ホントウの勇者

さとう

秘境マホロバの里⑥/愛紡ぐ・送る言葉





 買い物を終えやって来たのは〔鍋道楽・カニ園〕


 午前中にリリが予約を入れていたらしく、すんなりと中へ入ることが出来た
 俺とリリが以前食べた部屋は2人用の個室だったが、今回は多所帯なため、かなり広い個室。横長の十二畳ほどの和室だ
 今回はガスコンロが2つ、すでに大鍋もセットされてる


 「失礼します、お飲み物はお決まりでしょうか」


 仲居さんがドリンクオーダーを取りに来たので全員注文、大鍋に火がつけられ、追加のカニや野菜が運ばれて来た


 「おお〜、やっぱり美味しそ〜」
 「お嬢······コホン。リリ、お行儀が悪いですよ」
 「えへへ、は〜い」


 全く似てないけど姉妹みたいなやり取りだな


 「カニかぁ。今度マフィちゃんの所でもお鍋やりたいね」
 「確かに。でも黎明が1人で食べ尽すわよ、きっとね」
 「確かに〜、アイツ食い意地張ってるしね〜」


 うーん、こっちも仲良しで実にいい
 そして飲み物が全員に行き渡り、乾杯をして食べ始めた


 「コノハ、こうやって······パキッと」
 「おお、さすがリリですね」
 「カニ爪も〜らいっ」 
 「あ、括利ちゃんずるーいっ」
 「全く、仲良く食べなさい」


 いやぁ美味い、実に美味い。華やかな女の子たちに囲まれながら食べるカニはまさに絶品だね


 「所でジュート、さっきギルドで面倒な依頼を受けたと言ってたけど?」
 「ん? あぁ、実は······」


 ここで事情説明。試験官うんぬんを語る


 「へぇ、ジュートくんが試験官かぁ。なんかスゴいね」
 「だね〜。さっすがS級」


 水萌と括利は褒めてくれるけど、正直あまり嬉しくない


 「ジュート、試験内容は?」
 「えっと、面談と直接戦闘と、指定モンスターの討伐と素材の入手だったかな」


 サザンカさんがそんなこと言ってたっけ


 「······なるほど、ジュート殿は直接戦闘担当ですか。確かにこれ以上の適任はいませんね」


 コノハがカニ脚をもぐもぐ頬張りながら言う。どうやら気に入ったようで、コノハの皿にはカニ脚の殻がたくさんあった


 「でも、兄さんに怪我してほしくない」


 リリは嬉しいことを言ってくれる。でも両手でカニ爪を持ちながら言うのはちょっとね


 「まぁ明後日に打ち合わせがあるから、そん時に詳しく聞くよ」




 俺はカニの殻を剥きながらそう答えた




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 翌日。俺は武器の手入れでもしようかと思い、全装備を取り出す


 【死の輝きシャイニング・デッド】・【雄大なる死グロリアス・デッド】・〔マルチウェポン〕・〔カティルブレード〕と、投げナイフは別にいいか
 俺はナイフを磨き、〔マルチウェポン〕と〔カティルブレード〕を分解してゴミを取り除き研磨する
 マフィの作ったナイフは傷が付かないので磨くだけ、他の2つも汚れを落とすだけで新品同様だ


 「うーん、終わっちまった」


 30分で終わった。やれやれ、早すぎだろ
 みんなもお出かけしてるし、散歩でも行こうかな
 そんなタイミングで引き戸が開いた


 「ジュート〜」
 「あれ、括利? 買い物に行ったんじゃ?」
 「ううん、今日はジュートとまったりしたくって。いい場所見つけたから行こ〜」
 「いい場所?」
 「いいからいいから、早く早く」




 括利に押されて外へ出る。何だよ一体?




