありますが……」


 「全くあのコは……使えないわね」
 「ふん、歌ばかり上手くても、この家には必要ないわ」


 「それで、リリティアラの乳母は?」
 「とっくにクビにしたわ。町外れのぼろ屋にいるんじゃない?」


 ルノー家の屋敷では、リリティアラの悪口がブームとなっていた
 ルノー家は貴族の歴史も浅く、王家とのつながりも薄い低級貴族。フェンゴフ家と繋がりを持てば、上級貴族として名を馳せるチャンスでもあったのだが、リリティアラのおかげでその話は消え、むしろフェンゴフ家の顔にドロを塗ったとして責任を追及されていた


 ルノー家の当主であり、リリティアラの父親は、すぐさまリリティアラを捜索
 その命を持って償わせることをフェンゴフ家に約束していた


 「リリティアラに関わる全てをこの屋敷から処分しろ、私物から使用人、とにかく全てだ。あいつはもうルノー家の人間ではない」




 これはもはやルノー家当主の口癖となりつつあった




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 リリティアラに関わる全てを処分し、ルノー家全員で食事をしていた晩のことだった


 食事が終わり、デザートも終えてお茶を飲んでいた当主に連絡が入ったのだ


 「……リリティアラが、見つかっただと!?」
 「はい。リリティアラ様は現在、〔秘境マホロバの里〕で確認されました。側には護衛のコノハ、そしてリリティアラ様が雇ったと思われる冒険者がいるそうです」
 「連れ戻せ!!」


 突然の怒声に家族はもちろん、手紙を読み上げていた執事も驚いた


 「どんな手段でも構わん、暗殺者でも、傭兵でもなんでも構わん。ここへ連れてこい!!」


 怒り狂い、怒鳴りつける
 家族の中で、リリティアラはすでに家族ではなかった


 「リリティアラの首を落としてフェンゴフ家に見せつける。その首を落とし前としてこの件に決着を付けるぞ。そうすればフェンゴフ家も理解してくれるはず。こちらの誠意をな」
 「そうね、悪いのはリリティアラだし、仕方ないわね」
 「やれやれ、コノハはどうする?」
 「構わん、始末する」


 ルノー家は1つになり、ようやくフェンゴフ家に顔向けが出来ると安堵した


 
 「……ふん、腐ってるね。ほんっとに臭いわ」




 突如、聞き慣れない少女の声が響いた


 「誰だ貴様……衛兵はどうした」


 ウェーブの掛かった長い髪。少し虚ろな表情
 なんとなく顔色が悪そうな少女だが、瞳は怒りに燃えていた


 「……アンタ達、胸糞悪いのよ。自分たちの娘を何だと思ってるの?」
 「何だと……おい!! そのガキをつまみ出せ!!」


 当主は大声を出して衛兵を呼ぶ……が、誰1人現れない


 「ムダよ、アンタ達ルノー家以外、全員苦しんでるから」
 「な、何だと……」


 病川薬実は、右手をそっと自身の顔へ
 右手から黒いモヤが現れ、顔を静かに覆い尽くす


 「な、な……!?」


 居間に集まっていたルノー家16人は、その圧力に動けなかった
 病川の顔には、得体の知れない仮面が付けられていた






 「蝕め、『魔空瘴気ガルガンチュア』」






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 「……よう」
 「………」


 ルノー家の門の外で、剣吾が声をかけた
 まるで、全て分かってる……そんな表情で


 「終わったのか?」
 「……うん」
 「許せなかったのか?」
 「……うん」
 「そっか、じゃあ行くか」
 「……うん」


 病川は、剣吾の胸に飛び込んだ


 「なんだか、分からなくなったの」
 「……」
 「アタシ達も、同じなんじゃないかって、このまま利用されて、捨てられるんじゃないかって、だから……」
 「大丈夫だ」
 「……え」
 「俺がいる、俺がいる限り、お前らを不幸になんてしない。俺が絶対にお前らを守る」
 「………」
 「煌干も、喚生も、三重も、お前も……俺が絶対に守る」
 「……ほんとに?」
 「ああ」
 「ウソじゃない?」
 「ああ」


 剣吾と病川は、この日初めてキスをした


 この日を境に剣吾は変わった
 4人の少女に思いを告げ、4人の少女たちの思いを受け入れた


 
 王都は広い。銃斗が現れるまでまだ時間はかかりそうだ



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