ホントウの勇者

さとう

秘境マホロバの里④/コノハは一緒・家族



 「わぁ、かっこいい人がいっぱい」
 「お、おいリリ、帰るぞ」


 案の定、目立ちまくってる
 こんな中でも冒険者はフル装備。鎧兜に剣に斧、弓に槍に魔術の杖。ここだけ完全に別世界だな
 俺たちのカッコじゃ浴衣に雪駄の観光客が迷い込んだようにしか見えない。視線が痛い


 「え~っ、兄さんもS級なんだから、依頼を見るくらいいいでしょ~」
 「り、リリ……」


 視線が痛い。S級と言う単語に何人か反応した、しかも胡散臭そうに
 よく見ると冒険者のドッグタグは銀色が多い。どうやらA級がたくさんとB級も僅かにいた。視線が痛い、そろそろ致命傷だ


 「と、とりあえず着替えてから来よう。そうしよう」
 「じゃあちょっとだけ依頼を見ようよ~」


 う~ん、リリの甘えがハンパない。かわいい
 リリは依頼掲示板に向かい、俺も仕方なく後を追う


 「え~っと、お料理の補助に皿洗い、〔ブクブク実〕の採取……いろいろあるね」
 「確かに。もういいだろ、行こう」
 「は~い。あ、じゃあ昨日の露店に行こ!!」
 「はいはい。夕飯前だから少しだけな」


 俺はリリを連れてギルドから出ようとする。すると


 「あんさん、S級ってのはホンマ?」
 「え?……あ、はい」
 「わぁお、すっごい美人」


 俺を呼び止めたのは、着物をバッチリ着こなした美女
 キセルを咥え、手には扇子……いや、鉄扇を持っている。長い黒髪を束ね、浴衣からは色っぽい胸元がチラリと覗く、まるで花魁のような、賭場でサイコロをを弄ってそうな女性だった


 「あ、あの。何か?」
 「ふふ、かわえぇ嬢ちゃんやなぁ」
 「わわ、ど、どうも」


 女性はリリの顎に人差し指を添えクイッと上げる。おいおい何だよ
 すると女性は俺に向き直り、ニンマリ笑った


 「あたしは〔マホロバ・冒険者ギルド〕のマスター、サザンカや。よろしゅう」
 「え!? ギルドマスター!?」


 俺は思わず聞き返す。だって全然見えなかったから


 「あっはっは、よう言われるわ。それよか、あんさん……S級ってホンマ?」
 「えっと、一応。はい」
 「ほぉ、黒のドッグタグ……照合してもええ?」
 「はぁ」


 俺はタグを渡し、受付のお姉さんが照合する。すると確認が取れたようでサザンカさんは再び笑った


 「疑って悪かったなぁ、それで早速やけど、あんさんに依頼があるんや」
 「さっそくですね……それって今じゃなきゃダメですか?」


 俺は両手を広げて浴衣アピール。ついでにリリの存在も


 「う~ん、あたしはえぇけど、他の連中がやかましそうやなぁ。わかった、じゃあ明日でええか?」
 「え~っと、それって俺じゃないとダメなんですか?」
 「そうなんや、S級のあんさんが適任なんやわぁ。お願いや」


 S級ねぇ、まぁ別にいいけど


 「わかりました。明日で良かったらお伺いします」
 「それでえぇ、頼むわぁ」




 取りあえずここから出よう。視線で死ぬ




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 露店で買い食いし、日が沈んだ頃。俺とリリは屋敷へ戻る道を歩いていた


 「ギルドマスター直々の依頼か、なんだろう?」
 「う〜ん、怖いモンスター退治とかかなぁ。兄さん、怪我しないでね」
 「ありがとう、リリは優しいなぁ」
 「わわ、えへへ」


 俺はリリの頭をポンポンとなでる。柔らかい髪がふわりと揺れ、いい匂いがする。俺は変態か


 「さて、今日の夕食は?」
 「今日はコノハとミナモが作るって‼ ミナモはコノハの知らない料理をいっぱい知ってるの‼」
 「おお、そりゃ楽しみだ」


 はしゃぐリリにせっつかれ、早々に帰宅した




 さて、晩飯を食べたらコノハと話さなきゃな




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 今日の夕食は山の幸のフルコース。天ぷらや和物、山菜鍋など体にいい食材ばかりだ