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 「······ここって」
 「ゆっくりするにはサイコ〜の場所でしょ?」


 里の少し外れにあったのは、こじんまりとした一軒家。似たような作りの家が等間隔で並び、どことなく怪しい雰囲気を作り出してる
 入口にはプレハブのような小屋があり、なぜかパチンコの換金所みたいな受付になっていた


 「大人2人で〜す」
 「はい。時間は?」
 「1日でお願いしま〜す」


 括利はカードで支払いを済ませると、俺の腕を引っ張り中へ




 ここって······ラブホじゃん




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 「ほらジュート、お風呂もあるよ〜」
 「お、おう」


 室内はそこそこ広く、木で作られた風呂に洗面所やトイレもあった。まるで旅館の1室だな


 「それで、なんでここに?」
 「そりゃもちろんリラックスのためだよ?」


 首を傾げてニッコリ笑う。かわいい


 「ジュート、いろいろ溜め込むと身体に悪いからさ、ぜ〜んぶスッキリ出しちゃいなよ。あたしが受け止めてあげるし、気持ちよくしてあげる」


 括利は両手を広げて俺に言う
 思えば、括利が1番俺と身体を重ねた回数が多い。単に性欲の発散ではなく、包むような、受け止めるような優しさを何度も感じた
 括利なりの愛情表現は、身体を重ねること
 確かに、性行以上の愛情表現はないかもしれない


 だったら俺は甘えよう。そして、括利を包むくらい強くなってやろう
 彼女の旦那として、かっこいいところも見せてやりたい


 「ありがとう、括利」
 「うん。来て」




 俺は括利を抱きしめ、静かに押し倒した




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 それから、お昼も食べずにハッスルし、気がつくと夕方


 「そろそろ帰るか、ハラ減ったしな」
 「うん。キモチ良かったね〜」
 「ああ、最高だった」


 最後は2人で風呂へ入って家を出た
 夕暮れの空を眺めながら、僅かに吹く風が火照った身体を覚ましてくれる


 「今日はコノハと水萌が作るって言ってたな」
 「うん。コノハちゃんが水萌ちゃんにいろいろ教わりながら作るって言ってたよ」


 手を繋ぎながら他愛のない話をして歩く
 今日1日で、俺はだいぶ癒やされた気がする




 ゆっくりと歩きながら、今日の夕食に思いを馳せる




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 屋敷へ帰る途中、小さな公園を見つけた


 「公園、いや······霊園か」


 どうやら墓石は1つしかなく、重要な人物が葬られたお墓のようだ。銅像と大きな石碑が祀られていて、誰でも自由に入れるようだ


 「ジュート、これって······」
 「ま、まさか······⁉」


 括利が注目したのは、入口にある石の門
 そこには日本語が彫ってあった


 『マホロバの里・初代長老 倉識くらしき文吾ぶんご


 石に彫ったのは、風化しないようにか


 「この人が、〔神の器〕だったのか······?」
 「入ってみよっか?」


 俺と括利は霊園の中へ進み、石碑の前に来た
 作られた銅像は、立派な着物を着たおじいさんだ。何歳の頃からいるのかわからないが、ここで死んだのは間違いない


 「ジュート、これ······日本語だよ⁉」
 「ホントだ······」




 石碑には、こう彫られていた




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 『この文字を読める故郷の同胞たちへ


  私はついに故郷へ帰ることが出来なかった。
  【神】に翻弄され、弄ばれ、辿り着いたのはこの田舎の里
  得体の知れない私を、ここの人たちは受け入れてくれた
  この世界も悪くない、だけど故郷を忘れることはできない
  だから私は、出来る限り故郷を再現した
  私と同じように、【神】に翻弄される同胞たちのため
  苦しむ同胞たちが、少しでも安らぎを得られるように
  だから同胞たちよ、故郷を忘れずに生きて欲しい
  この里が、同胞たちの故郷となって欲しいと願う


  私の魂は、同胞たちと共にある 倉識くらしき文吾ぶんご




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 俺はいつの間にか、石碑に手を伸ばしていた
 括利は俺の腕にしがみつき、涙を流している


 「······帰ろうか」
 「······うん」




 この里へ来て、本当に良かった



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