 「それでね、兄さんとカニを食べて、その後ギルドで」
 「お嬢様、食べてからお話下さい。ちゃんとゆっくり聞きますから」


 コノハの微笑は深く、慈愛に溢れている。まるで母親のような温かみを感じる
 リリの兄さん発言に少し眉を潜めたが、俺が後で話すというとあっさり了承した


 食事が終わり、各々が自由な時間を過ごす中、俺はコノハの元へ向かった


 「コノハ、ちょっといいか?」
 「はい。それではこちらへ」


 コノハの部屋にはリリがいたが、疲れたのか布団に丸くなって寝てる。なんか猫みたいだな
 コノハは立ち上がり部屋を出て、俺を先導して歩く。そして着いたのはなんと風呂場だった


 「······えっと、何故に風呂場?」
 「はい、マトメさんが言っていました。大事な話をするときは〔裸の付き合い〕がいいと、腹を割って話すには風呂場がいいと」
 「······なんじゃそりゃ」


 コノハは脱衣所に入ると、躊躇なく服を脱いで裸へ
 全てをさらけ出し、俺に向き直る


 「お嬢様は、今日1日で輝くような笑顔をしておられました。そしてジュート殿に対する「兄さん」発言、ぜひとも話を聞かせていただきい」


 羞恥の欠片もない、純粋で真っ直ぐな気持ち
 コノハにはリリしかいない、だから俺は誤魔化さない。リリのこれからはコノハのこれからでもあるからだ


 「わかった。最初から全部話す」


 俺も服を脱いで全裸へ。恥ずかしいけどスゴく元気だった


 「それでは浴室へ。お背中をお流しさせて頂きます」


 コノハの視線は下半身に向かったが、特に興味もなさそうに浴室へ······あれ、耳が真っ赤だ




 よし、俺も風呂へ入ろう




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 身体を洗い湯船に浸かる
 空は満点の星空、空気も澄んでいて心地良い
 俺はリリと同じ話をコノハにした


 「······そうですか、お嬢様は」


 コノハはそれだけ言うとしばらく黙り、やがて話だす


 「私の家は、代々ルノー家に仕える護衛一家で、私も小さな頃から護衛として育てられてきました。リリティアラお嬢様に使え始めたのは8歳の頃、お嬢様は6歳の頃でした。歳が近いのと、同じ女の子同士と言うこともあり、お嬢様はすぐに懐いてくれました」


 コノハは立ち上がり、岩の縁に腰掛ける。湯が滴る身体は美しく扇情的であり、俺は目を奪われた


 「あれから10年······長いような、短いような。楽しかった思い出は数しれず、そしてこれからも」
 「コノハ?」


 コノハは俺に顔を向け、柔らかい微笑を浮かべた
 立ち上がり、頭を下げて言う


 「お嬢様の帰る場所、そして私の帰る場所は、ジュート殿のお側です。これからもよろしくお願い致します」


 俺は我慢できずに立ち上がり、コノハを抱きしめる


 「任せろ、俺たちは一緒だ」
 「······はい」


 ヤバい、なんか恥ずかしいな。いろいろ当たってるし、当ててるし
 コノハも気が付いて顔を赤くしてる。マズい


 「あ〜っ、やっぱりここにいたっ‼」


 すると、今度は全裸のリリがやって来た
 俺たちは慌てて離れ、リリの登場に目を丸くする


 「もぅ、お風呂入るなら起こしてよ〜」
 「申し訳ありません、お嬢様」


 コノハは湯船から出るとリリの身体を洗い始める。石けんを泡立て、スベスベの背中を優しく洗う


 「ねぇコノハ、兄さんからは」
 「はい。全て聞きました、お嬢様」
 「そっか、じゃあ一緒?」
 「はい。私はお嬢様と一緒です」


 笑顔の2人。けど、俺は何となく気になり、湯船の中からコノハに言った


 「なぁコノハ、その「お嬢様」っての、もうやめてもいいんじゃね?」
 「······え?」
 「だって、リリはもうルノー家のリリティアラじゃなくて、俺たち家族のリリティアラだろ?」


 すると、リリは嬉しそうにコノハに言う


 「そーだよ、兄さんの言う通り。コノハも私のことリリって読んでよ‼」
 「え、えっと······その、急には難しいかと」
 「じゃあ試しに1回呼んで、お願いコノハぁ」
 「う、うぅ」


 コノハは緊張してるのか、そっぽ向いていポツリと言う


 「り、リリ······うぅ」


 ま、最初はこんなモンだろう
 コノハに抱きつくリリと、恥ずかしそうにあやすコノハ
 俺にとっての新しい家族




 俺は満点の星空を見上げ、温かい気持ちに包まれた



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